第3話 海賊少女は夢を見る(4)
「海賊船だ…………」
近づいてくる船を見てルナはそう呟く。
「…………ルナ様、念の為戦闘の準備をして下さい」
砂浜から声を掛けてきたフォーリアは既に魔人化しており、海賊船に乗っている少女に対し警戒をしている。
「ルナ様は遊んでいて気づかなかったかもしれませんが、あの海賊船に乗っている者、目的は分かりませんが発砲をしていました」
「えっ……そうなの!?」
「問題はそれだけじゃないみたいだぜ」
フォーリアに続き、ルナと一緒に海に入っているロゼも辺りをキョロキョロしながら魔人化する。
「ここら辺から邪気を感じる。…………魔獣が七体ってところか」
「…………うん。それも大きな気配」
ツバキも同様の気配を感じたようだ。三人の言葉を受け「分かった」といい、ルナは海から上がる。
ルナ達は浜辺から海辺の方に警戒を向けていると、
「…………!来たぞ!!」
そうロゼが叫んだ瞬間、海面から大型の魔獣が姿を現した。
「みんな!戦闘準備を…………」
そう言ってルナは魔法少女に変身しようと魔力を込めたその刹那、
ダダンッッ
銃の発砲音が響き渡る。それに合わせ魔獣の胴体に大きな穴が空き、一体の魔獣は悲鳴を上げながら海へと沈んでいった。
「えっ…………」
突然の攻撃とその威力にルナは唖然とする。しかしそれも束の間、攻撃を受けた魔獣達はすぐに海賊船に乗る少女へと意識が向き、残り半数の三体が海の中へと潜り海賊船の方へと向かっていく。
「ッッッ!?私は向こうの援護に回るよ!こっちに来てる三体はお願い!!」
「かしこまりました!」
「任せろ!」
「…………分かった!」
海辺に向かってくる魔獣をフォーリア、ロゼ、ツバキに任せ、ルナは急いで魔法少女へと変身をして、海賊船の方へと飛ぶ。
「さぁーて、やりますか!」
「はい!」
「……頑張る!」
ルナが海賊船に飛び立つと同時に魔力を高め、三体の魔獣目掛けて攻撃を仕掛ける三人。その様子を後ろで軽く見ながらルナは「大丈夫そうだね」と呟き、一直線に目的地へと向かって行く。
それほど海賊船とは離れていなかった為、あっという間に海賊船へと着き、甲板に降りる。
「助太刀に来たよ!」
海賊少女にそう言ってルナはステッキを直ぐさま魔獣へと向ける。
「!?」
突如現れたルナに少女は驚き、そして少し考えた素振りを見せた後、
「…………何者?」
銃口をルナの方へと向けた。
「っっ!待って!!私は敵じゃないから!!」
ルナは慌ててそう言うが少女はルナに向けた銃口を下ろさない。そしてそんな二人などお構い無しと言わんばかりに魔獣は海賊船に襲いかかる。
「ッッく!螺旋魔力弾!!」
ルナの放つ魔法により魔獣の胴体は撃ち抜かれる。
「とりあえず今は魔獣を何とかしよう!」
「……………………(コクッ)」
依然とルナの事を警戒しているようだが、渋々といった感じで少女は銃口を魔獣の方へと向ける。
「螺旋魔力弾!」
「我に牙を向けたこと懺悔せよ!祓魔散弾」
ルナと少女の攻撃は同時に二体の魔獣を撃ち抜く。これにより海賊船に向かった三体の魔獣は片付き、チラッと浜辺の方を見ればフォーリア達も魔獣の討伐を終えたようだ。
「さてと…………」
とりあえず危機は去ったのでルナは少女の方へと歩み寄り、
「初めまして、私は……」
「静止せよ!」
少女は先ほどのように銃口をルナへと向け、それと同時にもう片方の手で左目に付けている眼帯を外す。そして少女の隠されていた赤い瞳とルナの目が合った瞬間、
「なっっっ!?」
まるで金縛りにあったかのように、ルナの身体はピクリとも動かせなくなる。
(こ、これがヒナギの言ってた…………)
不思議な力を持つ自称人間と語る少女。しかし実際にその不思議な力を受けたルナはとてもでは無いが少女を人間とは思えなかった。
「君は…………何者なの?」
「我か…………」
口は動かせるのでルナは少女に問いかける。
その質問に少女は少し悲しそうな表情を浮かべ、
「我は人間である。…………世の理から外れたな」
そう言って銃の引き金に指を絡め、
「さらばだ、人類の敵である魔族よ」
ダンッ
静かな海原に少女の声と銃声が鳴り響いた。