第2話 金欠のルナファミリー(9)
「……コホンッ。見苦しゅうとこ見せてすまんなぁ。……ホレ、イナも謝らんか」
「少々取り乱しました。申し訳ございません」
「ははっ……、少々ね……」
"反省中"と書かれたプレートを首からぶら下げて正座をしているイナにルナは苦笑する。先程の豹変はイナとナロにとっては日常茶飯事なのだろう。
「それで?今日は何しに来たん?」
「あぁ、ええーとね…………」
ルナはここに来た目的を簡単にナロに説明した。
「なるほどなぁ………」
ルナの話を聞き、ナロは少し考える素振りを見せた後、
「事情は分かったけど、ウチは力になれそうにないなぁ……」
と申し訳なさそうにそう答えた。
「ウチらはお金稼ぎっていう稼ぎは特にしてないんよ。基本的にここにお参りに来る者から頂くお賽銭と貢ぎ物で生活してるからなぁ」
「やっぱりそうだよねぇ…………」
ルナはこの神社に来て何となくそうなんじゃないかと予想はしていた。一緒にこの国を歩いてた時のナロの国民からの慕われようはかなりのものだ。そんなナロが崇拝されている神社だ。きっとそれだけで生活できるほどこの神社にはお賽銭等が集まるのだろう。
「お役に立てず申し訳ないなぁ。せめて夕飯くらいはご馳走様するわぁ」
「うん、じゃあお言葉に甘えようかな」
「よしッ!じゃあイナ、準備は頼みますぅ」
「かしこまりました」
そう言ってイナは立ち上がり部屋を出ていく。その後ろ姿を見送った後、
「あの子の事悪く思わないでや。あれでも中身はとても良い子なんよ」
「うん、分かってるよ」
ナロの言葉にルナはそう返す。その返事を聞いてナロも安心したようだ。
(まぁ、ナロの事が大好きっていうのは初対面でも嫌という程伝わったしね)
それは紛れもないルナの本心だ。形は違えど誰かをここまで好きになる人を、ルナは嫌いになるはずなどなかった。
▽▽▽
「お待たせ致しました」
「うわぁ、すごい美味しそう!」
「ええ、これはまたなんと彩り鮮やかな料理なんでしょう!」
並べられたイナの作った料理を見てルナとスイセンは感嘆の声をあげる。イナの作った料理はどれも和風料理の見た目と匂いだ。生前日本人のルナにはその料理が醸し出す誘惑に勝てる筈もなく、早く食べたいとソワソワしてしまっている。
「ほな、料理が冷める前に頂こうかぁ」
「そうだね!いっただきまーす!!」
パクッとルナは料理を口に入れる。その瞬間、口の中に優しい味が広がっていき、ルナは思わず、
「はわぁぁぁぁ…………」
と変な声を上げながら満面の笑みを浮かべてしまった。
ルナに続くようにスイセンも一口食べ、
「おぉ!初めて食べる料理ですが、薄味ながら素材の味を最大限に引き出すこの味付け、食べるだけで身体中がポカポカしてきますね!」
と驚きつつも次々と料理を口に運んでいく。
「気に入ったみたいでなによりだわぁ。この子の作る料理は絶品なんよ」
「うん!私イナの料理凄く気に入ったよ!!」
「お褒めの言葉、有難く頂戴いたします」
依然と"反省中"とかれたプレートを首に掛けているイナは静かにそう言ってお辞儀をする。しかしその様子はどこかソワソワしている様に思えた。
「ほな、ウチも頂こうかぁ」
そう言って料理に向けてナロが手を伸ばそうとしたその瞬間、
「お待ちください!!」
突如大声を出したイナにルナ達一同は驚いしまう。
「ど……どないしたん?」
ナロがそう尋ねるとサササッとイナはナロの真横に移動し、料理を手に取ると、
「はい、ナロ様。あ〜ん♡」
と手に取った料理をナロの口元へと運ぶ。
「ちょっ!イナ!?」
「んもぉ♡照れてるナロ様もなんて可愛いんですか!!」
「あ〜、もしかして酔ってる?」
ルナはイナの手に持つグラスに目をやりそう呟く。いつの間に飲んだのだろうか、イナは顔を赤くしており、何故か首にぶら下げているプレートの文字も"欲情中"に変わっていた。
「あぁぁ!この子、お酒にはとことん弱いのに!!」
全てを察したナロの悲鳴が部屋中に響き渡った。
それからイナは終始ナロにベタベタ甘えながらルナ達にいかにナロが可愛いかの演説を始め、夕飯を食べ終えて尚、ルナ達は死んだ目で夜通し付き合う羽目になった。