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第1話 魔法少女ルナ誕生(3)

 「とりあえず座りなよ」


 俺は彼の元へ行き、向かい合うように置かれた椅子に座った。


 ……いや、彼と表現するのが適切なのか俺には分からない。


 彼はパッと見16〜17歳くらいの美青年に見えるが、髪は腰にかかる程の長さがある。そして声も男性のものとも女性のものとも判断出来ない透き通ったものである。


 「まずは自己紹介からだね。僕の名前はエーリス・ミルヴァミネ。気軽にエーリスと呼んでね。」


 とエーリスは軽くお辞儀をしながら言った。


 「エーリスだな。俺の名前は………。」


 「星河煒月くん、だよね。」


 エーリスに続いて俺も自己紹介をしようとしたところ、エーリスに遮られる。


 「君の事は知っているよ。なんせ僕が君と話がしたくてここによんだんだから。」


 とエーリスは微笑みながらそう答える。


 「エーリス、君は一体何者なんだ?」


 俺はとりあえず質問をしてみる。まぁ大体の予想はしているのだか……、


 「うーん、言葉で説明するのは難しいけど………、君の知ってる言葉を借りるなら天使に近いかな。」


 とエーリスは答えながら、先程のように指をパチんと鳴らした。するとエーリスの頭上に煌めく光輪と背中に純白の羽が現れた。


 ……なるほど、やはり予想通りの答えだ。


 そしてそこから導かれる答えは……、


 「やっぱり俺は死んだんだな。」


 と俺はエーリスの目を見て尋ねた。


 俺の問にエーリスも真面目な顔つき戻し、


 「そうだね。君、星河煒月は死んだんだよ。」


 と答える。


 分かっていた事だか、いざ自分以外からその現実を突きつけられるとなかなかショックを受けるものである。当然やり残したこともあるし、まだ為すべき事も残っている。


 俺は数分ほど目を閉じ、これまでの人生を簡単に思い浮かべた。そして俺の死について1番気になっていたことをエーリスに質問する。


 「俺が助けようとした女の子は無事だったのか?俺の死は無駄では無かったのか?」


 俺は聞くのを少し恐れたが、俺の人生の幕締めだ。きちんと知らないと後悔するだろう。


 エーリスは俺の問いに凛とした表情で見つめ、やがて………、


 「うん、君が庇った女の子は無事だよ。まぁ突き飛ばしたわけだから軽い怪我はしてしまったけど、それでも君が守らなければ間違いなく彼女は死んでいた。君の死は無駄じゃ無かったよ。」


 と慈愛に満ちた笑顔で答えた。


 俺はその言葉に安堵し、気付いたら涙を流していた。


 「良かった……。俺も父さんのように誰かを守って死ぬ事ができた。希望と夢を託して死ぬ事ができたんだ。」


 エーリスは何も言わず、俺に優しい笑顔を向け、俺が落ち着くのを待ってくれる。


 涙も止まり、心も落ち着いたところで俺はエーリス尋ねた。


 「そしたらあの扉は死後の世界に繋がっているのか?それとも次の生として転生する為のものなのか?」


 俺の問いにエーリスは首を横に振る。


 「あの扉はそういったものでは無いよ。そもそも万物はその役割を終えると自然に天に帰す。よく死後の世界として天国とか地獄の伝承があるけどそんなものは存在しない。さっき君が言った転生のシステムに近いかな。分かりやすく説明すると、人間は死ぬと魂が具現する。その魂は自然と天、つまりこの世界の理に吸収されるんだ。そして世界の理のエネルギーとして世界に降り注ぐ。まぁその一部がまた生あるものとして生まれ変わるって感じかな。」


 とエーリスは説明してくれる。


 しかしその説明だと今の俺の状況はよく分からないものになる。


 「エーリスの説明はある程度理解した。でもどうして俺はここに呼ばれたんだ?」


 そう、エーリスの説明通りなら俺は死んだのだから世界の理のエネルギーになるはず。しかし今の俺は記憶も意思も持って今ここに存在しているのだ。


 エーリスはよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに手をパチンと鳴らし、


 「君とお話がしたいってのは本当だよ。でも本来の目的は君にある提案をする為なんだ。」


 エーリスはそう言った後、1拍置いて……




 「星河煒月くん。君と言う存在を残し、異世界で第二の人生を歩む気はないかい?」


 とエーリスは俺に手を差し伸べた。




 「異世界?よく漫画やアニメで見る異世界転生ってやつか?」


 俺はエーリスに尋ねる。


 「そうだね。君の世界にもファンタジー作品としてよく異世界転生が描かれる事があると思うけど、そんな感じだと思ってくれればいいよ。」


 とエーリスは答える。


 「厳密には異世界というよりパラレルワールドの方が認識は近いんだけど、世界には様々な平行世界が存在する。君が過ごした世界の他にも、魔法が発達してる世界。海で覆われている世界。宇宙に行くのが当たり前の世界。他にも数え切れないほどの世界が平行線上に存在してるんだ。当然中には弱者が虐げられる世界や人間が住めないような環境になっている世界、それ以前に壊れてしまっている世界もある。」


 そう言いエーリスが指をパチんと鳴らすと、俺の目の前にいくつものモニターらしき物が現れる。


 そのモニターには様々な世界の様子が映し出されており、その中にはアニメや漫画でしか見たことないようなファンタジー風の世界もある。


 「僕達天使の役割はそれぞれの世界のバランスを保つこと。まぁ理の管理が仕事だね。でも死した魂には稀にパラレル転生の資格を持つ物が存在するんだ。君みたいなね。」


 とエーリスは俺にウインクをする。


 「そういった魂はリセットしてエネルギーに変えてもいいんだけど、どうせなら別の世界に飛ばした方がより純度の高いエネルギーを生み出す可能性もあるんだ。魂の適性の問題だね。」


 エーリスが再度指をパチんと鳴らしてモニターを消す。


 「まぁというのは堅苦しい建前で、本音は生前素晴らしい行いをしてきた人へのボーナスってところだね。」


 とエーリスは笑いかける。


 「俺がその資格を持っているというのか………。」


 俺は驚きつつエーリスに尋ねる。


 「君にとって当たり前の事かもしれないが君ほど正義の心に満ち溢れてる人は多くない。それにパラレル転生に必要な3つの条件を君は全て完璧に備えているんだ!これは誇れることだよ!」


 エーリスは俺の手を握りそう力説する。


 「3の条件?」


 俺は手を握っているエーリスに尋ねる。


 するとエーリスは手を離して立ち上がり、俺の前に指を1本立てる。


 「1つ、我を省みず他者に慈愛を与えるもの。」


 次いで指を2本立て、


 「2つ、多くの人の心に影響を及ぼした者」


 (1つ目は身を犠牲にして女の子を守った事、2つ目は漫画を通して魔法少女の素晴らしさを多くの人の心に届けた事を指すのか?)


 俺はそんな考えを思い浮かべつつ、最後の条件を待つ。


 「そして最後!これが1番大事な条件!」


 エーリスは3本目の指を立てる。


 「ゴクン………。」


 俺は思わず喉を鳴らす。


 そしてエーリスは両手を目一杯広げてとびきりの笑顔を浮かべ、


 「最高の中二病であること!」


 と言い放った。


 「……………………………………………は?」


 俺は聞き間違いかと思いフリーズする。


 「君が慈愛に満ち、多くの人の心に影響を及ぼした、最高の中二病だってことさ!」


 エーリスは今までで1番輝いた笑顔を俺に向ける。


 「えっ、俺が………、中二病?」


 俺はこの空間に来て1番の動揺をしながら、エーリスに尋ねる。ぶっちゃけ女の子の安否を聞いた時よりも震えが凄い。


 「あれ?自覚ないのか。君は中々の中二病患者だよ。その年齢の割に。」


 なんだろう、急にエーリスが俺をイジり始めた気がした。


 「まず日頃から魔法少女になりたい!俺が魔法少女になったら……みたいな妄想をしてるよね?」


 ビクッ


 「死ぬ間際でさえ、魔法少女になりたかったと思う筋金入りだよね?」


 ビクビク


 「なんだったら僕が話しかける前まで、自分をヒーローの様に見立てて色々な事をしてたよね?いい大人が「我が覇道の道を切り開け」だの「この魔法少女ルナにお任せを♡」って自分の漫画の主人公の真似、……いや本人になりきってたよね?」


 かぁぁぁ/////


 俺はエーリスの言葉で恥ずかしさのあまりに悶え苦しむ。ていうか見てたのかよ!ならさっさと話しかけろよ!


 「いや〜、あまりに面白かったから魅入っちゃったよw」


 とエーリスは俺の心を読んだのか腹を抱えて笑いながらそうそう言った。


 やがて落ち着いたエーリスは、


 「勘違いして欲しくないけど中二病はパラレル転生で1番大事な要素なんだ。向こうの世界に行ったら未知の物に溢れ返っている。その中で日々の妄想で培った想像力が必ず役に立つ。自分の力になるんだから。」


 とエーリスはウインクしながら指を振りそう言った。


 「さて、」


 そう1拍置いてエーリスは再度俺を真正面から見つめ、俺に尋ねる。


 「汝、星河煒月はパラレル転生を望むか?望むのであればどのような世界で何者として転生する事を望むか?」


 俺はこの質問を受け、エーリスを見つめ直す。


 「ふっ、分かっていることだろう。」


 俺は笑いながら高らかに望みを言う。





 「俺は魔法少女に転生する。そして悪が蔓延る世界で悪と闘い、多くの人々を救う存在になる。」


 俺の答えにエーリスはニカッと笑い、


 「おめでとう!星河煒月、君はこれから魔法少女として第二の人生が始まる。」


 エーリスはそう言って指をパチんと鳴らす。


 すると背後から音がし、振り返るとあの扉が開いていた。


 「さあ、あの扉の先が君の新しい人生のスタートラインだ!」


 エーリスは翼で俺の上を通過し、扉に向けて誘導する。


 「ああ、行ってくる!」


 俺は扉の方へ歩いていき、光輝くその先へ踏み出す。


 そして今度こそ俺の新しい物語が始まる。

 



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