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第2話 金欠のルナファミリー(5)

 「皆さまお待たせ致しました。それでは本日のスペシャルゲストを紹介します!」


 店長のアナウンスでホールにいる客は一斉にそちらに注視する。そして店長が指をパチンッと鳴らすと同時に店内の照明は落とされ、やがて一点にスポットライトが浴びせられる。そこに立っているのは、


 「みんな〜、今日はよろしくね〜♡」


 ドレスから一転、魔法少女の姿に変身し、媚び媚びの萌え萌えな声を出してウインクをするルナであった。


 「「「ウォォォォォォォォ!!!!」」」


 その可愛さの破壊力は抜群で、全ての男が歓声を上げる。

 

 「ルナさんはなんと、最近新しく魔王軍幹部になられた方ですよ!今日限りのスペシャルゲストなので、皆さん楽しんでいって下さい!」


 店長によるマイクの紹介でルナの周りには多くの男が集まる。


 「おぉ!新しい幹部様、なんて可愛らしいんだ!」


 「魔法少女?あの星天の魔女(・・・・・)とは違う人なのか?」


 「星天の魔女はこんな小さくはないだろ!」


 「というかオニヒメ様といいナロ様といい、魔王軍幹部の女性は幼い者が多くないか?」


 「いや、ナロ様は歳が…………」


 「馬鹿!それ以上は禁句だぞ!!」


 「待って待って!一度にそんな対応出来ないから!!」


 集まる男達の質問攻めにルナは慌てる。それでもこうして可愛いとチヤホヤされるのは凄く心地が良かった。


 「ほら皆さん、そう言ったお話はお酒を飲みながらゆっくりといたしましょう」


 パンパンと手を叩いてお客さんを席に誘導するカルメアは、「ほらルナ様も」と言って一緒に席へと連れていく。その際、カルメアは近くのテーブル席に置いてあったグラスをルナに渡した。ルナは一旦落ち着こうと、その飲み物を口に運ぼうとし、


 「……!?カルメア、これって……」


 「ふふ、ルナ様、これが飲みたかったんですよね?折角なので1杯どうでしょう?」


 「カ……カルメアァァァ!」


 ルナはカルメアから受け取ったお酒を躊躇無く口に運ぶ。口に入れた瞬間、柑橘系の香りが口の中に広がり、アルコール特有の味が身体全体に伝わっていく。前世ではよく原稿に詰まった時はお酒を飲んでいた為、久しぶりの、そしてこの世界に来て初めてのお酒は格段に美味しく感じられ、ルナはそのまま残りを一気に飲み干してしまった。


 「あら、いい飲みっぷりですね」


 「うん!凄く美味しいよ!!これだけで今日働きに来た甲斐があったよ!」


 「それはそれは…………。ではおかわり要りますか?」


 「喜んで!!」


▽▽▽

 「そうだよ〜。私はこの衣装で戦うんだ〜」


 ステッキを手に持ちながら、ルナは一緒の卓に座っている男達に魔法少女について熱弁していた。


 「でもそんなヒラヒラした服じゃ戦いにくいのでは?」


 「分かってないなぁ〜。魔法少女っていうのはそういうものだんだよ!」


 「な……なるほど?」


 ルナはアルコールも入っているせいか、普段に増して熱く語っている為、若干男達はついてこれてないようだが、それでも興味深そうにルナの話を聞き入っている。


 「…………ルナお姉ちゃん、凄いテンション」


 「少しハメを外しすぎている気もしますが……」


 そんなルナを一旦客席から離れたツバキとフォーリアは若干心配そうに眺めている。そんな心配の視線に気付いたのか、ルナはツバキとフォーリアの方を向き、


 「ほら、ツバキちゃんとフォーリアもこっちに来なよ!!」


 とルナは二人を手招いた。ツバキとフォーリアはそれに従い、それぞれルナの両隣りに座ると、


 「エヘヘ私の頼りになるお姉ちゃんのフォーリアに可愛い妹のツバキちゃんだよ〜♡」


 そう言ってルナは二人の肩を寄せ合う。ルナの紹介に二人は嬉しそうな表情を浮かべたが、そのすぐ、


 「ちよっ!ルナ様!?お酒臭いですよ!どれだけ飲んだんですか!?」


 「…………お姉ちゃん、力、強すぎ……」


 と直ぐに困った素振りを見せる。


 「まぁまぁ、いいからいいから!」


 しかしそんな二人を気にしないと言わんばかりルナは上機嫌に浮かれている。そして再びお酒を飲もうとグラスに手をかけようとし、


 「…………あれ?私のグラスは?」


 ついさっき目の前にあったはずのグラスが無くなっており、ルナは辺りを探す。


 「…………苦い。これ本当に美味しいの?」


 するとルナのグラスはツバキが持っており、ちょうど中身を全て飲み終えた後だった。


 「えっ!?ツバキちゃん飲んじゃったの!?」


 「ツバキ殿!それはお酒ですよ!!」


 「…………え?ルナお姉ちゃんも飲んでたし、ジュースじゃないの?」


 どうやら未成年のルナが堂々と飲酒をしていた事を知らなかったらしい。ルナが美味しそうにごくごく飲んでいたのを見て、ツバキも飲んでみたくなったようだ。


 そして直ぐに異変が起きた。


 「………………煩わしい」


 「「「「…………………………え?」」」」

 

 突然ツバキから発せられた低い声に、ルナもフォーリアもカルメアもそして近くにいた男性客も全員唖然とする。


 「…………私のお姉ちゃんに色目を使うなんて、随分と調子に乗った雄共ね」


 「…………えーと、ツバキちゃん?」


 ルナの全身から冷や汗が流れ、酔いなど一気に冷めた。そしてツバキの身体はみるみる大きくなり、


 「…………いっぺん身の程をわきまえてもらおうかしら?」


 大人の姿……、いや、先日アスカの国で死闘を繰り広げた覚醒したツバキの姿がそこにあった。ツバキは自身の影から妖刀アキギリを取り出し、その刃先を客に向ける。


 「ツバキちゃん!?!?!?」


 「落ち着いてください!!ツバキ殿!!!」


 慌てたルナとフォーリアは急いでツバキを抑える。そんな様子を見て、


 「これは驚きました。アルコールによって体内の奥底にある魔力が強制的に表出たみたいですね」


 とカルメアはお酒を飲みながらそう呟いた。


 「呑気な事言ってないで、手伝ってぇぇ!!」


 と店内にルナの叫び声が響き渡った。


 それからツバキはアルコールが抜けるまで男性客に襲いかかろうとし、男性客はパニックになって逃げ出し、落ち着いた頃にはボロボロになったホールを背に、店長にこっぴどく叱られ、ルナ達のお給料は全額弁償に充てる事となった。

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