第2話 金欠のルナファミリー(6)
「………………で、昨日は大変だったよ……」
「なにその面白そうな話。俺も行けば良かったなぁ」
「笑い事じゃないんだって!危うく借金負うところだったよんだよ!?お金無いのに!!」
「まぁ、そのお店の店長さんが優しくてよかったじゃねぇか。それに話聞いた感じ酒飲んだルナが悪いわけだし」
「うぅぅ。それを言われると何も反論出来ない……」
カルメアの働くガールズバーで一日体験した次の日、ルナとロゼは昨日の出来事を話しながらとある場所へと向かっていた。
「んで?働いてみて、何か収穫はあったのか?」
「どーだろ。でもツバキちゃん、楽しそうに接客してたんだよね。…………お酒に呑まれるまでは」
ハハハと苦笑いをするルナ。昨日は失敗したが、普通の飲食店で働くのはアリなのではとルナは考えている。
「まぁ、今は色々と考える時期なんだろうよ。…………っと、着いたぜ」
色々と話している内にルナ達は目的地であるとある屋敷に辿り着く。そして屋敷の入口にはそこの住人である二人がルナ達を待っているかのように立っていた。
「兄貴!姉御!お待たせしました!!」
「えぇ!?どうしたの急に!?」
二人を見るやいなや、ロゼは背筋をビシッと伸ばし、大声で挨拶をした後に深々とお辞儀をする。そんなロゼの元気ハツラツな挨拶を受け、
「おう!待っていたぞ我が愛弟子よ!!」
「全く、いきなり今日私達の仕事についていきたいなんて言うから慌てて準備したんだぞ!」
これまたロゼに劣らずの大声で会話をする二人の男女。彼らはロゼと拳を重ね合った後ルナの方を見て、
「お主も久しぶりだな、魔法少女!魔王城以来か!」
そう言って大きな手を差し伸ばす大柄な男は魔王軍幹部の一人、獅子王のレーベクスである。
「うん、今日は急な願いを聞いてくれてありがとね!」
ルナはレーベクスの手を握り返し、そしてレーベクスの隣に立つ獣人の女性を見る。
「えぇと、二ーリスさんだよね?ロゼから頼りになる人だって聞いてるよ」
「ハハッ、嬉しい事言ってくれるじゃんロゼ!こちらこそよろしくな!ルナ!」
レーベクスに続き二ーリスとも握手をし、ルナは改めて二人を見て、魔王軍随一の武闘派集団であるトップ二人の風格に圧倒される。ロゼが彼らを兄貴・姉御と呼び親しむのも分かる気がした。
「それで今日は二人の仕事を見学させてくれるって事だけど、二人は何の仕事をしているの?」
「なんだロゼから聞いてないのか?」
「いや、兄貴達が普段何してるのか俺も聞かされてないぜ?」
「そうだっけか!」
ロゼに言われてレーベクス大笑いしながらルナとロゼをニヤリと見つめ、
「俺らは普段狩りをしてるのさ!」
「狩り?」
「ああ!この国の近辺には危ない動物や魔獣が多く生息しているからな。ソイツらを狩って、それで得た肉を売り捌いている」
「…………なるほど。そういう稼ぎ方もありか」
レーベクスの話を聞いて、それならルナ達も出来るだろうと考える。実際旅に出てすぐの頃は、よく道中に遭遇した魔獣と戦闘し、その後フォーリアが解体してその肉を夕飯にしたりもしていた。それを肉屋に卸すとなれば、直ぐにでもルナ達の金策に役立つことだろう。
「よし!てなわけで出発するぞ!!」
「「おぉ!!」」
レーベクスの掛け声にルナとロゼは元気よく返事をした。
▽▽▽
「ヤバいヤバいヤバい!!」
「おら!魔法少女!!逃げてばかりじゃ狩りにならねぇぞ!!」
「多いって!?数が多すぎるって!!」
「気合いで何とかしろぉ!!」
およそ二十体に及ぶ大型の魔獣に逃げ惑うルナに、レーベクスは笑いながら野次を飛ばしてくる。狩場に着いたルナ達は今回の目当ての魔獣の巣を見つけ、そこからおびき寄せる為に巣の中に煙幕を放り投げた。ルナはてっきり数匹の巣だと思っていたが、予想外の数に驚き、しかも巣から出て来た魔獣が一斉にルナに襲いかかってきた為、こうして逃げ惑う羽目になってしまった。
「ほら!逃げてばかりじゃ始めらないよ!!」
そんなルナの様子を見ながら二ーリスもルナに声をかける。
「あー、もう!一気にやってやる!!」
覚悟を決め、ルナはその場に立ち止まり、振り返ってステッキを魔獣の群れに向け魔力を高め、
「ショット……」
「馬鹿野郎!!」
「ぐふッ!」
魔獣の群れに魔法を放とうとした瞬間、横からレーベクスの飛び蹴りを喰らった。あまりに突然の事に、魔獣でさえポカーンとしている。
「痛っ!なにするのさ!?」
レーベクスに恨みを込めた視線を投げるルナ。そんなルナにレーベクスはただ一言言い放つ。
「肉が痛むだろうが!!!」