第7話 聖魔事変〜前哨戦〜(3)
独り、暗い独房に閉じ込められてからどの位の時間が経ったのだろうか。陽の光が差し込まないここでは、今が朝なのか、昼なのか、夜なのかすら分からない。
何度目かになるか分からないが、自分の両手両足に付けられている錠を見る。この錠は重さは感じないのだが、動こうという気力はどんどん失われていく。付けられる時に説明されたが、この錠は魔力の流れを外に強制的に排出する効果があるそうで、これを付けられてから魔法少女に変身する事は出来なかった。
魔法少女になれない俺は普通の少女そのものだ。当然力任せに錠を壊すことも出来ず、今も尚囚われたままとなっている。
「リーシャ……、無事でいれくれ…………」
俺は自分の身より、一緒に囚われてる筈のリーシャの身を案じていた。この世界に来て初めて出来た友達。仲間。彼女だけでも何とか助け出したい。
「…………………………」
俺は性懲りも無く変身を試みる。魔力を失ったわけではないのだから、上手くコントロールすれば変身は出来る筈なのだ。
しかし、魔力を練る瞬間にその魔力が霧散してしまい、なんともいえない脱力感が体を襲う。
「クソ、もう一回だ…………」
それを囚われてから何回、何十回、何百回と繰り返す。
もう何回目か分からない失敗をしていると、
カッ、カッ、カッ…………
いつもの看守とは違う足音が聞こえてきた。
その足音はだんだんと近づいてきて、
「元気そうだな、嬢ちゃん」
そんな声と共に俺のいる独房の前で立ち止まった。
「何か用?」
俺は声と足音の正体であるルキアートを軽く睨みながらそう言う。
「まぁ、用がなきゃこんな所には来ないわな」
そう言いながらもルキアートは俺の睨みなどさほど気にせず、独房の前に座り込む。
「そもそもここはどこなの?」
俺の質問にルキアートは頭を掻きながら少し考え、「まぁ、別にいいか」と呟いた後、
「簡単に言えば国で極秘に管理している魔族の捕虜などを収容する場所だな」
と意外にもあっさり答えてくれた。
「そんな極秘、私に話していいわけ?」
「別にいいさ」
とルキアートはどこか涼し気な顔をして言う。
「…………って、こんな話をしに来たんじゃねぇよな」
と言った後、ルキアートは普段見せないような真面目な表情をし、俺の目を真っ直ぐ見つめ、
「お前、俺の配下に加わる気は無いか?」
と俺を勧誘してきた。
「………………………………………………」
俺はルキアートを無言で見つめ返す。
「何かしらは言えよな…………、俺は割と嬢ちゃんの事は気に入ってるんだぜ」
ハァ……、とルキアートは溜息をつく。
「嬢ちゃんの今後だが、まぁ処刑されるっていうのが妥当なところだ。仮に処刑を免れたとしても、貴族共の奴隷…………、お前は女だから地獄の様な日々が始まるのは間違いない」
とルキアートは敗北した私の今後について説明をしてくれた。
「だが俺の配下になって、この国に一生の忠誠を誓うなら、俺が何とかしてお前をここから出してやる」
そう言ってルキアートは再度俺の目を見つめてくる。
「……………………仮に」
俺はそれに今度は無言ではなく、言葉で返す。
「仮に私があなたの配下に入ったら、リーシャも解放してくれるの?」
俺はルキアートの説明を聞いても、やはり自分の身よりリーシャの方は心配する。つまりそれは、リーシャの身にも今ルキアートが話したような未来が待っているということになる筈なのだから。
ルキアートの方も俺がこの質問をしてくるのは予想がついていたのか、少し黙った後、
「それは無理だ。嬢ちゃんも分かってると思うが、今回の騒動………………、その根本となる要因はあのエルフだ。」
と言い放った。
俺の方もこの答えは返ってくるのは何となく分かっていたので。
「それならこの話は無理。私はリーシャの事は見捨てられない」
とルキアートに言った。
俺の言葉に「そうかよ……」と残念そうにルキアートは呟き、
「改めて言うぞ、嬢ちゃんが独力でここから逃げ出すのは無理だ。それもあのエルフを助けてというなら尚更だ。だから、機密事項を話せたというのもある。」
そう言ってルキアートは立ち上がり、
「それに万が一逃げ出したとしても、俺達が全力で相手する。忘れるな、嬢ちゃん達は|俺達聖騎士に手も足も出せなかった事を《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」
そう言い残してルキアートは独房から離れていく。
そして俺は最後のルキアートの言葉を聞いて、あの日、城のあの部屋で行われた裁判という名の一方的な理不尽を思い出す。