第7話 聖魔事変〜前哨戦〜(2)
走った。ひたすらに走った。
この三日間、フォーリアは王国内を走り回っていた。
王国内とはいえ、独りのフォーリアが行動出来る範囲は下層エリアだけである。その下層エリアでさえ、|今現在不法侵入をしている《・・・・・・・・・・・・》フォーリアには過度に目立つ事は控えなければならない。その為本来こうして走り回るのも避けるべきであるのだが、
「…………この服のおかげか、私とはバレてないみたいですね」
フォーリアは今、普段の執事服とは異なり、女性物の服を着ている。聖王国に来る前にハミネ町で店長さんに見繕ってもらったあの服だ。私の顔はこの国の兵士に知れ渡っている筈だが、不本意…………、かなり不本意な事に女性らしい格好をする事でその目を欺けることが出来ているみたいだ。
とはいえこの三日間、成果らしい成果は全く得られなかった。誰に聞いても「お城で魔族の襲撃があり、それを聖騎士様が解決した」という断片的な情報しか聞けず、肝心のその後については誰も知らなかったのだ。
(お嬢様、ルナ様、どうかご無事で…………)
この三日間、囚われた二人を思わなかった時は一瞬も無かった。それこそ一睡もせず、二人の安否と所在を確認する事だけに専念した。
(せめてロゼ殿が一緒にいてくだされば……)
普段から私の事を事ある毎に茶化してくるロゼ殿でも、今は傍にいて欲しいと強く思う。なんだかんだ、彼も立派な仲間だと思っているし、領主の息子して、この国で色々と都合がつく事もあるからだ。
そんな彼も今は城に軟禁されている。とはいえ、ぞんざいな扱いはされていない筈なので、その点は安心できる。
(でも本当に八方塞がりですね…………)
独りでの活動の限界をいよいよ悟り、何か手はないかと辺りを見渡す。
「おや?そこのお方、何かお探しですかな?」
突然背後から声をかけられたので振り返ると、そこには一人の男性が立っていた。
「えぇ、ちょっと…………」
と言ったところで、
(この人どこかで見た気がするな)
と考える。
相手も同じ事を思ったようで、私の顔をまじまじと見て、
「あぁ、思い出しました。貴方、この国に入る前にお会いした旅の方ではないですか?」
と言われ、その言葉で私も思い出す。
そうだ、この国を訪れる前に道中で会った商人のおじさんだ。
「今はお連れ様はご一緒ではないので?」
「ええと………………」
何て言って誤魔化すべきか考えると、その商人は急に|薄気味悪い笑みを浮かべ《・・・・・・・・・・・》、
「…………もしかして今この国で騒がれている魔族による城の襲撃の件と関係があるのでは?」
(!?)
「なるほど、そうですか…………」
商人のいきなりの指摘に思わず動揺し、その様子から商人も何かを悟ったようだ。
「…………どうしてそれを?」
本能的にこの人には誤魔化しが効かないと感じ、私は素直に聞くことにした。
「私は商人なのでね、これでも観察眼はある方だと自負してるんですよぉ。特に貴方々は不思議な気配みたいなものを出会った時から感じてましたから」
とニヤつきながら商人は話す。
得体がしれない、この男とはあまり関わるべきではない、と自分の中の警鐘が鳴る。しかしそれと同時に、この人なら何か知ってるのでは無いかとも思った。
「あの聞きたい事があるの…………」
「囚われた方々の事ですよね?」
私が言い終わる前に商人はそう答えた。
「恐らくですが囚われてる場所は検討がつきます。…………それに、私はちょうど今からそこに向かう途中なのですよ」
と笑いながらそう答えた。
何て幸福だ!こんなチャンスもう訪れないだろう。
私は深々と頭を下げ、
「お願い致します。私もそこへ連れて行って下さい」
とお願いした。
その願いに商人は少し考えた後に、真面目な顔つきをして、
「連れて行くのはいいが、お前さん…………この国の闇を見る覚悟はあるか?」
と尋ねた。
▽▽▽
アイシェンさん達の後を追いながら広い城内を歩き続ける。途中何人かの人とすれ違ったが、聖騎士の二人(ルキアート除く)から礼をするあたり、基本お城にいるのは聖騎士より高い身分の人が多いのだろうか。
城内にはいくつもの大きな部屋があり、そこからは複数人の話し声が聞こえてくる。
ロゼが耳打ちで教えてくれたが、このお城は政治的役割を持つ箇所がいくつもあるらしい。前の世界でいうところの、国会と省庁などがまとまってる感じか。
そうして歩き続けると、アイシェンさんはやがて1つの部屋の前で立ち止まった。
「ではこの部屋に入って頂く」
そう言ってアイシェンさんは扉に手をかけようとし、
「ちょっと待て、謁見の間は別だろ」
ルキアートはそう言いアイシェンさんの手を掴む。
アイシェンさんは煩わしそうにその手を払い、
「王に会わせる前に不審な点が無いか調べるのは当たり前だろ」
と言う。
「あん?俺の書状じゃ足りねぇのか?」
「お前の書状なぞ信用出来るわけないだろう……」
「あぁ〜、そだよね〜」
アイシェンさんの言葉にミラージェさんは頷き、
「「面白いヤツら見つけた!今度国に招待するからヨロシク!なんか王に会いたいみたいだぜ」何て言われも〜、こっちは訳分からないよね〜」
とその書状?を読んだ時の事を思い出したのか、笑いながらミラージェさんは言った。
(もしかして…………、ていうかルキアートってやっぱり馬鹿なの?脳筋キャラなんだろうなぁ)
俺はそんな事を考えつつ、
「ま、まぁ、事情は分かりますので、私達は構いませんよ」
俺はみんなに目配せをし、アイシェンさんにそう告げる。
ルキアートは未だに納得してないのか、「チッ」と舌打ちを打つ。
それを全く気にせず、「では改めて」と言ってアイシェンさんは扉を開ける。
▽▽▽
その部屋は何ともいえない、不思議で不気味な部屋だった。部屋には窓の類は一つも無く、この部屋の出入りはあの扉からしか無理なようだ。そしてその扉をアイシェンさんが|まるで誰も逃がさないように《・・・・・・・・・・・・・》武器を構えて立っている。
部屋の中央には何かしらの魔道具であろうか、水晶が置いてある。そして部屋の一番奥には、
「待っていたよ」
一人の男性が立っていた。
そしてその男性は薄気味悪く笑い、
「では裁判を始めるとしようか」
と言った。