第4.5話 旅の前の一時 〜フォーリア編〜(2)
店員さんによって強引にお店の中へと連れていかれた私は、馴染みのない女性服ショップの独特の雰囲気に早くも気圧されてしまう。
「お客様!こちらなんてどうでしょうか!?」
「は、はぁ……」
一緒に店内に入ったはずの店員さんの手には、いつの間に見繕ったのか、何着か服を持っていた。
「こちらは今若い人中心に流行しているブランドになります!そしてこちらは今私が推してる次に流行ると思う商品です!!あっ!でもお客様の様なスラッとした方ならこういうのも……」
と店員さんは次々と服を私に手渡してはその服の説明を繰り返す。
「あ……あのぉ……」
「いや、やっぱりセクシー系?……でも思い切ってフリフリ系もありなんじゃ……」
「あのぉ……」
私は困りながらも店員さんに声をかけるが、店員さんは私の声に全く気付いておらず、私の服選びに夢中になってしまっている。
どうしたものか……と考えていると、
「お客様?いかがされましたか?」
ようやく私の反応に気づいたらしい店員さんが声をかけてきた。
「いやぁ、色々と選んでくださってるところ申し訳ないのですが……」
「あっ、……すいません。私ったらまた悪い癖がでちゃいました……」
と店員さんは見るからに落ち込んだオーラを出して頭を下げてきた。
「私って人にコーディネートするのが昔から大好きで、それでこのお店を始めたんですけど、ついついお客様の服選びに夢中になってしまうんですよね」
と溜め息をつきながら話し始めた。
|(ん?今の話からするとこの方がこのお店の店長さんなのでしょうか?……いや、よく見たら胸元に"店長"と名札がありますね)
と私が思っていると、
「お客様、本当に申し訳ありませんでした!!」
と店長さんは再び頭を下げて謝罪をしてきた。
「あっ、いえ。気にしないで下さい」
私はそう言い、店長さんに頭をあげるよう肩を触る。
「私の為にこんなに服を選んでくださったのは嬉しいですよ。こんな経験久しぶりでしたから。……それでも……」
「それでも……?」
「私にはこういった服は似合わないと思いますから……」
と私は笑みを浮かべて店長さんに伝えた。
店長さんに言った事は全て本心だ。長い間は基本的に執事服しか着て来なかった私にとって、こういった色々な服を見繕ってくれたのは幼少期以来だし、少し懐かしさの様なものを感じていた。たまにお嬢様から「別の服も着たら?」と言われたりもしたが、基本的に「これが私の仕事着なので……」と断っていた。そんな私に強引なやり方ではあったが、こうして色々な服を用意してくれたのは少なからず嫌な思いはしていなかった。
……それでも、どうしてもこういった服が私に似合うとはとても思えないのだ。
「……………………ですよ」
私がそんな事を考えていると、店長さんは俯きながら何かを呟いた。
「あの、すいません。よく聞こえなかったのですが……」
「そんな事ないですよ!!」
私が聞き返すと店長さんは私の両手を握り締め、顔を至近距離まで近づかせ、力強くそう言ってきた。
「似合わないなんてそんな事ありません!」
店長さんはもう一度そう言い、
「お客様は仕事柄、こういった服を着たことがないのでしょう!それで自分には似合わないと思い込んでるだけです!!でもお客様は美しさと凛々しさ、そしてカッコ良さを合わせ持ってます!そんなお客様が似合わないなんて事は絶対にありえません!!!」
と更に力強く言い放った。
そして優しく私に笑いかけ、
「私を一度信じてくださいませんか?お客様も驚くような変身を私がさせてみせますので」
と言った。
ここまで言われてしまっては断りにくい……とも思ったが、本当に似合うのだろうかと内心試してみたい私もいた。
どうしようかと悩んで店長さんの目を見ると、
コクッ
と私の目をしっかりと見つめたまま静かに、でも力強く頷いた。
「それじゃあ、…………お願い致します」
と私が店員さんに伝えると、店長は嬉しそうにパァーっと表情を輝かせて、
「お任せください!!」
と言って私を奥の部屋へと連れて行った。
▽▽▽
「す……凄い……」
奥の部屋へと入り、店長に色々と見繕ってもらって30分程たったであろう。鏡を見るとそこには今までに見たことの無い自分の姿が映っていた。
「そうでしょう!私、かなり張り切っちゃいましたから!」
店長さんも嬉しそうに私の肩を後ろから触りながら、鏡を覗き込む。
肩と胸元を少し露出させた薄いグレー色のブラウス、そして少し濃いめのグレーのプリーツスカートと上下似たような色合いによって落ち着いた雰囲気を出しつつも、所々肌を晒す事でセクシーさも醸し出している。もちろんサラシも外してブラをつけ、そのブラの紐を可愛らしくコーデをして、ブラウスから出るようにしている。
靴もハイヒールのオシャレな黒のブーツを履き、耳には蝶をデザインした可愛いらしいイヤリング、そして店長さんはメイクなどもしてくれ、全体的に落ち着いた雰囲気のナチュラルなものに仕上げ、髪も解いて腰元まで下ろしている。
「本当に私なんですよね?」
「フフフ、信じられませんか?」
「はい……」
「ね、貴方にもこういったオシャレな服も似合うって分かったでしょ」
「ありがとうございます……」
あまりの衝撃に私は驚き、店長さんへのお礼はボソッと呟く形になってしまった。
こんなオシャレな格好の私なんて想像できなかってし、今まで着てみようとも思わなかった。
「喜んでいただけて何よりです!そちらの服を諸々は差し上げますので、どうぞそのまま着て行って大丈夫ですよ!」
と店長さんは突然無料で差し上げると言い放った。
「いや!流石にそれは……」
「いえいえ、これはお礼の気持ちでもありますので!」
「お礼?」
「はい、お客様は先日の魔王軍襲撃の際に町を守る為に戦ってくれた旅の方ですよね?出陣の時と凱旋の時に町でご覧になったので覚えています!」
と店長さんはこちらにウインクをして、
「だから受け取ってください!私達町の人々はあなた達に感謝しています!これはその気持ちなんです!!」
と笑顔で言った。
▽▽▽
「ありがとうございました!今度は仲間の方とご一緒にお越しくださいね!」
店長に見送られ私は袋を持ってお店を出た。
服などはきちんとお礼を言って貰うことにし、せっかくなのでこのまま少し町を歩こうと思い、着ていた執事服一式は袋に入れてもらったのだ。
普段と違いオシャレな格好をしているせいか気分も凄く晴れやかで、柄にもなく上機嫌に鼻歌なんかを歌いながら私は町の大通りを歩く。
|(なんと言うか、こんな開放的な気分などいつぶりでしょうか。……でもこんな姿の私をお嬢様やルナ様達に見せるのは恥ずかしいので屋敷に戻る前にどこかで着替えましょうか)
と考えながら歩いていると、
ドンッ
と目の前の人とぶつかってしまった。
その拍子に私は尻もちをついてしまう。
「すいません!大丈夫ですか!?」
とぶつかってきた男性の方が手を差し出してきたので、
「大丈夫ですよ。こちらもボーとしてて申し訳ありませ……」
と差し出された手を握って身体を起こし、相手の顔を見た瞬間、
「えっ…………」
と私はフリーズしてしまった。
「本当に大丈夫ですか!?怪我とかは……」
と目の前には怪我してるか確認する為私の身体をあちこち見ているロゼ殿がいた。
「あ、ええーと……、これはその…………」
「怪我は大丈夫みたいですね」
とロゼ殿はホッと肩を撫で下ろし、
「それじゃあ失礼しますね、綺麗なお姉さん」
と手を振ってその場を離れていった。
|(私だと気付いてない?)
私と気付いてないロゼ殿の様子を見て安心したが、突然知ってる人と会ったことで急に冷静になり、そして
|(かぁぁぁ//////)
と恥ずかしさが込上がってきた。
▽▽▽
それから私は走って屋敷に戻り、誰にも見つからぬよう部屋へと戻った。
運良くお嬢様もルナ様もいなかったので素早く執事服に着替え、頂いた服などを一式丁寧に畳んで袋に戻した。
その最中見覚えの無い袋と手紙が入っていたので、着替え終わってから中を見てみると、
「本日は私のワガママに付き合って下さりありがとうございました。失礼かもしれませんが、執事服はともかく、流石にサラシ巻というのはどうかと思いましたので、あの服とは別にオシャレな下着を何着か用意させてもらいましたので、よろしければ使ってみてください」
といった内容手紙と一緒に、セクシーな赤や黒、可愛いピンクの下着等が入っていた。
「うぅ、流石にこれは恥ずかしいですね……」
と思いながらも、せっかく貰ったものだからきちんと使わないと失礼とも思い、
|(明日から使ってみようかな)
と私は考えた。