第2話 エルフの集落(1)
「それでルナさんはどうしてこの森に来たの?」
俺に背おられながらエルフの少女は尋ねる。
「正直ここがどこなのか分からないんだよね。気づいたらこの近くの花畑に倒れていて、とりあえず歩いてたら爆発音が聞こえて煙が立ち上っているのが見えたからこの森に来たんだ。」
俺は異世界から来たことは伏せ、とりあえず今までの事を簡単に説明する。
ゴーレムを倒した後、さすがにエルフの少女を怪我させたまま放ってはおけなかったので、俺は彼女と行動を共にすることにした。聞くところによると、彼女の住む集落がこの近くにあるそうなので、とりあえずそこまで送るつもりだ。
「ごめんなさい。ホントは怪我も治してあげたいんだけど、治癒魔法は使えないんだ。」
「だ、大丈夫です!こうしておぶってくれてるだけでも凄く助かります。それに私たちエルフは自然回復力が高いので、後は集落にある薬草を少し使えばこのくらいすぐに完治します!」
とエルフの少女は答えた。
俺はまだ魔法少女の姿のままなので、おぶる事にはなんの問題も無い。欲を言えばエルフの少女諸共空を飛べば楽なのだが、こうも木々が繁っている場所で翼を出すと木々を何本か薙ぎ倒してしまう。エルフの少女からこれ以上森にダメージを与えたくないと言われたので、こうして歩いて集落に向かうことにした。
「そういえばまだ私の自己紹介をしていなかったですね。」
エルフの少女はまだ名前を言ってなかったことを思い出し、
「私の名前はリーシヤ・ロゼルスタン。みんなからはリーシャと呼ばれるのでそう呼んでもらえる嬉しいです。」
「OK、リーシャと呼ばせてもらうね。リーシャもその集落に住んでるエルフなの?」
「はい、私はこの森を管理しているエルフの集落の族長の娘です。この度のお礼は集落に着いたらおもてなしとしてさせていただきたいので、是非とも我が集落で休まれていってください。」
とリーシャは俺の体を後ろからをきちんと抱きしめ、俺の背中に揺られながら道案内をし、それでいて申し訳なさそうな表情をする。
「本当に重くないですか?この程度の怪我なら歩けますので、降ろしてもらっても大丈夫ですよ。」
リーシャは助けて貰った上に背負ってもらってることに罪悪感を感じたのかそう言ってきた。しかし、その申しげに、
「大丈夫、大丈夫!私が好きでやってる事だから気にしないで!」
と首だけリーシャの方に向け、笑顔で答える。
困ってる人がいれば助けるのは俺の信条、というのもそうなんだが、このリーシャって娘、その…………、おっぱいが凄く大きいんだよなぁ。初めて見た時もそのおっぱいに少し目を奪われたが、こうして背負うとよりおっぱいの大きさと柔らかさが伝わってくる。こんな容姿でも俺は一応男だ。こんな綺麗な女の子に大きいおっぱいを押し付けられればまぁ、興奮するし嬉しいものだ。これは役得と思ってこの幸福をしばし堪能するとしよう。
当然俺の事を女だと思っているリーシャは、俺がそんな事を考えているとは微塵も思っておらず、「それなら良いのですが…………」とそれでも申し訳なさそうに言う。
「そういえばさっき、この森はリーシャ達の集落が管理してるって言ってたよね?この森にはさっきみたいなゴーレムに襲われる事もけっこうあるの?」
俺は少しでもリーシャの罪悪感を減らそうと気になっていた事を質問し、話題を変えることにした。
「いえ、この森はエルフが結界を張ってる聖域なので心の悪しき者は入る事ができません。ですので普通の動物はいても、害をなす魔獣や敵は簡単にこの森に侵入できないのです。」
「ならあのゴーレムは一体?」
「私も実物を見たのは初めてなのですが、恐らくあのゴーレムは私の集落を含むこの地域一帯を治める領主様の物です。集落の族長である父上から、最近周りが物騒なので領主様から森の守備を強化する為の守護獣を借りたと聞きました。その守護獣があのゴーレムなのでしょう。そのゴーレムが何かのトラブルでエラーを起こし、私を敵と判断して襲ってきたのだと思います。」
「おいおい、それって守護獣として欠陥すぎないか?」
「普段ならありえないことなんです。でも最近この集域でおかしい事が頻発してるので、それと何か関係してるのかもしれません。」
「おかしな事?」
「話せば長くなるので続きは集落に着いたらにしましょう。………………ほら、見えてきましたよ!」
リーシャはそう話を切り上げ、背中から手を伸ばし前方に指を向ける。その指の先には森の出口が見え光が差し込んでおり、うっすら小さな門のようなものが見えた。
「とりあえずここまで来れたら後は歩けます。本当に色々とありがとうございました!このまま私の集落と家へご案内しますね!」
そう言ってリーシャは俺の背中から降り、俺の前を歩き始める。よく見るとリーシャの右足から出血は止まっており、怪我もある程度は回復しているようだ。
|(本当にエルフは傷の治りが早いんだなぁ。……それにしてもあのおっぱいの感触ともお別れか…………)
俺は背中のあの感触を名残惜しみつつ、リーシャの後を追いかけた。
▽▽▽
「お帰りなさいませ、リーシャ様!」
門の前に着くと門番らしいエルフがリーシャに敬礼をする。門番の様子を見るにリーシャがこの集落で偉い立場にいるのが俺にも伝わってくる。
「…………!リーシャ様!その怪我はどうされたのですか!?」
門番のエルフがリーシャの足を見て驚き、声を荒らげる。出血は止まり、歩ける程には回復してるとはいえ、血の跡は拭っていない為、リーシャの右足は傍から見たら大怪我をしたかのように見えるのだろう。
「ちょっと森でトラブルがあってね………。この方が助けて私を集落まで連れてきてくれたの。」
リーシャはそう門番に説明し、俺の事を紹介する。
「おぉ。それは誠に感謝致します!リーシャ様は我ら集落にとって大事なお方。貴方様は我らの恩人です!ささ、どうぞ集落へお入りください!」
門番は俺に向けても深々とお辞儀をし、そして門を開けた。リーシャと俺が門を通る時もビシッと敬礼姿を崩さず、俺達が門を通り過ぎたタイミングで門を閉じた。
「やっぱり族長の娘となると立場も大変そうだね。リーシャの足を見たあの門番さん、顔が真っ青になってたよ。」
「心配してくれるのは嬉しいんですけど、私的にはもっとくだけてくれた方が楽なんですよね。気を遣われるのはどうも苦手でして…………。」
「族長の娘って事はここのお姫様みたいなものでしょ?それなら仕方ないんじゃない?」
「もうルナさん!私はお姫様なんてそんな大層なものじゃないですよ。」
とリーシャは俺のからかいに可愛らしく口を膨らませ反応してくれる。
そんなリーシャの反応に俺は笑って返し、集落の中を見渡した。集落と聞いていたのでこじんまりした場所を想像していたのだが、集落の中は意外と広く、建物も結構な数が建っていた。そして通りには多くのエルフが歩いおり、
「あら、リーシャ様。こんにちは!」
「あっ!リーシャ様だ!」
「これはこれは!リーシャ様、御機嫌よう。」
主婦っぽいエルフから小さい子供、はたまたご年配のエルフに至るまで、リーシャはすれ違う多くのエルフから挨拶され、リーシャがみんなから親しまれているのが伝わってきた。一方俺の方には物珍しそうな視線を向け、軽く会釈をしていく。
「ルナさんごめんなさい。この集落は基本的にエルフしかいないから、エルフ以外の種族は珍しいのよ。でも私の傍にいれば警戒される事は無いと思うから、慣れるまで少し我慢をお願いします。」
とリーシャは俺にまた申し訳なさそうな表情を向ける。
「まぁ私もここの人達の立場だったら、いきなり知らない人が来たら驚くだろうし仕方ないよ。」
と俺はさして気にしてない風に装ってリーシャに答える。しかしリーシャは俺の答えに驚いたような表情を浮かべこちらを見る。
「あれ?私なんか変な事言った?」
「あっ、いえ…………。」
リーシャは困ったような表情をし、
「私達エルフの事を人と呼ぶ者と初めてお会いしたので…………。少々、…………いえかなり驚きまして。」
とリーシャは答える。そしてリーシャは言うべきか言わないべきか悩んだのだろうか。少しの間考え込み、
「ルナさん。お気分を悪くさせてしまったら申し訳ありませんが、私たちエルフと事を他で"人"と呼ばない方がいいですよ。変な誤解を相手にさせてしまうかもしれませんし………。」
と俺に忠告をした。当然俺はこの世界の事を何も知らない。この世界にはこの世界なりの事情があるのだろう。俺も「あぁ、分かった」とリーシャに答える。
その後俺とリーシャの間に何となく気まずい空気が流れたが、やがて目の前にこの集落で見た中で一番大きな建物が見えてくると、
「あっ、ルナさん!あそこが私の家です。今日のお礼も兼ねて目一杯おもてなしさせていただきますので、是非とも寄っていってください!」
と自分の家を指さして、リーシャは俺に笑いかける。
「うん!私もこの辺りの事何も分からないから、お誘いありがたく受けさせてもらうね!」
俺もリーシャに笑いかけ、リーシャに先導されてリーシャの家にお邪魔することにした。