第4話 ハミネ町(13)
ルイスさん達との食事を終えた後、俺はリーシャとフォーリアと一緒に客室へと案内された。
本来は三人それぞれ個室を用意してくれるとの話であったが、今後の事を三人で話したいということで、三人相部屋にしてもらえるよう大きな部屋を用意してもらったのだ。
部屋は大きめのベットが二つとソファーにテーブルと簡素な作りであるが、どれも高価そうな物ばかりでこの屋敷の中でも最大級の客室である事は伺える。
そんな良い部屋に通されたが俺達三人はそれぞれ考え込むようにお互い黙り込んでいる。こんな部屋を見たらリーシャははしゃいでベットにダイブしそうだが、そんなリーシャも大人しくソファーに座っている。フォーリアは何かを考えているかのように壁に寄りかかったまま立っており、一方の俺はベットに仰向けになりながら天井を見て、先程のルイスさんとローゼットとの話を思い出す。
|(ルイスさん達の話をまとめると魔力を使える俺はこの世界では異質……、というより人間ではないみたいだ。魔法を使えるのはリーシャみたいな一部のエルフの様な種族と魔族。そして魔法とは違う聖法といったものを扱える選ばれたごく一部の人間か……)
ルイスさんからは先程、俺の指にはめてる魔法少女の核である指輪は魔道具の一種という事にして、当分俺が魔力を扱える事は伏せていた方が良いと言われた。これも余計な誤解……、俺が魔族の仲間ではないかと疑われない為だ。
それに森で会ったヒナギがリーシャにローブを渡したのも、この世界の人間にとって魔法が馴染みないものであるならおおよそ理解出来る。
|(この世界の人にとって魔力がある=魔族と考えている人も少なくないんだな)
俺がそんな風に考えていると、
「私ね、さっきのルイスさん達の話を聞いて納得した事があるの」
とソファーに座り込んでいたリーシャが口を開いた。
「みんながて戦っている間、私は怪我をした人達の治療に専念していたんだけど、ほとんどの人は私が魔法を使える事に凄く驚いてた。……中には"やめろ!"って治癒魔法を拒んだ人もいたわ」
「私が戦っている間にそんな事が……」
俺がユリウスやダーウィンと戦っている間、結界内でリーシャがそんな事になっていたなんて知らなかった俺は驚き、ベットから身体を起こしてリーシャの方を見る。
「でもね、ローゼットさんが説得してくれてその人も治癒魔法は受けてくれたの。」
と慌てて手をバタバタさせながらリーシャは補足をしてくれる。
「はい、ルナ様が大型死霊を足止めをしていただいてる間、私とローゼット殿で死霊の残党を相手にしていたのですが、何やら後方の結界内で騒ぎを感じたので、1度私達2人は様子を見に行ったのです。そしたら一人の兵士が剣をリーシャ様に向けていたので急いで止めに入り、ローゼット殿がお嬢様の治癒魔法の効果と安全性をその兵士に教えてくださったのです」
とその時の細かい状況をフォーリアが話してくれた。
「私は長い事集落の中で暮らしていたから、魔法を使える環境が当たり前だとずっと思っていたの。……でも実際はそうじゃなくて、この世界の多くの人にとって魔法を使える私達の方が珍しいんだと理解したわ。……そして人によっては魔法は恐怖の対象になるって事も」
とリーシャが少し悲しいそうな表情を浮かべてそう言った。
そのリーシャの言葉を最後に俺達の間にまた少し沈黙の間が流れる。そして少しして、
「今後の私達の行動も考えていかないといけませんね……」
とフォーリアが口にした。
「今後の事?聖王国に行くんじゃないの?」
とリーシャがフォーリアの方を見て質問する。
「もちろん次に目指す場所は聖王国なのですが……」
とフォーリアは口にするが、この先の言葉は主であるリーシャには言い難い事なのだろう。フォーリアは困ったような表情を浮かべ、俺の方を見る。
|(この旅は俺が始めたことで、二人はそんな俺に付いてきてくれたんだ。方針は俺の口から言った方がいいよな)
と思い、俺はフォーリアに頷き、
「聖王国を目指すのは変わらない。でも今後も人の世界を旅するなら私とリーシャは正体を隠す必要がある。……って事だよね」
「はい……」
俺の言葉にフォーリアは頷く。そしてリーシャも、
「まぁ、そうなるよね……」
と理解してくれた。
「フォーリアは人間だから問題ないとして、リーシャもヒナギから貰ったローブ、これも少し調べたんだけど、このローブは着ている人の魔力を外に出さない効果もあるみたいだからリーシャもそれを着ていればひとまずは問題ないね。……あとは私かぁ……」
と俺は再度ベットに倒れ込み考える。
「問題はこの指輪を魔道具として今後誤魔化していけるのかなぁ。いや、いっそ私の魔法も聖法って事でやっていけるかな?」
と指輪をかざしながら俺は呟く。その呟きに、
「それはあまりオススメしません。私達はあまりにも集落の外の世界の事を知らなすぎました。魔道具や聖法をろくに知らないままそれを語るのはいざという時にリスクが高すぎます」
とフォーリアが反論する。
「ですよねぇ〜……」
フォーリアの言うことは正論だ。下手な嘘をついて相手に疑われれば、この世界で異質な俺はあっという間に異端者になってしまうだろう。
どうするか……、と考え込んでいると
コンコン
とドアからノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
とフォーリアが返事をすると、部屋にローゼットが入ってきた。
▽▽▽
「お取り込み中だったか?」
部屋に入るなり俺達の暗い顔を見て、ローゼットは心配そうに声をかけてきた。
「いや大丈夫だよ、ローゼットこそどうしたの?」
俺はベットから起き上がりローゼットの方を向く。
ローゼットは部屋の中に入り、スタスタと俺達の前を歩いていく、そして窓際まで来て俺、リーシャ、フォーリアの3人が視界に入るところでコチラを振り返り。
「俺をあなた達の旅の仲間に入れてくれないか?」
と頭を下げてそう言ってきた。
突然のローゼットの言動に俺達三人は驚き、お互いに目を合わせる。
そしてローゼットは顔を上げ、
「俺は今日二回もルナさん達に救われた。その恩をどう返そうか考えていたんだが、その恩を今後の旅で返していきたい!」
と真剣な眼差しで俺達をローゼットは見つめる。
「正直に言うとさっきの話でルナさんが魔法を使っていたのには驚いていたし、リーシヤさんに初めて森で治癒魔法をかけてもらった時も内心ヒヤヒヤした。それでも今となっては俺はあなた達3人を心の底から信頼してるし信用している。それでも今後旅を続けていれば誤解や変な疑いがかかるかもしれない。その時は俺を頼ってくれ!俺は一応は聖王国傘下のハミネ町を含むここら辺一帯の領主の一人息子だ。それなりの人望はあるし、変な疑いも俺が晴らしてみせる!」
とローゼットは拳を胸に当てそう熱く語った。
「もう親父にも話はつけてきた!後はルナさん達の答えを聞くだけだ!」
とローゼットは俺達に再度それぞれ目線を向け、そう言った。
俺はリーシャとフォーリアに顔を向けると二人とも同じように笑顔で頷く。
|(どうやらみんな答えは一緒のようだな……)
俺は三人を代表してローゼットに、
「私達の方こそよろしく!ローゼット!」
と笑顔でローゼットにそう言った。
「あぁ!これからよろしくな!俺の事は気軽にロゼって呼んでくれ、昔から仲のいい連中には愛称でそう呼ばれてるんだ」
「了解!ロゼ!私の事も気軽にルナって呼んで」
「よろしくお願いします!ロゼさん!私の事もどうかリーシャと呼んでください」
「今後ともよろしくお願い致します、ロゼ殿。私の事も気安くフォーリアとお呼び捨てください」
「あぁ、ルナにリーシャにフォーリア。改めてこれからも宜しくな!」
と俺達は互いに改めて自己紹介をした。
俺達の懸念はロゼの加入で何とかなりそうだ。これで心置き無く旅を続けられる。
「それにしてもロゼ、こんな美少女に囲まれて旅が出来るなんて男冥利尽きるんじゃない?ハーレムだよ?ロゼの」
と俺は冗談がてらロゼの脇腹を腕でつつきながら冷やかす。
しかし俺の言葉に不思議そうな表情をロゼは浮かべ、
「ん?フォーリアは男なんだから、ハーレムではないだろ」
と地雷発言をロゼは口にする。
|(ヤベェ!ロゼにフォーリアが女だって事言ってなかった!)
ゆっくりフォーリアの方を振り返ると、フォーリアはレイピアを構えながらゆらりゆらりとコチラに歩いて来る。
その姿を見て俺とリーシャはそそくさとベットの影に隠れた。
急な展開に、
「あれ?みんなどうしたんだ?」
と一人事のヤバさを分かっていないロゼがポカンとしているが、その後ロゼの悲鳴が部屋に響き渡ったのは言うまでもない。