第4話 ハミネ町(2)
ハミネ町に入り俺達はローゼットの案内で歩いていたが、何やら町中から慌ただしい様子を感じた。町の人々は忙しなく走り回り、露店を開いてる店主はまだ日は早いのに店じまいの準備をしている。その光景にローゼットも疑問に思ったのだろう、辺りをキョロキョロと見渡して、店じまいをしている店主の元に駆け寄って行った。
「何かあったのか?」
「あっ!ローゼット様、バタバタとお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません」
ローゼットにいきなり話しかけられた店主は店じまいをしている手を止め、ペコりと頭を下げる。そして顔を上げ深刻そうな表情を浮かべ、
「いえ、先程隣村から応援要請の報せが領主様に届いたようで、なんでも隣村の近くで魔王軍が現れたそうなんです。もしかするとこの町に向かってるかもしれないとの事なので、急いで避難する準備をしていたのです」
「何だと……」
店主の話を聞いたローゼットはしばらく考え込み、そして俺達の所へ戻って、
「すまない、貴方達を俺の家に招待しようとしていたが、それどころじゃなくなったみたいだ。場合によっては魔王軍の討伐に行く必要があるから、とりあえず確認の為俺は急いで親父の所へ向かわせてもらう」
とだけ言い残し、ローゼットは走って行ってしまった。
取り残された俺達はしばらく見つめ合い、
「私達もローゼットさんについて行きましょう!」
「そうですね。ヒナギ殿の件もありますし、一度この目で魔王軍を見ておくのも悪くないでしょう。……とは言ってもお嬢様を危ない目に合わせる訳にはいかないので、前線に行くのはオススメしませんが」
とリーシャとフォーリアが言う。俺はそれに頷いて、
「だね。私達もローゼットの後を追おう!」
そう言い、俺達はローゼットの後を追い走り始めた。
▽▽▽
ローゼットの後を追って走ること10分、俺達は大きい屋敷の前に着いた。そして屋敷のデカい庭に多くの人が集まっており、その中にローゼットの姿も見つかる。ローゼットは甲冑を着た男と話しており、俺達は勝手ながらも屋敷に入り込み、ローゼットの所へと向かった。
「!?ついてきたのですか?」
俺達に気づいたローゼットがこちらを振り向く。するとローゼットと話していた甲冑の男もこちらを見て、
「どなたですかな?」
と尋ねる。
「あっ、親父。この人達は……」
とローゼットが紹介しようとしたところを遮り、
「お久しぶりです!領主様」
とリーシャが挨拶をした。しかしリーシャはヒナギからもらったローブを身につけているので、顔がキチンと見えてないその男は「ん?」と首を傾げた。そこで今度はフォーリアが歩み寄り、
「お久しぶりです、領主ルイス様。森の集落のフォーリア・アリストレインです。こちら今は目立たぬようローブを着ておりますが、集落族長の娘であるリーシヤ・ロゼルスタンお嬢様です」
と丁寧な物言いで挨拶をした。そこでようやく誰なのか分かったのか、
「おぉ!ロゼルスタンとこの嬢さんとそこの執事殿か、すぐに気付かず申し訳ない」
と領主のルイスさんが言ってきた。
「親父、この人達と知り合いなのか?」
「前に森の中に唯一集落があると話した事があるだろ、そこの方々だ。ん?君は初めて見る顔だな」
とルイスさんが俺の方を見てきたので、
「はじめまして、ルナっていいます。今はこの二人と一緒に旅をしている者です」
と簡単に自己紹介を済ませ、
「それより魔王軍が現れたって話は本当なんですか?」
と俺はルイスさんに尋ねた。
「あぁ、本当のようだ。それで我々も急いで戦闘準備に取りかかっているのだ。」
とルイスさんは後ろの兵士達を見渡してそう説明してくれた。そこにはそれぞれ剣や弓、そして鎧を装備した兵士が100人ほどと、最初にリーシャと出会った時に戦った守護獣ゴーレムが約20体用意されていた。
「それで親父、敵の規模はどれほどなんだ?」
俺達が話に割り込んでしまったので、ローゼットが改めて状況をルイスさんから聞こうとしている。それにルイスさんは何とも言えない表情を浮かべ、
「それがどうやら単体でこちらに向かっているらしいのだ」
「は?一人で攻めてきたってこと?」
ルイスさんの言葉に思わず俺は聞き返してしまう。一方ローゼットはその情報と今ルイスさんが用意している兵力を見比べて、
「おい親父、敵単体にこの戦力って事は相手はまさか……」
「あぁ……」
ローゼットの焦った様子にルイスさんも冷や汗を浮かべ、
「相手は魔王軍の幹部、死霊術師ユリウスだそうだ」
▽▽▽
「ふんふんふ〜ん♪」
俺は鼻歌を歌いながらタバコを吸い、ゆっくりと空中移動しながらブラブラしている。何やら麓の村の人間共が俺を見て騒がしくしているようだが、特に気にかける必要はねぇだろ。
「っにしてもよ〜……」
俺は吸い終わったタバコを放り投げ、新しいタバコに火を付けて
「魔王様はどこに行ったんだ?面白そうな事なら俺様にも声をかけろっていうのに……」
と目的であるボスの魔力を追って俺は聖王国の方に向かった。