第3話 海賊少女は夢を見る(5)
「…………ック、魔法防壁!」
「!?」
少女の放つ銃弾がルナの身体を貫くギリギリ直前で、ルナは何とか魔法防壁を出して防ぐ事に成功する。
(良かった……身体は動かせなくても魔力は使えるみたい)
「……ほほう、これは驚嘆。この状況下で汝は抗えるか」
少女は驚いた表情を浮かべるが直ぐ様、
ダン、ダン、ダン
続け様に発砲をする。その銃弾も何とかルナは防げるが、
(マズイ…………このままだと破られる)
魔法は使えるがどうも本調子では無い。少女の異能は身体を止めるだけでなく、魔力の流れも悪くするようだ。
「朽ちる前に答えてもらおう。汝は何者だ?」
「私は…………」
少女の猛攻を防ぐのにルナは精一杯。それでも、ルナは何とか自身に敵意が無いことを伝える為、
「魔王軍幹部の一人、魔法少女のルナだよ!!」
「!?」
そう伝えた途端、少女の攻撃の手は止まった。
「魔王軍の幹部……」
そう呟いてルナをじっと見る少女。ルナもひとまず魔法を解き、再度歩み寄ろうとするが依然として身体は動かせなかった。
「フフフ…………」
そして少女は笑う。
「ハハハハハハハハ」
何が可笑しいのか、少女は腹を抱えるほど大笑いをする。その様子を不思議そうにルナは見ていると、
「これは僥倖か!汝の首を持っていけば聖王国も我を認めてくれようぞ!!」
ダンッダンッダダンッ
先程よりも激しい攻撃を放つ少女。この攻撃にただでさえ不思議な能力をかけられて魔力を思うように扱えないルナは、
「きゃぁッッ!」
避けれる筈もなく銃弾を立て続けにその身に受けてしまう。一応魔法少女に変身していた為致命傷にはならないものの、思った以上にダメージは大きい。
(まずい……完全に対応を間違えた)
自身が魔王軍幹部であることを打ち明けた事を後悔しつつ、ルナは少女の攻撃を受け倒れ込む。
「終わりだな」
倒れ込むルナの真上から少女はニヤリと笑い、銃口をルナの頭へ定める。
「…………させない!」
その瞬間、少女とルナ二人しかいないはずの船から声が聞こえ、
「なっ!?」
少女の持つ銃が刀によって吹き飛ばされる。
「誰だ!?」
少女は目の前に突如現れた者を睨みつける。
「…………私はお姉ちゃんの剣。これ以上好き勝手させないよ!」
ルナの影から現れ、妖刀アキギリを手に少女を睨みつけるツバキ。
「ルナ様!」
「ルナ!」
そしてツバキの登場に合わせるかのように真上からフォーリアとロゼも現れた。ルナは頭上を見ると空にはロゼの飼育魔獣である白獣馬のネリィがいる。どうやら海賊船での異変に気付き駆け付けたようだ。
「次から次へと……」
憎たらしそうにそう吐きつつ、少女は足元に転がる銃を拾い上げる。そしてチラッとフォーリア、ロゼ、ツバキを見渡し、
「……!みんな!彼女の目を見ないで!!」
眼帯に手をかけた所でルナは叫ぶ。事前に海賊の少女が不思議な力を持つ事、そしてルナが身動きとれていないことを把握した三人は直ぐに状況を把握し、
「ルリィ!漆黒の帳」
ロゼは指輪から黒獣馬ルリィの魔力を引き出し、辺り一面に煙幕を発生させ、
「動くな!」
「…………変な事はやめて」
部位強化による瞬足でフォーリアは少女の喉元にレイピアを突き付け、影移動をして少女の背後に回り込んだツバキが妖刀アキギリを構える。
「…………くっ」
少女は一瞬で追い詰められたと悟り、歯ぎしりをしながら両手を上にあげた。
「さて……、ではルナ様にかけてるものを解除して下さい」
フォーリアの言葉に少女は小さく頷き、
「…………ん、もう大丈夫だよ」
能力は解けたのか、身体と魔力が正常に戻ったのを確認してルナは立ち上がる。
「わ……我をどうする気だ?」
少女は抵抗のつもりかギっとルナを睨みつける。しかしそんな目つきとは裏腹に少女の膝は恐怖からか震えていた。
「どうもしないよ。フォーリア、ツバキちゃん、彼女を離してあげて」
ルナの言葉に二人は一瞬戸惑うものの、それぞれ少女に突きつけている武器を降ろした。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
心配そうに尋ねるロゼにルナはそう答え、
「改めて…………、私はルナ。君と話がしたくてここに来たんだ」
ルナは笑顔を向けて少女にそう伝える。少女は依然とルナを睨んでいるものの、自分を解放した事で多少は警戒心を解いてくれたようだ。
「…………魔王軍幹部が何用か?」
「えっと…………それは」
なんて伝えようか悩んだその時だった。
バゴーン!!!
突如船から爆音と衝撃が走り、そしてメラメラと船から炎が燃え上がった。