第8話 聖魔事変〜交錯〜(6)
そんな感じにロゼはヒナギと出会った経緯を話す。
ヒナギから借りたという魔獣は、ネリィという名前のヒナギの使い魔だそうで、今はロゼに懐いているのかロゼに擦り寄っている。その光景に、「あんま他の奴には懐かないんだけどな」とヒナギは不思議そうに眺めていた。
とりあえず落ち着いたという事もあり、ルナ達は改めて自己紹介をする事にした。
今ここにいるのはルナ・リーシャ・フォーリア・ロゼの聖なる魔法少女隊、魔王ヒナギを筆頭にその魔王軍幹部の死霊術師ユリウス・妖狐ナロ・ユリウスの副官カルメアの8人である。
「ったく、ボスも侵入に加担してくれればもう少し楽だったぜ?」
「せやなぁ、…………少なくともこの馬鹿に振り回される事もなかったんとちゃうん?」
と幹部の二人はご飯を食べながらボスこと魔王に愚痴を言う。
食べ物はロゼの送還用馬車に蓄えてあったので、それらを頂いている。無論、囚われていてマトモに食事を取っていないルナ、仲間を助け出すためにひたすら奔走していたフォーリア、元々食い意地の張っているリーシャもその食料にありついていた。
「お前らも知ってるだろ?俺は魔力が高すぎるが故に、聖王国に入った段階でバレちまう。そうしたらコイツらを助ける事なんて無理になってたさ」
と笑いながらヒナギは言う。
「あの国は目には見えないけど、国全体を強大な魔道具で結界を張ってるんだ。過度な魔力の放出は一発で検知され、瞬く間に聖騎士共がやってくる」
なるほど、だからユリウス達は潜入するにあたって魔力を使うのは避けていたのか。あの爆発も時限式の爆弾を使ったって言ってたし、とルナは一人納得する。
こんな風にヒナギ達から聖王国の事を色々と聞き、やがて話は『これからどうするか?』にシフトしていった。
「まず間違いなく、私達は聖王国から追われる事に今後もなりますよね」
とフォーリアは顎に手を添え呟く。
「俺も聖王国や親父、町の皆を裏切った事になってるからなぁ…………。とりあえずどこかで身を潜めてほとぼりが冷めるのを待つのが良いんじゃねえか?」
ロゼはフォーリアに呼応してそう提案し、ルナとリーシャもこの案に賛成した。そうすると次は何処に向かうのかという事になるのだが、
「ねぇ…………。それなら一度、私とフォーリアの集落に戻っていいかな?」
リーシャが恐る恐る手を挙げてそう提案する。
「私の事もあるから今後、集落のみんなにも危険が及ぶことになると思うの。だから前もってその事を話しておきたいし、集落の結界の中なら暫くは安全に過ごせると思う。………………それに、」
ここまで言ってリーシャはチラッとヒナギの方を見て、
「お父さん、ずっとヒナギさんが私の本当のお父さんを殺して国を滅ぼしたって勘違いしてるみたいなの、…………だから私その誤解を解いてあげたい」
リーシャのこの言葉にヒナギは驚いた様に目を見開いた。
「…………俺の事信じてくれるのか?」
「私達のことを助けてくれたし当然だよ」
「………………ありがとう、俺は君たちの事を守ると誓うよ。この魔王の名に賭けて…………」
ヒナギはリーシャの瞳をじっと見つめ、そしてルナ達にそう告げるのであった。
▽▽▽
そうしてルナ達とヒナギ達は、リーシャ達の故郷であるエルフの集落へ向かう事にする。
ネリィの足は普通の馬よりは格段に速いとはいえ、やはり時間がかかってしまう。なるべく早く集落に着いた方が良いとの事で、ヒナギが別の魔獣を用意するとのことだ。
ヒナギはネリィの側に行き、ネリィの額に手を添える。するとネリィは黒い光に包まれ、何処かに転送されたかのように姿を消す。そして続け様に手のひらを地面に向け、魔力を高めていく。それに呼応して地面から魔法陣が浮かび上がり、やがて一匹の白馬が現れた。その馬はペガサスなのだろう。先程のネリィと同格の大きさを持ちつつ、角は無いものの、背には立派な両翼がついていた。
「待たせたね。コイツも俺の大事なペットで名はルリィだ。コイツなら全員を馬車に乗せてもハイスピードで空を移動することができる」
そう言ってヒナギはルリィというペガサスを連れてくる。ネリィが禍々しい漆黒の毛並みなら、ルリィは神々しい純白の毛並みである。その触り心地良さそうな毛を撫でてみたく、ルナはルリィに近づいた。
「あっ!ルリィだけど…………」
焦った様にヒナギが何かを言いかけた瞬間、
「ガブッ」
「ルリィはネリィ以上に気性が荒いから、俺以外が近づけば問答無用に噛み付いてくるぞ」
「それを早く行ってー!」
噛まれた手をブンブン振り回しながらルナはそう言った。
因みにこのルリィにも何故かロゼは気に入られ、毛並みをもふもふしてるロゼを見て、「「「ありえない(ねぇ)(へん)」」」とヒナギ・ユリウス・ナロは驚き、「ずるい…………」とルナは嫉妬した。