第5話 聖王国ラミーリア(7)
俺達はそれぞれ準備を終え、一階のロビーで待っているセリュスさんに合流した。
「すいません!お待たせしました!」
「いえ、お気になさらず」
俺が待っててくれたセリュスさんに一言言うと、セリュスさんはそう言って静かに一礼をした。
「それでは行きましょうか」
そう言ってセリュスさんは宿を出たので、俺達も彼女の後を追い外へ出る。
「まずはどこに向かうんですか?」
「とりあえず最初はこの国の冒険者ギルドに行こうと思っています」
そう言ってセリュスさんは前方右側の少し離れた所にある大きい建物を指差した。
「冒険者ギルドか……」
セリュスさんの言葉に俺はワクワクしながら呟く。冒険者ギルドと言えば、異世界転生物の冒険ファンタジーでは鉄板の場所だ。前世でそれなりに異世界転生のアニメを観てた俺からしたらワクワクするなって言う方が無理な話である。
「へぇ〜、あれが噂の聖王国の冒険者ギルドか!」
俺の後ろを歩いているロゼも興味津々でその建物を眺めている。
「結構有名なの?」
「この辺じゃかなり有名なギルドだぜ。……といっても今じゃ冒険者というよりは傭兵グループの方が多いって話だけどな」
と俺の質問にロゼがそう答える。
「そうですね。昔は未開の土地や洞窟の探索、魔獣狩りを主な活動としていた冒険者が多かったのですが、近年の魔王軍との闘いの激化に伴って、傭兵として戦って稼ぐ人達が今は多いんです」
とセリュスさんが補足の説明をしてくれた。
「それはちょっと残念かも……。結構冒険者って響に憧れはあったんだけどな……」
少しガッカリしたテンションで俺がそう言うと、
「でも今でも冒険者として活動している人達も少しは残ってますよ?恐らく冒険者ギルドに行けばお会いするとも出来ると思いますので、その時はご紹介しますね」
「おぉ〜!それは楽しみだ!セリュスさん!ありがとうございます!」
とセリュスさんがいい事を教えてくれたので、俺は再度テンションが上がってきた。
「いえいえ、お気になさらず……。それよりルナ様、ひとつよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
俺がそう聞き返すと、セリュスさんはギロりと俺を見て、
「ルナ様は主であるルキアート様のご客人ですので、私に対してそんな敬語を使わなくても構いませんからね?」
「ひゃっ、……はい」
と俺は変な声を出して答えた。
|(セリュスさん!だからその目つきと声が怖いよ!)
▽▽▽
セリュスさんについて行きながら歩くこと10分程で、目的の建物に着いた。
「それじゃあ入りましょう」
そう言ってセリュスさんは一足先に建物の中へ入って行った。
「私達も行きましょ!」
ずっと隣にいたリーシャもワクワクしてるようで、俺の腕を掴んで中に入ろうとする。
「うん!行こうか!」
俺も早く中に入って見たかったのでリーシャと一緒に入口の扉を開く。
「おぉ〜!…………お?」
入って直ぐ目にした光景はまさに理想の冒険者ギルドであった。広いロビーは酒場も兼用しているようで、テーブルでお酒を飲んでる人がおり、壁側には依頼書らしき物を張っているスペース、そして受付には美人で巨乳のお姉さん!
うん、どれも描いていたイメージ通りの冒険者ギルドだ!…………なのだが、
|(なんか廃れてない!?)
そう、建物の大きさの割に寂しさがあるのだ。まず冒険者らしき人もいるにはいるが、ソロで飲んでる人、グループで飲み食いしてる人、全員合わせても10人もいない。そして依頼書らしき物を張っているスペースだが、貼られているのも数枚だ。そして、受付も一応5つ受付スペースがあるようなのだが、内4つは閉鎖されており、真ん中の受付しか機能していない。
「なんか静かだね」
とリーシャが耳元でボソッと俺にだけ聞こえる声でそう呟く。
ロゼも「これがあの聖王国の冒険者ギルド?」と首を傾げている。
そんな風に困惑している中セリュスさんがこっちを手招いているので、とりあえず彼女の方へ向かう。
セリュスさんは飲み食いしている三人組の所におり、
「おぉ、セリュスちゃん!久しぶりだな!」
とその内の一人である男の人に声をかけられていた。
「お久しぶりです、ランウェイさん」
とセリュスさんもその男性の人に挨拶をする。
「んで?この嬢さん達は?」
「この方達は主のお客様ですよ、この国来たのが初めてなので色々と案内をしてるんです」
「へぇ〜なるほどな……」
そう言ってセリュスさんと話していた男の人は俺達を見て立ち上がり、
「俺はランウェイ、冒険者グループ"紅の影"のリーダーだ。よろしくな」
そう言ってランウェイさんは手を出してきたので、
「よろしくお願いします。私はルナって言います」
と言って握手をして自己紹介をした。
「それでこの2人が"紅の影"のメンバーで、こっちの眼帯つけてる女がレミィ、そんであっちの大きな盾を持ってるのがリスタンだ」
そうランウェイさんが言うと、レミィさんと呼ばれた女性の人と、リスタンと呼ばれた男性の人がそれぞれぺこりと頭を下げてくる。
そして俺達もそれぞれリーシャ、フォーリア、ロゼの順で簡単に名前だけの自己紹介をした。
「この"紅の影"の方々は今も尚冒険者として活動されている珍しい方々なのですよ」
「ちょっとセリュスちゃん!それじゃあ私たち何か馬鹿にされてるみたいじゃん!」
とセリュスさんの説明にレミィさんが笑いながら反論してきた。
「まぁ実際ほとんどの奴らが冒険者から傭兵か国直属の兵士になってるんだから、俺らみたいなのは時代遅れなんだろうなぁ」
とリスタンさんがグイッと手に持つジョッキを飲み干して溜息混じりにそう呟く。
「やっぱ今はみんな傭兵とかになってるんですか?」
とロゼが尋ねると、
「そうだな。今は魔王軍との戦争が多いからそっちの方が金になるんだ。依頼書も主に商人の護衛ばっかりでつまらないって奴も多いしな」
とランウェイさんは肩を竦めながら答える。
「じゃあなんでランウェイさん達は冒険者を続けてるの?」
俺がそう尋ねるとランウェイさんは大きく笑いながら、
「俺達はそもそも戦争が嫌いなんだわ。それに魔獣の討伐依頼や護衛依頼も結構楽しいし……、」
ランウェイさんはそこまで言うとレミィさんとリスタンさんを見て、
「俺達は冒険者って言うのに誇りを持ってるからな!」
と胸をドンッと叩いてそう言い切った。それにレミィさんとリスタンさんもウンウンと大きく頷いている。
「カッコイイ……」
俺はそんな彼らに羨望の眼差しを向ける。
するとランウェイさんは受付の方を指差して、
「良かったら嬢さん達も冒険者登録してみたらどうだ?」
ととても心躍る提案をしてきた。