第2話 金欠のルナファミリー(3)
緊急会議の翌日、結局話し合いでは良い案が浮かばなかったルナ達は、他の幹部達がどのようにお金を稼いでいるのか実際に見学する事にした。
「ここがユリウスのいる教会か……」
「随分と立派な建物ですね……」
ルナとフォーリアは並らんで教会を見上げる。そこまで大きくないとはいえ、煌びやかなステンドグラスによる装飾、全身を純白で染めた風体、そして頂上にそびえ立つ大きな十字架がこの教会の神秘性を醸し出している。
「ん?ルナか、何か用か?」
教会の中には椅子に座りながらタバコを吹かすこの教会の主、神父であり、死霊術師であり、魔王軍幹部の一人であるユリウスがいた。神父らしい服装とは裏腹に、その態度と言動はこの立派な教会において浮いてるように思える。
「ちょっとユリウスの教会が気になってね」
ルナはそう言って教会内を見渡す。この教会がなんの神を信仰しているのかは知らないが、数人が目を閉じて静かに祈りを捧げている。とりあえずルナとフォーリアも彼らに合わせてお祈りをし、そしてユリウスの元に向かった。
「ユリウスは何をしているの?」
「ん?俺か?」
ルナの質問にユリウスはタバコの煙を吐き出して一拍置いた後、
「特に何もしてねぇよ。俺はここでは飾りみたいなものだからな。…………まぁ、相談したいとか懺悔がしたいっていう奴らが来たら、そいつらの話を聞いてやってりするが、それもたまにだしな」
となんとも神父らしからぬ偉そうな態度でユリウスは言った。
「じゃあユリウスはどうやってお金を稼いでいるの?」
「金?」
質問の意図が分からないユリウスにルナはここに来た目的を話す。それを聞いたユリウスは、「そういう事か」と言って、新しいタバコに火を付け、
「俺はこの教会では1文足りとも稼いでいねえぞ?俺も副官のカルメアもそれに配下のダーウィン達も全員死者みたいなものだからな。飯とか食う必要ないしそこまで金は必要じゃねぇんだ」
参考にならなくて悪いなと呟くユリウス。ルナもユリウスの話を聞いて言われてみればそうかと納得する。それに教会はお金を稼ぐお店とは別のものだ。見た目とは裏腹にユリウスは善意でこの教会を運営しているのだろう。
「…………とはいえ、俺らも全く金を持ってないわけじゃねぇ。一応一人が資金面で活動してるのがいるからな」
「??」
「あーちょうど帰ってきたみたいだな」
ユリウスがそう言ったと同時に教会のドアが開かれ一人の女性が向かってくる。
「主様、ただいま戻りました……。おや?お客人ですか」
「ちょうどお前の話をしようとしたところだ」
「??何の話でしょうか?」
そう言いつつルナ達に方を向き、丁寧にドレスをつまみお辞儀をする絶世の美女はユリウスの副官であるカルメアである。
「さっき言った通り俺らの資金面はカルメアの稼ぎが大半だ。…………まぁ、コイツの稼いだ金の一割しか貰ってないがな」
「おや?もしかしたらルナ様達は私の仕事に興味がおありで?」
今のユリウスの言葉でルナ達が来た理由を何となく察したのか、カルメアはルナにそう尋ねる。そのカルメアの顔は少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
「うん。私達もどうにかしてお金を稼がないといけないから、参考にするため今幹部のみんなに聞き回っているんだ」
「なるほど…………、でしたら一度、私の職場に来ませんか?ルナ様達なら即戦力として扱ってもらえますよ」
とカルメアは提案する。
「いいの!?それじゃお願いしようかな!」
「分かりました。では夕方頃にもう一度ここに来て頂けますか?あと出来れば、新しくお仲間になったという吸血鬼の少女も一緒に来てください」
「了解!じゃあよろしくね、カルメア」
そう約束したルナはフォーリアと一緒に一度家に帰ることにした。この時のルナは気付かなかった。カルメアのまるで新しいおもちゃを見つけた様なワクワクした表情でいた事、ユリウスが「まぁ頑張れ」と同情するかのように呟いた事。そしてルナは忘れている。カルメアは淫魔である事を。