第4.5話 旅の前の一時 〜ルナ編〜(2)
(どうしてこうなった……)
俺はレイピアを構えるフォーリアに向き合いながら冷や汗を浮かべ、ため息つく。
フォーリアとロゼのいざこざを納める為に勢いに任せて手合わせを申し込んだところ、
「良いですね、私もルナ様と一度手合わせしてみたいと思っておりましたので」
とフォーリアが嬉しそうに反応してくれたので、引くに引けない状況になってしまった。
|(まぁ、フォーリアとは旅の間何回も一緒に戦ってきているから、フォーリアの強さは俺もよく知っている。身近な人で鍛錬の相手をしてくれる人でいえばフォーリアは文句無いしな……)
こうなってしまっては仕方ない、今はフォーリアとの手合わせを楽しむとしよう、と俺は考え剣に魔力を集中させる。
お互い相手の出方を伺いながら呼吸を整え、攻め込むタイミングを見計らう。
「いくよ!」
俺はフォーリアにそう投げ掛け、剣を構えてフォーリアの元へ駆け寄る。
フォーリアが間合いに入ったところで、俺は剣を薙ぎ払うかのように横に振りかざす。
「キンっ!」
フォーリアは俺の攻撃を細いレイピアの刀身で上手いこと捌き、俺の攻撃の力の向きを自分から逸らす。
「……ハッ!」
そしてそのままレイピアをしならせてターンをし、フォーリアは俺の喉元目掛けてレイピアで突きを繰り出してくる。
|(カウンターが速い!……それでも!)
「カウンターは私も得意だよ!抜刀領域!」
俺はつかさず抜刀領域を展開し、フォーリアのレイピアを受け止める。
そしてそのままレイピアを弾き飛ばし、フォーリアに対して垂直に斬りつけた。……もちろん寸止めで。
「はは、参りました……」
俺の剣がフォーリアの服スレスレで止まっているのを見て、フォーリアは両手を挙げて白旗を振る。
「ユリウスの死霊と戦っている時もそのカウンター技を使われていましたが、今の私のレベルじゃ突破出来る気がしませんね」
とユリウスは弾き飛ばされたレイピアを拾いつつ、肩を竦めながらそう言った。
「そのカウンター技がある限りルナ様を攻撃するのは難しそうですね……」
「そうでも無いんだよ。この抜刀領域って技は自分の周りに濃密な魔力の結界を張りつつ、その魔力を剣にリンクし続ける必要があるから魔力の消耗が激しいんだ。だから戦闘中多用は出来ないし、相手がカウンターに気付いて領域に入ってこなかったら不発に終わっちゃうんだよね。それにどんな技でもカウンターが決められる訳でもないから、当然相手の攻撃の方が強かったら押し負けちゃう」
と俺はフォーリアに説明した。
実際に抜刀領域は万能そうに見えて結構欠点が多いカウンター技である。特に二回目以降は相手に警戒されてしまうので、この技は本来1回で決めきる初見殺し的な技に近い。
|(それでも抜刀領域は俺の切札に今後なっていくだろう。日々魔力を高めつつ、領域の範囲を広げていけるようにしていかないとな)
俺は簡単に今の手合わせを振り返り、魔法少女モードを解く。
「いや〜二人とも凄い戦いだったな!実際は一分もかからず決着はついたけど、見てる俺も思わず息を飲んだよ」
と俺達の手合わせを見学していたこの騒動の元凶であるロゼが俺たちの元へ近寄ってくる。
「はい、私もまさかこんなに早く負かされるとは思ってもいませんでした」
とロゼの言葉にフォーリアは苦笑いを浮かべる。
「いやいや、フォーリアもルナの初撃を捌いてそのままカウンターに繋げる動きは凄かったぞ!」
「それは私も驚いた!あまりの速さに抜刀領域を展開するのギリギリだったもん!」
とロゼと俺はフォーリアにそう投げ掛ける。
「二人ともありがとうございます。私もいつかルナ様の抜刀領域を超えられるよう精進していきますね」
とフォーリアはレイピアを懐に収めそう言った。
「それにしても最後のルナの攻撃は見ていてヒヤヒヤしたぞ。モロに斬伏せるような勢いだったからな」
「ちゃんと私も寸止めくらいできるって!」
まぁ実際俺は最後の攻撃の時に|剣先がフォーリアの服スレスレに止まるよう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》魔力で調整していた。当然剣術素人の俺に寸止めなんて技量を使いこなせる訳ないのだから。
「まぁ、良い頃合ですし。一旦切り上げてお昼といたしませんか?」
とフォーリアが俺達に提案をしてくる。そういえばお腹も空いてきたし休憩には丁度良いかもしれない。
「うん!私は賛成」
「そうだな。結構動いて腹も空いたしな」
と俺とロゼがそう言い、
「では向かいましょう」
とフォーリアが俺たちの方を向いてそう言った瞬間、
パサっ
と布が擦り切れる様な音が聞こえたと同時に、目の前に立っていたフォーリアの執事服が、綺麗に縦にバッサリと斬られた。
「えっ……」
フォーリアは突然の出来事に頭がショートしてしまっているようだ。
執事服がはだけたフォーリアの胸元には可愛らしいピンクのブラが露出される。しかしその可愛いブラジャーも虚しく、
パサっ
と音ともに両断され、そして慎ましいフォーリアの膨れ上がった胸があらわとなった。
「きゃあああ//////!!」
フォーリアは今までに聞いた事ないような可愛らしい声をあげ、胸元を手で隠し、そのまま屋敷の方へと一人猛スピードで走って行ってしまった 。
|(そうだよな……。俺は剣に魔力を覆っているんだから、剣先が当たってなくても魔力はフォーリアの服を斬り裂いていたんだよなぁ。手加減の寸止めモードに調整していたから時間差で服と下着だけ真っ二つになったんだろうなぁ……)
俺は走り去っていくフォーリアの背中を見ながら冷静にそんな事を考えた。
そして一方もう一人取り残されたロゼも気まずそうに頭を掻きながら、
「俺、初めてフォーリアが女なんだなぁって思ったよ。あんな可愛らしい声も出せるんだな」
と俺にだけ聞こえる声でボソッと呟いた。
「ロゼ、それフォーリアに聞かれたらまた怒られるよ」
とロゼに言いつつ、
「でも私もあんなに可愛いフォーリアは初めて見た」
と俺はロゼにそう言った。
因みにその後フォーリアのはだけた姿を見て驚いたリーシャに事の顛末を説明すると、
「えっ!?何それ!フォーリアがそんな可愛らしいとこ見せたの!?ていうか、フォーリアってそんな可愛いブラを着けてたんだ!」
とリーシャは目を輝かせ、フォーリアは
「忘れてください!」
と顔を真っ赤にし、しばらくの間仲間内でフォーリアの事をいじっていた。