第7話 聖魔事変〜前哨戦〜(4)
裁判を始めると言った男はこちらをまじまじと眺め、
「申し遅れましたが、私はロイターと申します。恐縮ながらこの国で国王補佐並びに執務大臣を任せて頂いてます。以後、ご見知りおきを」
そう言ってロイターという男は礼をする。一見礼儀正しそうに見えるが、口調や表情からこちらを下に見ているとは嫌でも伝わってくる。本人はそれも分かってこの態度をとってると思うので、余計にタチが悪い。
「えーと、裁判?ですか?」
俺はそう聞き返した。すると、俺が言葉を発した途端、
「誰が喋っていいと言いましたか?」
とロイターは急に無表情に冷たく言い放ち、右手を挙げる。そしてその瞬間、
俺の右腹部に強い衝撃と痛みが襲いかかり、俺は壁の方へ思いっきり吹き飛んだ。
何が起きたのか分からず、あまりの痛みに俺は呻き声をあげる。
離れた場所からは リーシャの悲鳴とフォーリア、ロゼの心配する声が聞こえてくる。そしてその直後、
「おいミラージェ、どういうつもりだ」
とルキアートの怒気が籠った声が聞こえてくる。声のした方へ何とか顔を向けると、ルキアートがミラージェさんの襟元を掴んでいた。
そんなルキアートの行動を、さして気にしてない様な表情を浮かべ、
「まぁ〜、ルキアートには〜、悪いけど〜。この子達の尋問をするって話は〜、前もって大臣さんから聞いてたんだよね〜。それに〜、合図があったら〜、容赦なく〜、制圧しろ〜、って指示されてたんだ〜」
とヘラヘラしながらルキアートに答える。
「んだよそれ…………、俺は聞いてないぞ!…………おい!てめぇも知ってたのか!?」
とルキアートはアイシェンさんに怒鳴りつける。
それにアイシェンさんは、
「当たり前だ」
とドアに寄り掛かりながら、つまらなさそうに応える。
「ルキアート君、少し騒がしいぞ…………」
そんなルキアートの行動に対して、ロイターは一言そう言った。その言葉にはルキアートも逆らえないようで、ルキアートは悔しそうな表情を浮かべつつも、
そこから黙った。
そんなルキアートに満足したかのように、ロイターは「うんうん」と頷く。そして今度は嫌な笑みを浮かべながら俺の方を見て、
「いつまでそこにうずくまっているのだ?裁判だと先程言ったであろう?早く元の位置に戻らんか」
と嫌味たらしく言ってくる。
俺は苛立つ感情を抑えながら立ち上がろうとするが、ダメージがかなり強かった為か上手く立ち上がれない。当然の事だが俺は今、変身前の状態だ。そんな生身の状態であんな蹴りをいれられて、タダで済む訳が無い。下手したら骨も折れてる可能性すらある。
「ふむ、なるほどな…………」
俺の様子に何か思ったのかロイターは首を傾げた。
そしてそのすぐ後に、
「ミラージェ君。それを元の位置に連れてきなさい」
とロイターはミラージェさんに命令する。それにミラージェさんは「はいよぉ〜」と応え、俺の側へと歩いてくる。
そして俺の目の前に立つと、「ごめんね〜」と言って、俺の襟元を掴んで、そのまま俺の身体を元いた場所の方に目掛けて投げつけた。
そのまま俺は綺麗に元々立っていた場所に叩きつけられ、その衝撃に小さく悲鳴をあげてしまう。
俺はリーシャの隣に立っていたので、倒れている俺の横には青ざめた表情のリーシャが震えている。そして恐れながらも俺を支えようと屈んだ瞬間、
「下手に動かないでね〜」
という声と共に、俺とリーシャの間に雷を横に撃ったかのような電流が凄まじいスピードで流れた。
ミラージェさんは右手を前に掲げており、その手にはめられているグローブは電流を帯びていた。どうやら彼女が両手に付けているグローブが、雷帝ミラージェの聖武器のようだ。
「そこの少女、立てないならそのまま寝てても良いぞ」
とロイターは俺に言う。
そして「では続きを行おう」と呟き、
「君らには魔王軍の関係者では無いかという疑いがかけられている」
とロイターは言った。
どうやらそれが今の俺達に掛けられている疑いのようだ。当然俺達は魔王軍なんかに関わっていないし、そんな疑いを持たれる心当たりも無い。
「何か言う事はないかね?」
とロイターは俺達にそう言った。ようやくまともに発言の機会もくれたので俺は説明しようとしたが、
「ガッ……………………ハッ………………」
未だに先程のダメージが残っており、上手く喋る事が出来なかった。
そんな俺を面白そうに見て、
「申し開きは無いと…………」
とロイターは言う。すると慌てたようにロゼが前に出て、
「ロイター殿、我々が魔王軍というのは誤解です。その根拠に私達はこの国に来る前、魔王軍の幹部と一戦を交えています。そこにいらっしゃるルキアート様が証人です!」
と力強く説明し、その言葉にルキアートも頷く。
「それに事前に我が父からも、その時の事を書き記した書状をそちらにお預けした筈ですが」
とロゼが言うと、ロイターは「これの事か」と封の開けられた書状をこちらに掲げる。そして、
「そもそもこの裁判の発端は、この書状に|魔王軍の関係者と思われる少女を発見した《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》と書かれている事なんだがね」
と言った。