第2話 金欠のルナファミリー(8)
「最近ろくなことがない……」
レーベクスらとの狩り?を終えた翌日、身体中を襲う痛みに耐えながら、ルナはとある目的地へと向かう為歩いていた。
「魔王軍幹部となれば色々と大変なのですね。私もアスカで国の重役達と会う機会が多かったのですが、ルナ殿は彼らと同じく気苦労するタイプのように思えますよ」
同じくルナの隣を歩いているスイセンがそう語りかける。それにルナは「ハハッ」と笑い、
「私自身、まだ魔王軍幹部になって間も無いから幹部としての責任とかはあまり実感無いんだよね。………でも、大事な私の仲間の為ならこんな苦労も辛くは感じないよ」
「…………そういうところ、まさに上に立つべき人物の理想像ですよ」
「だといいんだけどね。…………と、目的地に着いたかな」
事前にミサから教えて貰った場所に着いたルナは、その目的地の目印である目の前の物を見上げる。
「ほほぉ、これはまた随分とご立派な……」
同じく隣にいるスイセンも見上げて思わず感嘆の声をあげる。二人の目の前には朱色に染められた立派な鳥居が立っていた。
「ここが魔王軍幹部、妖狐のナロ殿の住まいですか」
「その筈だよ。スイセンはナロと会うのは初めてだよね?」
「えぇ。しかし遠い地でも魔王軍幹部の者とあれば噂位は聞き及んでます。アスカは鎖国していたとはいえ、私は聖王国と内通してた時期がありましたので、その時に色々と…………」
気まずそうにそう答えるスイセンは、後悔の気持ちを込もってるのか、自嘲気味に苦笑いを浮かべる。そんな少しどんよりした空気を無くすべく、ルナは話を逸らそうと目の前の立派な鳥居に目をやり、
「ここはお寺?……いやどっちと言えば神社かな?まぁ、ナロらしい住まいと言えば住まいだね」
ナロの容姿は前世で言い伝えられていた稲荷様そのものだ。巫女服を着ていたし、イメージに似合う住まいだ。
「…………何方ですか?」
ルナ達の前方より声が聞こえたので、ルナ達は鳥居から視線をおろし、目の前を向く。そこにはナロと同じく巫女服を着て首から"掃除中"と書かれたプレートをぶら下げた、ケモ耳の女性が立っていた。
「あっ、初めして。私、新しく魔王軍幹部になった魔法少女のルナっていいます。ナロに用があって来たんだけど……」
「…………なるほど、貴女様が」
吟味するかのようにルナの事を上から下まで凝視し、ケモ耳の女性は手に持つ竹箒を持ったままルナ達に近づく。そしてルナ達の目の前まで近づき、ルナとスイセンの顔を交互に見つめると静かにお辞儀をし、
「申し遅れました。拙はナロ様の副官を務めておりますイナと申します。以後、お見知り置きを……」
「あ……うん、こちらこそよろしく」
物静かに挨拶をするイナからは、この世界に来てまだ会ったことの無いクールビューティーの雰囲気を感じ、ルナは思わず萎縮してしまった。
「お客人はナロ様に御用でしたよね。ナロ様でしたら今は本殿にいらっしゃいますのでご案内致します」
そう言ってイナは後ろを振り返り、スタスタと境内を歩き出す。その後ろ姿をルナとスイセンは置いてかれぬよう慌てて追いかける。
「…………随分と硬い雰囲気のお方ですね」
イナに聞こえないようルナの耳元でスイセンは小声でそう呟く。
「…………そうだね。今まであった幹部の副官の女の人はみんなクセが強かったから、なんか新鮮に感じるよ」
ルナもそう小声で返しながら、頭の中で今まであった幹部の副官を思い出す。出会った中で唯一の男性副官であったオニキシはかなり真面目な好青年であったが、それ以外の副官、死霊術師ユリウスの副官であるカルメア、獅子王レーベクスの副官である二ーリスは一癖も二癖もある女性、一言で言えば淫乱ビッチと脳筋女だ。色々と酷い目にあったルナからすれば、少し警戒をするところであるが、目の前を歩くイナからはそんな心配は不要に思えた。
▽▽▽
イナの後を追いながら歩いていると、やがて一つの大きな建物がルナ達の前に現れた。
「ナロ様はここにいらっしゃいます。どうぞこちらへ……」
ここが先程イナが言っていたこの神社の本殿なのだろう。そう言うとイナは本殿の入口の戸を開けて、ルナ達にも入るよう促す。
本殿の中はルナの思い浮かべる日本の神社そのままの造りであった。その和風を感じさせる造りにルナはどこか懐かし気を起こしていた。
「ナロ様はこのお部屋にいらっしゃいます。どうぞお入り下さい」
やがて一つの部屋の前に立ち止まったイナはルナ達にそう告げる。ルナは「お邪魔しまーす」と言ってその扉を開けると、
「おぉ!ルナやんか!ウチの家に来るなんてどないしたん?」
そこには部屋でくつろぎながらお酒を飲んでいるナロの姿があった。
「突然ごめんね。ちょっと聞きたいことがあって…………」
「んんぁぁぁあ!ナロ様ぁぁぁ♡お酒を飲む姿もなんて可愛らしいんですか!!」
「「………………え?」」
ルナの言葉を遮り、先程までとキャラが180°も変わったイナの言動にルナとスイセンは思わず彼女を見て唖然としてしまう。そんなルナ達など構わぬといった様子でイナはハァハァと甘い息をたてながらナロの傍に駆け寄り、
「可愛らしいぃぃ♡ナロ様こそこの世界の癒しです!はわわぁぁぁ♡」
「これイナ!お客さんがいてはるんよ!?」
頬擦りをするイナをうっとおしそうにあしらうナロ。
「…………やっぱクセ強いじゃねぇか」
そんな光景を見てルナは思わずそう呟いた。