第4話 ハミネ町(3)
魔王軍幹部であるユリウスに対抗するべく領主であるルイスさんは、今揃えられるだけの戦力を屋敷に集めたようだ。しかし当のルイスさんやローゼット、集められた兵士皆が不安を募らせた表情を浮かべている。
「そのユリウスっていうのはどれ程の相手なの?」
気になった俺はローゼットに話しかける。それにローゼットは、
「町に向かう途中に聖騎士の話をしただろ?魔王軍の幹部はその聖騎士と互角の実力とされているんだ」
と説明する。それに補足するようにルイスさんも、
「ハッキリ言うが……、これだけの戦力じゃ全く歯がたたないだろう。魔王軍幹部はそれだけの力を持っている」
と教えてくれた。
「つまりこっちが圧倒的に不利ってことなんだね」
「いや、実はそうでもないんだ」
俺がそう言うとルイスさんは地図を取り出して、
「ユリウスが侵攻している方角を見てほしい。もしかすると奴の目的はこの町ではなく、その先にある聖王国の可能性もあるのだ」
と地図を指差しながら説明する。この地図を見てみると、ユリウスが現れたのはこの町の西側にある村であり、そしてユリウスの向かう先、つまりこの町の東側に聖王国の印が記されていた。
「つまり親父、ユリウスはこの町を襲わないかもしれないってことか?」
「あぁ。現に奴は通り過ぎた村には一切手を出さず、ゆっくりと空に浮かびながら移動をしているらしい」
とローゼットとルイスさんの会話を聞きながら、
|(ヒナギが言ってた、魔王軍は無闇に村や町を襲ったりしないっていうのは本当なのか?そうするとユリウスの目的は敵の本拠地である聖王国への侵攻?……いや、だとしても単騎で攻め入ったりするものなのか?)
俺があれこれ考えていると、
「それじゃあルイスさん、ここに集まった人達はもしもの時に町を防衛する為の戦力って事?」
とリーシャがルイスさんに尋ねた。しかしルイスさんは首を横に振り、
「いや、我が領地に敵である魔王軍幹部が現れたとあっては、仮に向こうに敵意が無かったとしても、黙って見過ごす訳にはいかない。これより我々は準備が整い次第、奴を迎え撃つ為に進軍する予定だ」
「んな!?この戦力でそれは無謀じゃねぇか?親父!」
ルイスさんの発言に、ローゼットがルイスさんの肩を掴みかかり反発する。しかしルイスさんは「まぁ、落ち着け」とローゼットの手を振り払い、
「ユリウス出現の報せを受けてすぐ、私は聖王国にその事を伝えておる。そしたら運良く、近くに聖騎士である炎帝ルキアート様がいらっしゃるようでな。今、ルキアート様がこちらに向かっているところだ」
「ルキアート様が!?」
「あぁ、だから我々はルキアート様の援軍が来るまでユリウスの足止めをすれば良い。それなら今の戦力でも十分勝機はあるはずだ」
ルイスさんの説明に「なるほど、それなら……」とローゼットも納得したようだ。
方針が聖騎士ルキアートの到着までの足止めと決まった今、俺達はローゼットを追ってここに来た目的をルイスさんに話すことにした。
「その戦い、私達も加わっていい?」
俺の申し出にルイスさんは驚いた様にこちらを見る。そしてルイスさんは、
「いや、しかし足止めといっても相手は魔王軍幹部……、それをフォーリア君は別として、幼い女性二人を戦場に連れて行くのは……」
「……いや、親父。ルナさん達にも協力してもらおう」
ルイスさんの言葉を遮り、ローゼットがそう提案する。
「ルナさん達の力はハッキリここにいる兵士たちより強い。なんたって森で俺が大型魔獣に囲まれた時、簡単に大型魔獣を倒して俺を助けてくれ人達だ」
「なに?大型魔獣を?」
「あぁ、ルナさんもフォーリアさんもそれぞれかなりの戦闘力の持ち主だ。それにリーシヤさんも保護結界と治癒魔法の使い手で、きっとこの後の戦いに、俺達の重要なサポートを担ってくれる!」
「ほぅ、魔法を……」
ルイスさんはリーシャの方を見つめ、そして俺とフォーリアを交互に見る。そして「ふふっ、なるほど……」とルイスさんは笑い、
「ローゼットの言う通りなら是非とも御三方には戦いに参加していただきたい。領主ルイス・ハミネより正式に依頼する。一時的我が軍に入っていただけますか?」
とルイスさんは俺達に頭を下げてお願いをする。俺達は既に方針を決めていたので、俺はルイスさんに右手を差し伸べ、
「こちらこそお願いします」
と俺は言った。そしてルイスさんは俺の手を握り返し、
「このタイミングであなた達に出会えたのも神の導きかな」
とニヤッと笑ってそう言った。
▽▽▽
「……ったく、あのイカレ神父野郎は何しに現れたんだ?」
魔王軍討伐の遠征も終わって国へと帰る途中、連絡用の魔道具から魔王軍幹部である死霊術師ユリウスが単体で現れたの報告があり、俺は帰路から逸れて、奴のいる場所へ向かっていた。正直もう仕事終わりの気分だったのでダルいことこの上ない。
「あの野郎にこの鬱憤ぶつけねぇと気が済まねぇな。……ていうかアイツが現れたのが原因なんだし、ぶっ殺しても文句は言われねぇだろ」
とイライラしながらも、この遠征、歯応えのある敵と戦えなかった消化不良感もあるので、イカレ神父にぶつけて気を晴らそうと思っていた。
「ルキアート様。この辺りの領主、ルイス・ハミネ殿よりメッセージが届いております」
と部下の1人が遠距離通信の魔道具を手に、俺の所へやってくる。
「何か新しい情報でもあんのか?」
俺は部下の1人が部下から魔道具を受け取り、メッセージを確認する。
「ほぅ……」
俺はメッセージを読み思わずニヤけてしまう。
「あの……何かございましたか?」
俺の様子を疑問に思った部下が恐る恐る俺に尋ねてくる。
「いや、なに。面白そうな連中がこの戦いに参加するらしいぞ」
と俺は魔道具を部下に返してそう答える。
「は、はぁ……」
部下は困惑しつつも魔道具を受け取り、そのまま後方へと下がって行った。
「エルフの嬢さんにその執事、そして謎の力を持った少女ね……」
俺はこの後出会う事になる彼らの事を考え、
「楽しみがまた一つ増えたな」
と笑って言い、とりあえずユリウスの野郎の元へと向かった。