第7話 聖魔事変〜前哨戦〜(7)
王と呼ばれた人物は気付けばそこに居た。姿を見せた途端、ルキアート始め、ミラージェとアイシェン三人の聖騎士は跪く。
その王とやらはゆっくりと歩き始め、やがてロイターの隣に立つ。
「面を上げなさい」
王は聖騎士達にそう告げる。小さい声だがハッキリと聞き取れ、この部屋は先程とは別の緊張感に包まれた。
王は俺、そしてリーシャの順に顔を見る。
「……先程の雷帝との戦いは観させてもらった。まだ拙い部分は多いが、この先素晴らしい戦力になり得る…………」
と何故か良い評価を貰えた。
王の言葉にルキアートは安堵した表情を浮かべた。
しかし次の王の言葉は、
「戦力というのは魔王軍としてのだ。この者は我が国の脅威となるかも知れない存在だ」
と冷徹な視線をこちらに向けてそう告げる。そしてその視線をリーシャへ移し、
「そしてエルフの姫君、伝承によれば、コレの存在に関してはやがて世界を破滅に導く存在となる。両者とも放置は出来ん」
と言った。
そしてその言葉に反応したのは、
「お言葉ですが王よ」
1歩前に出て再度跪いたルキアートだった。
「逆に言えば彼女らをこの国で抱えれば、魔族・魔王軍への大きな武器となるのではないでしょうか?」
と王に発言する。そう言ったルキアートの体は少し震えている。如何にルキアートとはいえ、王に対して反論をするのは只事ではないようだ。
そんなルキアートの言葉を受け王は、
「………………炎帝は何を言っているのだ?」
と意味が分からないという表情を浮かべ、
「そもそも魔力を有している時点で魔族ではないか」
とあまりに理不尽なこの裁判の判決を下した。
そしてそのまま王は次の言葉、…………命令を発する。
「炎帝、人類の敵であるこの魔族共を殺さず、制圧しなさい」
その命令を受け、ルキアートは目を閉じ、一呼吸置いた後、
「悪いな…………、せめての情だ。一瞬で終わらせる」
そう言ってルキアートは手に持つ聖武器の槍に炎を纏わせ、そのまま俺の方へ走り出す。
俺は抵抗しようと武器を構え直すが、ルキアートの攻撃は俺が何かをする前に俺の体を斬り付け、そこで俺の意識は途絶えた。
▽▽▽
「ルナさん無事かなぁ……」
エルフの少女は友達である魔法少女を思いやる。リーシャもまたルナと同様、自分の身より同じく囚われの身のルナの方を案じていた。
リーシャはあの時の事を思い出す。ルキアートさんとミラージェさんによってルナさんとフォーリアが倒された後、王様は次のように指示を出した。
「この執事は利用価値があるな。ひとまず手当てをし、意識が戻り次第この国から追放せよ」
とアイシェンさんに伝え、そのままフォーリアを連れて部屋を出ていく。
「この男は良い働きをしてくれた。…………が、乱心して何をするか分からない。とりあえず数日はこの城で客人として扱いなさい」
とロイターさんに伝える。
ロゼさんは意識はあるものの、抜け殻のように呆然としており、ロイターさんに促され退室した。
「そこの女は例の所へ連れて行け」
その言葉にルキアートさんは何とも言えない表情をし、ルナさんを背負ってどこかへ去っていった。
そうして部屋には私とミラージェさん、王様だけが残される。
「さて、エルフの娘よ。そなたには聞きたい事がいくつかある。…………が、それは後日にするとしよう。雷帝、ひとまず隔離しておけ」
と言い残し、気付いた時には王様の姿は部屋から消えていた。
「それじゃあ悪いけど〜、付いて来てもらうよ〜」
そう言われ抵抗できない私は今いる部屋へと連れてこられた。
「ここはどこなんだろう?」
私は今いる部屋を見渡す。所謂牢屋なのだろうが部屋の中は明るく、手足も特に拘束はされていないので、自由に動き回ることが出来た。とはいえ部屋の出入口は頑丈に施錠されているので、抜け出す事は無理そうだ。
これからどうしようと考えている時、
コツン、コツンと聞き慣れた足音が聞こえてくる。定期的に食事や飲み物を持って来てくれる、看守の足音だ。
部屋といい食事といい、裁判の時に言われた言葉とは正反対の待遇を受けている気がして不思議でしょうが無い。
|(看守さんが来たら聞いてみようかな)
そう考え、看守が部屋を開けるのを待つ。
しかし足音が部屋の前で止まった途端、
バタンッ
と何かが倒れる音がした。
何かと思い扉の前に近づくと、
「やっと見つけたぜ…………。世話かけさせるなってぇの」
と言い、煙草を吸いながら魔王軍幹部、ユリウスが部屋に入って来た。