第4話 ハミネ町(5)
「なんだ〜、お前ら……」
ユリウスは吸いきったタバコを吐き捨て、俺達を見下ろす。
「撃てぇ!」
ルイスさんの号令で兵士が一斉にユリウスに向かって弓や銃を撃ち放つ。百を超える矢や銃弾がユリウスに降り掛かるが、ユリウスは気だるそうに片手を突き出して防御壁を作り、それらを防ぐ。
「怯むな!どんどん撃って奴に死霊を召喚させる隙を与えるな!」
攻撃を防がれてもルイスさんは攻めの姿勢を崩さず、それに呼応して兵士たちも攻撃を続ける。それに対しユリウスは依然と防御壁を出し続け、胸元からタバコを取り出し火を付けた。
「お前らなんのつもり?俺様を誰だと思って攻撃を仕掛けてるわけ?」
降り掛かる攻撃にイライラしてるのか、ユリウスは号令を出しているルイスさんを睨みつける。
「魔王軍幹部、死霊術師ユリウスだろ?」
「んだよ……。俺様を知っての攻撃かよ……」
ユリウスはそう言いもう片方の手に持つ剣を兵士に向かって薙ぎ払う。するともの凄い衝撃波が兵士達を襲い、あっという間に兵の半分以上が吹き飛ばされてしまった。
「俺様はあいにく忙しくてな、お前らに構ってる暇はねぇんだわ。今さっきの俺様に対する攻撃は見逃してやるから、どっか行け」
とユリウスは吐き捨てる。どうやら事前に話していた通り、ユリウスは俺達に敵対する意思は無いようだ。となるとやはりユリウスの狙いはこの先の聖王国なのだろうか?
「生憎敵である魔王軍が我が領地に現れた時点でこちらは見過ごす訳にはいかないんでね。貴様の目的はこの先の聖王国ラミーリアか!?」
「あん?」
ユリウスの見逃す発言にルイスさんは耳を貸さず、ユリウスに向かって剣先を向けてそう言い放つ。それにユリウスはダルそうに頭を掻き、
「テメェらの本拠地に一人で乗り込む程コッチも馬鹿じゃねぇよ。俺様はただ探し物をしてるだけだ」
とユリウスが言った。
「だからテメェらに危害を加える気は今日の俺様にはないの 、理解した?……なら消え失せてくんないかなぁ」
「さっきも言ったが貴様がどんなつもりだろうと、領主として魔王軍幹部を見過ごす訳にはいかん。……皆の者撃てぇ!」
ルイスさんのその言葉に、先程の衝撃波で吹き飛ばされた兵士達も体勢を取り直しまた攻撃を仕掛けた。
「だりぃ……」
その攻撃をユリウスは剣で薙ぎ払い、そのまま剣先をルイスさんに向ける。
「ボスからは|無闇に人類を攻撃するな《・・・・・・・・・・・》って言われてんだけどな……」
とボソッと呟く。そして吸い終えたタバコを吐き捨て、
「そっちが仕掛けてくるなら仕方ねぇよな!?」
と言って手から魔法陣を出し、そのまま真下の地面に向けた。すると地面にも魔法陣が現れ、そこから兵士や魔獣の大群が現れた。
▽▽▽
「あれが死霊?」
後方で戦場の様子を見ていた俺は、突如魔法陣から現れた物を見てそう呟く。
「はい……。あれがユリウスの操る死霊です」
俺の呟きにローゼットが答えた。
「想像してたのと全然違うな……」
俺はユリウスの召喚した死霊を再度じっくり見る。死霊……つまりゾンビみたいなものだから、もっとこう、ドロドロしたというか、化物じみたのを想像してたのだが、ユリウスの死霊はパッと見、普通の人間や魔獣と見分けがつかないほどキレイな姿をしており、ユリウスが特に命令をした訳でも無いのに、死霊は各々意識を持って隊列を組み始めていた。
「なんか不気味ね……」
結界を張り終えたリーシャも死霊を見てそんな感想をこぼす。
「あれが死んでる人達だなんて信じられないわ」
「でも間違いなく一度死んだ人や魔獣なんだよ。その証拠にアイツらリミッターが外れてるんだ」
「リミッター?」
ローゼットの口から聞き慣れない言葉が聞こえたので、俺はローゼットに聞き返した。
「普通生きてる生物は100%の力は行使できない。脳がリミッターとして働いているからな。でも死霊共はそのリミッターをユリウスの力で外すことが出来るんだ。だから普通の人間や魔獣より力や魔力が高まるんだ……」
とローゼットが説明してくれた。
「確かにそうみたいですね……。前衛のゴーレム達が押され始めてます」
と俺の横に立っているフォーリアが前方を指差しそう言う。
俺もフォーリアにつられ前方を見ると、死霊の大群がゴーレムに襲いかかり、次々とゴーレムが崩れ倒されていた。それに対してルイスさんは一旦ユリウスに攻撃をするのを中断し、兵士を指揮しながら死霊の相手をしている。それでもやはり死霊の方が力が上な為、徐々に後退をしてしまっている。
「そろそろ私達も参戦しないとだね……」
俺はそう言って魔法少女へと変身する。
「それじゃあフォーリアとローゼットは死霊の相手とルイスさん達のバックアップをお願い!リーシャは下がってきた負傷兵の治療に専念して!」
俺は臨戦体勢を取ってフォーリア、ローゼット、リーシャにそれぞれ指示をする。
「ルナさんは?」
リーシャの問いに俺は笑って、
「私はちょっとユリウスの相手をしてくる!」
そう言って魔力を背中に集めて翼を形成し、ユリウスの元へと飛んで行った。