第3話 三人の旅路(5)
ヒナギ達と別れた後も俺達は変わらず聖王国へ向けて旅を続けていた。相変わらず旅の中で何度か魔獣に襲われたりもしたが、特に問題なく対処もし、旅路は至って順調だ。
「集落を出て5日経つけど、ヒナギさん達以外の人達には全く合わないね」
と馬車の中で揺られながら隣に座っているリーシャが話しかけてきた。
「まぁこの森は大陸一広い森で魔獣も多く、森の中にあるのは我々の集落くらいですからね。立ち入るのは木の実や薬草の採取をしに来た人か、魔獣を狩りに来たハンターといった限られた人達ですし、最近の魔王軍の侵攻の噂も重なって誰も近づかないのでしょう」
と馬車の先頭で操縦しながらフォーリアが答えた。
「でもヒナギ達の件もあるし、実際魔王軍ってどうなんだろうな。族長の話を聞く限りだと、魔王が同盟国のエルフ王国を滅ぼしたのは事実だろうし、でもヒナギ達の話だと魔王軍は無闇に侵攻しないって言うし……」
「それも聖王国に着いたら色々と分かると思いますよ。」
「まぁそうだよね。対魔王軍の筆頭聖王国に行けば詳しい事が分かるか。……フォーリア、聖王国にはあとどれ位で着くの?」
「そうですね……」
そう言いながらフォーリアは懐から地図を取り出し、
「このまま順調に行けばあと5日って所ですね。しかしもうすぐこの森を抜けると思いますので、そうしたら一度町に寄るのも良いのではないかと思いますよ?」
「えっ!?近くに町があるの!?」
フォーリアの言葉にリーシャが食いついた。
「はい、この森を抜けたすぐの所にハミネ町という聖王国傘下の町があります。」
「ん?ハミネ町って領主様の?」
とリーシャが地図を覗きこみながら尋ねる。
「領主様?」
俺が誰の事か分からず首を傾げていると、
「前に森で私がゴーレムに襲われて時に、そのゴーレムはこの辺一帯を治める領主様から借りた守護獣って話したでしょ?確かハミネ町は領主様の住んでる町の名前だったはずよ」
と説明してくれた。そういえば最近物騒だからって、集落の守りの為に借りてるって言ってたな。……まぁ、その守護獣に襲われたのなら本末転倒な気もするが。
「はい、領主であるハミネ様なら私やお嬢様と面識もありますし、何より聖王国へ入国する際の口添えもしてくださると思いますよ」
とフォーリアがハミネ町に寄りたい理由をサラッと話した。
|(ていうか町の名前がそこを治める領主の名前なんだなぁ)
とそんな事を考えていると
グォォー!
と割と近くから魔獣の雄叫びの様なものが聞こえた。
「何今の音!?」
「西の方角からですね」
リーシャが馬車から身を出して周りを見渡し、フォーリアは音が聞こえた方角を見る。
「どうやら誰かが魔獣と戦っているみたいですね」
とフォーリアが言い、
「ちょうど私達が向かっているハミネ町の方角ですが……どうなさいますか?」
と俺とリーシャに尋ねる。それにリーシャは迷わず
「とりあえず行きましょう!襲われているかもしれないし!」
「そうだね、フォーリア!音のした方に向かって!」
リーシャの言葉に俺も続く。
「かしこまりました。では向かいます!」
そう言ってフォーリアは馬車のスピードをあげ、音のした方へ俺達は向かった。
▽▽▽
音がした方に俺達が向かうと、そこには熊の様な大きい魔獣三体に1人の青年が槍1本で闘っていた。
「くそっ!流石に今の俺じゃ三体同時はキツいか」
青年は魔獣の攻撃を避けつつ囲まれないよう動き回り、隙を見て槍で攻撃をしているようだがジリ貧気味に少しずつ押されているようだ。
「ルナさん、フォーリア、お願い!」
「オッケー!」
「お任せをお嬢様!」
リーシャの言葉に俺とフォーリアは馬車から飛び出す。既に魔法少女に変身してた俺は魔獣の前に立ち、フォーリアもレイピアを構えて戦闘態勢をとる。
「!?貴方達は?」
いきなり現れた俺とフォーリアに青年は驚いているようだ。
「恐縮ながら助太刀させていただきます」
「二体は私達が相手するわ。残りの一体はお願いできる?」
「はっ、はい!」
フォーリアと俺の言葉に、青年は槍を構えて残りの一体と向き合った。
「それじゃ魔獣退治と洒落こみますか!」
私はそう言って魔法でフォーリア達を巻き込まないよう二人と距離をとる。私が相手をしている魔獣もそのまま私に連れられて追ってきてくれるのでちょうど良い。
「大きさはこの森で戦った魔獣の中で1番大きいみたいね」
私は距離を取りながら相手を観察する。魔獣は私に対して鋭い爪で攻撃をしてきたがそれを躱し、爪はすぐ側にあった1本の木に深く流石に刺さり込む。そして魔獣が爪を引き抜くと木は倒れてしまった。
「あの爪の攻撃力はかなりのものみたいだね。……でも遅い!」
と私は魔力弾を魔獣に向けて放つ。魔獣は体が大きい分動きはトロイので、攻撃を避けるのに苦労はしない。そのまま私は距離を保ち、攻撃を避けながらも魔獣に魔力弾を五発ほど喰らわせ、やっと魔獣は倒れ込んだ。
「ふぅ、意外としぶとかったな」
私はそう呟いてフォーリアと青年の方を見る。フォーリアも軽い身のこなしで魔獣の攻撃を避けつつ、目や首といった急所を確実にレイピアで刺していき、トドメに心臓を一刺しして魔獣を倒した。
一方青年は私達が来るまでの疲労と怪我でうまく動けないのか、魔獣の攻撃を避けきることはできず、魔獣の攻撃を槍で受け止めていた。助けに行った方がいいと思って私が青年の方に向かおうした時に、青年は魔獣の腹に蹴りを入れ、それに魔獣が怯んだ隙に素早く槍で爪をなぎ払い、そのまま魔獣の首を槍で切り飛ばした。
「おぉ、やる〜」
私が青年に近づくと同時にフォーリアと馬車にいたリーシャもヒナギから貰ったローブを見に纏って駆け寄ってきた。
「すごい怪我!今治癒魔法をかけるからね!」
そう言ってリーシャは座り込んでいる青年に治癒魔法をかけ始めた。
「!?これが魔法ですか?」
青年は魔法を初めて見たのかリーシャの治癒魔法に驚いていたが、やがて傷が治り、疲労も回復したのを実感して「凄い……」と口にした。
やがてリーシャの治癒魔法が終わると青年は立ち上がり、
「どこのどなたかは知りませんが助かりました!感謝します!」
と頭を下げながらお礼を言ってきた。
「俺の名前はローゼット・ハミネ。この近くのハミネ町の領主であるルイス・ハミネの息子です」
と自己紹介をした。




