第4.5話 旅の前の一時 〜ロゼ編〜(2)
親父と話しルナ達と旅を共にすることになった俺は、ラミーリアへ向かう準備をしていた。
と言っても親父が食料などの補給を請け負ってくれたので、俺がする事といえば自分の身の回りの準備くらいだ。
俺は町の武器屋に自分の槍を預けて整備をしてもらい、そのまま馬に乗って町から少し離れたところにある隣村へ向かった。
「ここに来るのは久しぶりだな……」
村についた俺は馬を預け、村の中を見渡す。
この村は俺が小さい頃よく遊びに来ていた村であるが、来たのは約10年振りだ。
10年前、この村は魔王軍によって襲撃されほぼ壊滅された。俺もその時ちょうどこの村に遊びに来ていたのだが、俺は魔王軍を討伐しに来たルキアート様に助けられ、今もこの村は当時を生き延びた少ない村人で復興を続けている。
この村に来ると当時の悲惨な思い出と目の前で攫われた幼なじみのミリーの事を思い出すので、俺はこの村に来る事を避けていたのだが、旅に出る前に一度寄ろうと思い、今日は来たのだ。
「昔とだいぶ変わったけど雰囲気や村の様子は変わらないな……」
魔王軍に襲われたすぐ後は、村中の建物は全て壊され、焼け野原と化していたが、今では簡素的な家も建てられ、畑や田んぼも出来ていた。
村の中を歩いていると俺に気付いた村の人々は俺に挨拶をしてくる。
来たのは10年振りだと言うのに村の人も俺もお互いに顔を覚えているもので、俺は懐かしさを感じる。
そんな感じで挨拶をしたり、久しぶにあった村の人達とたわいも無い話をしながら俺は目当ての場所へと向かう。
10年振りであるが場所は覚えており、俺は迷うこと無く目的地へ辿り着いた。
そこには何も無く、当時の惨劇の傷跡だけが残されていた。
「ここが聖騎士なると俺が決意した場所……」
俺は何も無いその一角を見て拳を握り締める。
ここはかつて幼なじみであるミリーの家があった場所だ。当時の俺はミリーの家に泊まっており、魔族の襲撃にあっている最中もミリーとこの家に隠れていた。
しかし魔族によって俺達は簡単に見つかってしまい、ミリーの両親は俺達を庇った為に父親は殺され、母親は大怪我をし、そしてミリーは目の前で連れ去られてしまった。そしてその時の俺は恐怖のあまり、その様子を見ている事しか出来なかった。
周囲の人達からは俺がまだ子供だったんだから仕方ないと言われてきたが、それでも後悔の気持ちは消えなかった。
そしてそんな楽しかった思い出と辛く、悲しい思い出のあるこの場所で、俺は決意を固める為に来た。
「俺は必ずお前を見つけて助けてみせる。だからもう少しだけ待っててくれ」
俺はきっとどこかで生きてるであろうミリーに向けて、強い思いで決意を口にした。
「ロゼ君?」
突然懐かしい声が背後から聞こえてきたので振り返ると、そこには綺麗な女の人が立っていた。そしてその人が誰なのか俺はすぐに分かった。
「おばさん……」
そうミリーの母親である。
「久しぶりね。あの事件以来だから10年振りかしら……」
「そうですね。俺自身もここに来る勇気が今まで持てなかったので……」
と俺は恥ずかしさと気まづさを持ちつつ、おばさんに返事をする。
おばさんは普通の人間で、夫……つまりミリーの父親は亜人である獣人族であり、ミリーは人間と亜人のハーフであった。
ミリーは父親の血を濃く受け継いだ為か見た目は亜人そっくりで、それが原因で人間が多いこの村でよく他の子供達からいじめられていた。
それでもミリーはいつも笑顔で明るく、そんな彼女に俺は惹かれていった。
「昔はここでよくミリーと一緒に遊んでくれてたわね」
とおばさんも俺の隣に立って懐かしむように語り出す。
「それで、今日はいったいどうしたの?」
とおばさんが俺の方を見て尋ねてきたので、
「俺、近い内に町を出て旅に出るんです。心強い仲間に出会えて、そいつらと聖王国ラミーリアへ目指します。俺はまだ弱い人間ですが、いつか聖騎士になって、そして連れ去られさミリーを見つけ、助け出します。…………今日はその決意表明をする為に来たんです」
と俺は語った。
するとおばさんはうっすらと涙を流し、
「ありがとう……、昔も今も娘の事を思ってくれて……」
「ミリーは俺にとっても大切な人ですから……」
俺はおばさんの肩を抱き寄せ、この人の元へミリーを届けようと更に決意を固めた。