第4話 ハミネ町(1)
ローゼットの案内で馬車で進むこと約30分、俺達はようやくこのでかい森を抜け、そこから更に1時間かけてハミネ町に辿り着いた。
ハミネ町はこの辺りだと1番大きな町らしい。町の入口には大きい門があり、その門からぐるっと町全体を囲むように10メートルほどの塀が建てられていて、要塞の様な風体だ。ローゼットに聞くと魔王軍との戦争が本格的になった頃に町の防衛を兼ねてこの作りにしたらしい。
門の入口は開けられており、そこから多くの人々が行き来をし、それを門の横の詰所にいる門番が監視と町の出入りの手続きをしているようだ。
「ハミネ町に入るのに何か必要なのかな?」
町を出入りする人が門番に手形の様な物を見せている様子を見て、俺はローゼットに尋ねる。無論俺達は手形らしき物を持っていない為、もし必要ならこの町に入る事は出来なくなりそうだ。
「ハミネ町はさっき話した通り、今は町の防衛に力を入れているから町の出入りには通行手形が必要になっているんだ。通行手形は町の住人なら誰でも持ってるし、町の外から入りたい人はウチの領地内の町や村の一部の役所で審査してもらってその後に発行って流れだね。」
「じゃあリーシャかフォーリアって通行手形持ってたりするの?」
「持ってないわね……」
「私たちの集落は小さいが故に役所といったものがそもそも無いんですよ。ですので通行手形なる物を私たちの集落で手に入れる事はできません。そもそもハミネ町に入るのに通行手形が必要な事すら知りませんでし。申し訳ありません」
とリーシャとフォーリアは話し、フォーリアに至っては申し訳なさそうに頭まで下げてくる。
「フォーリアが謝ることはないって!知らなかったんならしょうがないんだし」
と俺はフォーリアのフォローに入る。……しかし困ったぞ、せっかく集落を出て初めて町に着いたのにその町に入る手段を俺達は持っていない。
|(一回役所がある近くの村か町に行って通行手形を発行してもらった方が良いのか?)
俺がそんな事を考えていると、
「もしかして皆さん、通行手形をお持ちでないんですか?」
とローゼットが尋ねてきたので、俺たち3人は揃って首を縦に振った。するとローゼットは、
「それなら俺に任せてくれ!ちょっと門番に事情を説明してくるよ!」
と言って馬車から飛び出し、門番の所まで走っていた。そして詰所で門番と話すこと数分でローゼットがこちらに手招きをし始めた。
「どうやら上手く話をまとめてくださったみたいですね。有難いことです。では、あちらに向かいましょう」
とフォーリアは言って馬車を門の方へ進め始める。やがて門の詰所前に着くと、詰所からローゼットと1人の門番が来て、
「ローゼット様からご事情は伺っております。通行手形は無いとの事なので、今回はゲスト用の臨時通行手形を皆様全員分発行させていただきます。さしあたって皆さまのお名前をこちらの用紙に記入していただけますでしょうか?」
そう門番は言って俺達に1枚ずつ小さな紙を渡した。俺達はそれぞれの紙に自分の名前を書き始める。そして名前を書き終えたタイミングを見計らって、
「では最後に名前を書いたその紙にそれぞれご自身の髪の毛をお乗せください」
と言われたので俺達は髪の毛を1本抜き取り、それぞれの紙の上に乗せた。するとその瞬間、白い光が紙から放ち始め、やがて紙は1枚のカードの様な物に変化した。
「それがこの町の通行手形だよ。無くしたら再発行手続きが少し面倒だからあまり無くさないよにね。あと通行手形は本人以外の人が持つとエラーになるんだ。試しにお互いの通行手形を交換してみな」
そうローゼットに言われたので俺は試しにリーシャと通行手形を交換してみた。すると俺が持つリーシャの通行手形赤く発光し、リーシャの持つ俺の通行手形も同じように赤く発光を始めた。
「こんな感じに本人以外が通行手形を持つとエラーになって赤く光るんだ。だから通行手形を騙し取って外から敵が町の中に入る事はできないようにしてるんだよ」
と説明してくれた。
|(なるほどなぁ。さっきの髪の毛から本人の情報をDNA検査みたいに判別してるのかな?便利な魔法道具?みたいなのもあるんだな)
と感心しつつ、新たな異世界っぽい物に俺は少し感動した。
「それじゃあ3人とも軽く町を案内してから俺の家に招待するよ。助けて貰ったお礼に食事を、もし必要なら泊まる為の部屋も用意するから。それと父上に紹介もしたいしね」
とローゼットが願ってもない提案をしてくれた。元々俺達がこの町に来た目的は、聖王国入国の口添えを領主からしてもらうことである。領主の息子であるローゼットが一緒ならもしかすると簡単にしてもらえるかもしれない。
フォーリアとリーシャも俺と同じ事を考えてたみたいで、俺達は3人目を合わせて同時に頷き、
「それじゃローゼット。お言葉に甘えさせてもらおうかな」
と俺が代表してローゼットにそう言った。ローゼットも「そうこなくちゃ!」と言いたげな表情をして、
「それじゃあ馬車は門を入ってすぐの所に預かり所があるからそこに預けよう。さすがに馬車で町中を移動するのは人通りが多い道だと邪魔になっちゃうからね」
と言われたので、俺達は馬車を預け、ローゼットの案内で町を歩き始めた。そして俺はまた、
|(本当にこの流れはリーシャと初めて会って、集落を案内された時と同じだなぁ)
と考えていた。