第2話 金欠のルナファミリー(7)
「………………ふぇ?」
レーベクスの言っている意味が分からず、ルナはポカーンしてしまう。そんなルナを見て呆れるようにレーベクスは溜息をつき、
「いいか、狩りはただ相手を仕留めればいいってわけじゃねぇ!獲物へのダメージは最小限に抑え、かつ俺達の糧となる事への敬意を示して一撃で仕留めるんだ!!」
そう力説するレーベクス。その言葉には彼なりの狩りへの矜恃が込められていた。
「…………それなら!!」
ルナはステッキに魔力を込め、ステッキを剣へと変形させる。
「…………よし!これで…………」
「馬鹿野郎!!」
「グヘッ!」
再びレーベクスにキツイ一撃をもらってしまった。
「それで攻撃したら毛皮が血塗れになるだろうが!!それに下手に斬りつけたら肉の繊維も傷んじまう!!」
「ならどうしろと!?」
思わずルナは叫んでしまった。そんなルナを見て、「やれやれ……」とレーベクスは溜息をつき、
「二ーリス、手本を見せてやれ」
「…………ったく、仕方ないねぇ」
レーベクスに促され、二ーリスは魔獣の群れの前に立つ。
「……………………ふぅぅぅ」
落ち着きを見せるように二ーリスは深呼吸をし、
「……………………!ハッ!!!!」
そんな掛け声と共に二ーリスは魔獣の群れに突っ込んで行き、その拳で的確に魔獣の急所を攻撃し次々と魔獣を仕留めていく。そしてほんの十秒程で目の前にいる全ての魔獣を狩り尽くした。
「…………まぁ、こんなもんだね」
親指を立てながらニッコリとルナ達を見る二ーリス、
「分かったか?ああいう風に仕留めるんだ」
「「できるかァァァ!!」」
そしてそんなレーベクスの言葉にルナとロゼは同時に叫んだ。
「いやいや!そんな人間離れした動き、いきなり出来るわけないじゃん!?」
「兄貴と姉御はいつも要求する難易度がおかしいんだよ!!」
ブーブーと文句を言うルナとロゼ。そんな二人をレーベクスは呆れたような表情を向け、
「お前らなぁ、やる前から諦めてどうするんだ……」
そう言いながらレーベクスはルナとロゼの前まで歩く。そしてルナの前で立ち止まるとそっとルナの肩を叩き、
「魔法少女、お前は俺らが認めた魔王軍幹部なんだ。聖騎士とも渡り合い、ついこの前はあの伝説の吸血鬼とも相手したんだろ?もう少し自分の力を信じたらどうなんだ?」
「!?」
そう言われルナはハッとする。そして続けざまにレーベクスはロゼの頭を撫で、
「ロゼ、お前は俺や二ーリスの自慢の弟子だ。お前の強さは誰よりも俺らが分かっている。その俺が言うんだ。お前ならできる」
「!?」
ロゼもレーベクスの言葉に感化される。不思議な事にルナとロゼは次第に自分達でも出来るような気がしてきた。
「お前達は強い!その力、俺に見せてみろ!!」
「…………!よしッ、やってみるよ!!」
「あぁ!兄貴達に良いところ見せてやる!!」
自信に満ち溢れたルナとロゼはそう意気込み、近くにあった別の魔獣の巣穴にそれぞれ突っ込んで行った。
▽▽▽
「まぁ当然こうなるよね!?」
数分後、レーベクスの前でボロボロ姿になったルナが文句を言う。勢い任せに巣穴へ突撃したものの、魔法と武器を封じられたルナでは、魔獣の群れに為す術もなかった。
「やっぱ兄貴達の口車に乗るべきじゃなかった……」
ルナ同様、ボロボロになったロゼもふらつきながらこっちに来る。そんな二人を見たレーベクスと二ーリスは、
「情けねぇな」
「もっと気合いを入れなさいよ」
と厳しい言葉をルナ達に向ける。因みにルナとロゼが狩り漏らした魔獣の群れはそれぞれレーベクスと二ーリスが既に狩り終えている。二ーリスに至っては一人で50は超える数を相手したはずだが、呼吸一つも乱れていない。悔しながらも、ルナは二ーリス達の実力を改めて思い知った。
「…………予定変更だな」
「…………へ?」
ボロボロのルナ達を見てそう呟くレーベクス。それと同時にルナは嫌な予感を抱いた。そしてその予感が正しいと言わんばかりに顔を青ざめるロゼ。
「お前達の根性を鍛え直してやる!!オラ!かかってこい!!」
そう言ってレーベクスは荷物を起き、ルナ達に向き直る。
「そうだね。可愛い弟子と新しい仲間の為に人肌脱ぐか!」
続くように二ーリスも拳を構え始める。
「いやいや!狩りは!?」
以前ロゼからレーベクスらとの地獄の特訓の日々を聞かされていたルナは、そんな悪夢のような状況に身震いする。しかしレーベクスはそんな事お構い無しのようだ。
「その狩りのために鍛えるんだよ!!」
「この脳筋が!!」
何とかこの状況を抜け出せないかとルナは思案する。そしてそんなルナに、
「………………諦めろ」
と、まるで悟りを開いたかのように呟くロゼ。そんなロゼの様子を見て、ルナももう逃げられないと悟る。
「ではいくぞ!!」
「イヤァァァァァァ!!!!」
そしてレーベクス達の特訓は夜更けまで行われ、ルナとロゼは金策のアイデアを得られぬまま、更にボロボロになって家へと帰った。
せめてもの救いは、二ーリスの狩った魔獣の肉を分けてもらい、ルナ達の食料事情は何とかなった事であった。