第2話 金欠のルナファミリー(11)
「なんか既視感があるなぁ……」
オニヒメの提案により彼女のお店で働く事になったルナは、渡されたエプロンをつけながら溜息をつく。
「…………このエプロン、可愛い」
既に着替え終わっていたツバキは更衣室にある鏡を見ながら嬉しそうにクルッと回り、ルナからの感想を求めているのかニコニコしながらルナの方を見つめていたので、
「うん、とっても可愛くて似合ってるよ」
そう言ってツバキの頭を撫でる。「…………えへへ」と嬉しそうに笑うツバキを見て、
(ホント可愛いなぁ!この可愛さを見れただけ良しとプラスに考える事にしよう!!)
そう思い、前回の過ちは繰り返さないと固く心に誓った。
「準備の方はどうですか?」
「あっ!待たせてごめんね。もう大丈夫だよ」
更衣室の外で待っているオニキシにそう返事をし、ルナとツバキは更衣室を出る。
「大きさも問題ないみたいですね。二人とも、とてもお似合いですよ」
「ふふ、ありがと」
オニキシの言葉にルナは笑顔で答える。お世辞を感じさせずに女性を褒めるオニキシを見て、ルナのオニキシへの好感度はどんどん上がっていった。
「早速ですが二人にはホールの接客をメインに働いてもらいたいです。…………といっても難しい事は考えず、お客様の席へお酒と料理を運んで貰うだけなので気楽に動いて下さい。何か困った事が起きたら近くに私がいますので、遠慮なく仰ってくださいね」
移動しながらこれからの業務についてオニキシは簡単に説明する。このお店の店長はオニヒメだが、実際のとこほぼオニキシが経営をしているらしい。
(まぁオニヒメが真面目に働くなんて想像出来ないしね)
そうルナは勝手に思い、オニキシに連れられてお店のホールへと踏み出した。
▽▽▽
「ルナさん、これをB6卓のお客様に!」
「了解!!」
「ツバキさん、今度はA8卓に持って行って下さい!」
「……分かったの!」
「あっ!ルナさん、あちらのお客様お帰りになられるので、席の片付けをお願いします!!」
「大丈夫!もう向かってるよ!!」
「……オニキシさん、A4卓のお客様から追加の注文だよ!」
「かしこまりました!…………オーダー、ブドウ酒にチーズの盛り合わせです!!」
働き始めて一時間が過ぎようとしていた。依然としてお店は忙しく、ルナもツバキも慣れない中慌ただしく動き回っていたが、オニキシの指揮とフォローのおかげで何とか迷惑をかけずに働く事が出来ていた。
「うむ、ちゃんと働けてるようじゃな」
様子を見に来たオニヒメは汗だくになって働くルナとツバキを見て満足そうに笑っている。
「もうオニヒメも少しは手伝ってよ!店長なんでしょ!?」
「店長はドシッと構えるもんなんじゃよ」
ルナは文句を言うがオニヒメは大して気にしていないようで、忙しいお店を見ながらお酒を飲んでいた。
「あれでいいの!?」
たまらず近くにいたオニキシに文句を言うが、
「ははっ……、オニヒメ様はあれで良いんですよ」
とオニキシは苦笑いを浮かべながら答える。納得いかないルナはムッとした表情でオニキシを見ると、ルナの言わんとする事を理解したのか、
「オニヒメ様の場合、働かれるよりもこうして何もせずお店をフラついてもらうほうが利益になるんですよ。…………ほら、」
そう言ってオニキシはとある方向を指差す。するとそこには、
「やぁオニヒメちゃん!オニヒメちゃんのとこの酒はいつ飲んでも絶品だね!!」
「そうじゃろ!そうじゃろ!!なんせワシと部下達が丹精込め作った一品ばかりじゃからな」
「おや?オニヒメちゃん、今日は見かけない人もいるね」
「あぁ、ルナとツバキか!ワシの大切な友達じゃよ」
「オニヒメちゃん!僕、今日は一人でおつかいに来たんだよ!」
「お〜偉いのぉ!ご褒美にワシからも菓子をやるぞ!」
そこにはお年寄りから主婦、更には小さい子供まで老若男女多くの人がオニヒメの周りに集まっていた。そしてオニヒメ含むその場全員、笑顔でとても楽しそうにしていた。
「オニヒメ様には人を惹きつける力があります。同じ妖狐のナロ様が崇拝を集めるならオニヒメ様は親しみを集めるのです。もちろんこのお店に来るお客様の目的の大半はお酒ですが、オニヒメ様に会う為にいらっしゃる方も多くいるんですよ」
そう言ってオニヒメを見つめてるオニキシの表情はオニヒメへの尊敬の眼差しであった。
「…………なるほどね」
言われてようやくルナも納得した。いわばオニヒメはこの店の看板娘的立ち位置なのだ。オニヒメがいる、それだけでこのお店には多くの人が集まり、笑顔が生まれるのだ。
「まぁ、理由は他にもありますが……」
そうボソッとオニキシが呟いたと同時に、
ガシャーン!!
「ぬぉぉぉ!またやってしまったのじゃぁぁぁ!」
「…………オニヒメ様が働こうとすれば何かしらのトラブルも一緒についてくるのですよ」
気分良くなり、お皿を下げようとして見事に全ての皿を床にぶち撒けたオニヒメを見て、やれやれといった表情でオニキシは笑い、オニヒメのフォローへと向かうのであった。
▽▽▽
「…………あれ?何も起こらなかった??」
気付けばお店は閉店時間を迎えており、最後の仕事であるお店の掃除をしながらルナはふと、今日はトラブルというトラブルに巻き込まれなった事に気付き驚く。
「…………疲れたけど楽しかったね」
ほぼ半日動き回っていたせいかツバキの顔には疲労が浮かんでいたが、その表情はどこか充実した満足そうな顔付きであった。
「ルナさん、ツバキさん、今日はありがとうございました。後はこちらでやりますので大丈夫ですよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えて終わりにしようかな」
ん〜と伸びをしてルナはオニキシにそう答える。
「あっ、それと少ないですが今日の分のお給金です」
「おっ、ありがと〜」
オニキシからお金を貰い、早速何かお酒を買って帰ろうかと悩んでいると、
「どうじゃったか?ワシの店は?」
「うん、とてもいい店だったよ!」
「…………オニヒメさん、人気者だったね」
「そうじゃろ!少しはお役にたてたかのぉ?」
「…………まぁね。ちょっといい事思いついたんだ」
そう言ってニヤッと笑うルナ。そう、ここ数日の経験を元に、ルナはルナの仲間達とお金を稼ぐ良い案を思い付いていた。