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第6話 聖騎士(1)

目の前に広がる光景は、同じ国とは思えない程下層エリアとは相反していた。下層エリアは多くの人で賑わう活気立つ場所であったのに対し、ここ中層エリアは落ち着いた静けさがある。しかしそれは人がいないという訳ではない。当然下層エリアと比べれば行き来する人の数は少ないが、それでも道道には幾人もの人々が歩いていた。圧倒的に違うのはその人達の気品と言うべきだろう。見るからに高級なスーツやドレスを着こなし、往来する姿は正に想像する貴族といった感じだ。またそれに合わさって、周囲の建物も豪華絢爛そのものだ。屋敷と呼ぶに相応しい大きな家が建ち並んでいる。それこそロゼの家より大きいものが沢山だ。


 「凄い……」


 「これはまた圧巻ですね……」


 隣に立っているリーシャとフォーリアも目の前の景色に圧倒されてるようだ。


 「ここも凄いけど上を見てみろよ」


 とロゼが見上げながらそう言ってきたので、ロゼにつられて上を見ると、


 「なにあれ…………」


 下層から中層まではかなりの高さがある為か、見上げても中層エリアを見ることが出来なかったが、中層エリアから上層エリアはさほど距離がある訳ではないみたいだ。そこには立派という言葉では収まりきらない程の壮大なお城を目にする事が出来た。お城自体は入国する前に遠目から見れたが、この中層エリアから見上げるその姿は、また別の迫力が感じられる。


 (これ、上層エリアに行ったらどれだけ壮大に見えるんだろうか)


 と俺は目の前の光景に驚きつつも、内心ワクワクが抑えきれずにいた。


 「中層エリアからお城までは結構近いんですね」


 フォーリアも俺と同じ事を思ったみたいで、目をぱちくりさせながら上を見つつ、そう呟く。


 「そりゃあ城で何かあったら、すぐに駆けつけなきゃいけねぇからなぁ」


 フォーリアの呟きに聞き覚えのある声での返事が聞こえたので、声のした方を見ると、


 「久しぶりだなぁ、嬢ちゃん達!」


 そこには聖騎士こと炎帝ルキアーノが立っていた。


▽▽▽

 「…………ルキアート様?お店で待ち合わせの筈では?」


 「何を言ってんだお前、一応でも嬢ちゃん達は俺の招待客でもあるんだぞ。俺が直々に迎えに来るのは当たり前じゃねぇか」


 「…………………………」


 セリュスさんの問いかけにルキアートは呆れながら答え、その言葉にセリュスさんは無言で返す。………というかセリュスさんは明らかにイラついているな、これ。


 「それじゃ行くぞ」


そんなセリュスさんの様子に気付いてないのか、はたまたいつもの事で慣れているのか、ルキアートは笑いながら俺達にそう言った。


 「大変そうですね…………」


 そんなセリュスさんを見て、同じ従者として思う事があるのだろう、フォーリアが同情をかけるようにセリュスさんの肩に手を置く。


 「いつもの事なので慣れてますよ。…………というより諦めてます。フォーリアさんはリーシャさんの執事なんですよね?羨ましいです、あんな可愛くて素直な子が主なんて」


 「いえいえ、お嬢様はお嬢様でかなりわんぱくな方なので結構大変ですよ。ヒヤヒヤさせられる事も多いですし」


 「えっ!?フォーリア、私の事そんな風に思ってたの!?」


 「いやいやリーシャ、単独森に入ってゴーレム相手に1人で戦っていたんだから、そう思われてても仕方ないでしょ」


 「いや!だってあれは!?」


 俺とフォーリアのからかいにリーシャは少しムキになって反論を始める。その様子を可笑しく思えたのだろう、セリュスさんは小さく笑いながら見ている。


 因みにロゼはというと、


 「やっぱ近くで見るとルキアート様はカッコイイな…………」


 とまるで恋する乙女か!ってツッコミをいれたくなるほど熱い視線で、俺達のやり取りを気にせずルキアートを見つめていた。


▽▽▽

 「着いたぜ」


 ルキアートに案内されたのは一件のお店であった。下層エリアのお店に比べれば少し大きいが、先程まで見ていた中層エリアの屋敷と比べたらかなり小さく感じてしまう。それでもそのお店の持つ雰囲気は周囲の大きな建物にも引けを取らない独特のオーラがあった。


 「んじゃ入るぞ」


そう言ってルキアートはお店に入っていき、俺達も後を追うように入店する。店内は思っていたより華美ではなかった。天井にはシャンデリアが吊るされ、煌びやかな光に照らされている、そんな風なイメージを持っていたのだが、実際店内は少し薄暗く、派手さというのは全く感じられない。しかし並べられている机や椅子は質素ながらもどこか大自然を感じさせる趣があり、その机に置かれているテーブルクロスは上品な気品を一気に引き立たたせている。そして何よりお店の中央にはピアノらしき楽器が置いてあり、それを引いている美しい女性は、薄暗いにも関わらずまるで光が差し込んでいるかのように一際明るく見えた。それほど彼女が奏でる音色は美しかった。


 店内には何組かの客がおり、入店するルキアートを見るなり、


 「おお、ルキアート様!」


 と多方面から注目を浴びる。


 その人達の声に手を振りながらルキアートは応え、空席を探しているのだろうか辺りをキョロキョロする。すると、


 「あ〜、やっと来たかし〜。遅いよ〜、ルキアート〜」


 と店の奥の方から声がした。


 「おう、待たせたな!」


 その声に反応してルキアートは彼女の席の方へ向かう。


 当然俺達は彼女が誰なのか知らないので、隣にいるセリュスさんを見る。そんなセリュスさんは「あわわわわ」と言いながらその場で礼をしており、その様子から彼女が只者ではないと察する。


 「お前たちも早く来い、嬢ちゃん達に紹介したい奴がいてな」


 と言って俺達を呼びつける。


 俺達はルキアート達のテーブルに向かうと、


 「んじゃ紹介するぜ。こいつはミラージェ。俺の同僚で聖騎士の一人。…………通称雷帝ミラージェだ」


 と紹介し、そのルキアートの言葉に合わせて、彼女…………もとい雷帝ミラージェさんは笑いながら俺達に手を振った。

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