表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/184

第7話 聖魔事変〜前哨戦〜(1)

 部屋で一人、槍の手入れをしながら五日前の事を思い出す。


 後に聖魔事変と世間から呼ばれるようになる、一人の少女(・・・・・)を軸に発展した聖と魔による激突は未だ進行中だ。


 「ふぅ……」


 手入れも終えた事で準備は整った。正直に言えば、この戦いはあまり乗り気はしない。僅かとな時間とは言え、同じ敵と闘った同志と思っている節もあるからだ。


 …………それでも、


 「セリュス」


 「ハッ」


 俺の呼び掛けに、部屋の外で待機していたであろうセリュスが返事をし、扉を開けて入室する。彼女も普段のメイド服から戦闘用メイド服に着替えてるあたり、準備は終えたらしい。


 「行くぞ」


 俺はそう言って槍を手に持ち、戦いに出向く。


 王勅、「魔族ルナ率いる一味を討伐せよ」の命を聖騎士として果たすために。


▽▽▽

 店を出ると既にルキアートやミラージェさんの姿は無く、アイシェンさん一人が立っていた。


 「彼らは先に城へと向かった。貴殿らは自分と一緒に転送装置から城へ向かうので付いてきて頂きたい」


 そう言うやいなやアイシェンさんは歩き始めた。歩きながら簡単に教えてくれたが、聖騎士は何時でも直ぐに城へ行けるよう転移の魔道具を持っているとの事だ。それを使ってルキアート達は先に行ったらしい。

その魔道具は複数人を対象にしても使用出来るようだが、初めて来た俺達にそう易々と見せていい物でもないようだ。まぁ、自由にこの国のトップの所へ行ける魔道具なんて機密事項っていわれても納得する。


 アイシェンさんは寡黙な人なのか、必要以上の会話はせず歩き続ける。やがて目的地着いたのかアイシェンさんは立ち止まり、俺達の方へ振り返った。


 「では今から城へとお連れする。…………しかしその前に伝えておく」


 そう言うとアイシェンさんは携えてる細剣に手を添え、


 「城内で不審な行動を取り次第、即刻斬り伏せるので、そのおつもりで」


 その忠告と気迫に圧され俺達は静かに頷くしか出来なかった。


▽▽▽

 馬車に揺られながら想いを馳せる。


 生まれて初めて、仲間と呼べるような人達に出会えた。みんなと一緒に旅をした時間は短かったとはいえ、それは俺の人生の中でも、昔一緒に過ごしたミリーとの思い出と同じくらいには濃かった。


 しかしそんな仲間も今は俺の周りにはいない。


 今の俺には彼女らの安全を祈る事しか出来なかった。


 「………………………………………………………………」


 いや、祈るなんていうのは逃げでしかないのは分かっていた。俺は彼女らを見捨てたのだ。


 あの城での一件で領主の息子(・・・・・)という肩書を持つ俺は、()()()()()()()()()()()という事にされ、ハミネ町へと送還されている。


 「情けねぇよな、俺は………………」


 情けなく、悔しく、そしてなりより惨めで弱い自分に嫌気がさし、ボソッと呟く。


 実際あの場で俺に出来たことなんて無かったに等しい。それでも友と呼べる仲間達を俺は見捨てたことに変わりはないのだ。


 聖騎士様から「お前は魔族に肩入れするのか?」と言う言葉、王からの「父共々今後とも町を頼むぞ。まさか私の期待を裏切る(・・・・・・・・)ことは無いと信じているからな」と脅しにもとれる言葉を言われ、俺は今ここにいるのだから。


 「何が正解だったんだろうな…………」


 聖王国の属する町の領主の跡取りとしては、間違いなく今の状況が最適解だろう。


 それでも……………………………………、

 

 ルナ、リーシャ、フォーリアの顔、そしてミリーとの思い出を思い浮かべ、 


 「おい、行先変更だ」


 俺は槍を馬車の運転手に向け、脅す様にそう言った。


 もっと早く決断するべきだった。憧れの人や王に何と言われようが、あの日、ミリーが居なくなったあの時に決めたじゃねぇか。


 二度と友は失わないと。


▽▽▽

 下層エリアでセリュスさんが行った様に、アイシェンさんが魔法陣に何かを唱えると淡い光に包まれ、俺達は上層エリアへと着いていた。


 目の前には立派な城門が建っており、その門の向こうには遠目から見てきたお城がすぐそこに見えている。


 しかしアイシェンさんの態度はまるで連行をしている(・・・・・・・・・・)かの様に感じられるので、城を見た感動より今は不安の方が強い。


 「ではこちらに」


 アイシェンさんはそう言うと同時に城門に手をかざす。どういう仕組みなのかは全く分からないが、それと同時に城門はひとりでに開き始める。


 城門が開くとまずは一面に多種多様なお花が咲き並ぶ庭園が私達を出迎える。


 その庭園を歩き進め、俺達はいよいよ城の入口へと着いた。


 「おう、やっと着いたか」


 入口前には見知った顔、ルキアートとミラージェさんが待っていた。


 しかしアイシェンさんはそんなルキアート達を無視して入口の扉を開ける。


 「こちらへ」


 俺達にそれだけ言ってアイシェンさんはスタスタと先に行ってしまった。


 「ンだよ、アイツ……」


 「まぁ〜、アイシェンらしいよね〜」


 そう言いつつルキアートとミラージェさんも城内へと入って行き、そのやり取り苦笑しつつ俺達も城内へと入った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ