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第1話 ツバキのおもてなし(2)

 「……出来た」


 ツバキはキラキラした笑顔で自身の作った料理を持ってフォーリアを見る。そしてフォーリアはそんなツバキの顔と料理を交互に見て、


 「………出来ましたか」


 ひきつりそうな顔を何とか堪えながら、そう答えるのが精一杯であった。


 (これは何なのですか!?)


 そして内心ではそう叫んでいる。


 ツバキの作った料理、それは料理と呼んで良いのか分からなかった。まず見た目、どうして肉を焼いただけでこんな状態になるのかと不思議に思うほどドロドロとしたスライム状の姿をしており、そこから鼻を刺激するような異臭が漂う。それらを踏まえ、フォーリアは直感する。これは決して口に入れては駄目な物であると。


 しかし当の本人であるツバキは自信作なのかキラキラした笑顔と一緒に少し誇らしげにしたり顔をしているから何ともコメントしづらい。


 「………どう、かな?」


 反応の薄いフォーリアを見てだんだんと不安になってきたのか、目を伏せながらそう聞いてくる。


 「い……いえ、始めてみる料理だったので少し驚いただけですよ」


 言えない。ツバキに対してとてもこの世の物とは思えないとはフォーリアは言えない。


 「……そう。なら良かった」


 フォーリアの言葉に少し安心したツバキは胸を撫で下ろす。そしてフォーリアはもう一度ツバキの作った料理を見る。


 (み、見た目はアレでも味はきっと…)


 フォーリアは恐る恐るツバキの料理を一口口にする。そして口にいれた瞬間、


 「……!?!?!?」


 吐き出しそうになるのをフォーリアは全力で我慢する。しかし本能が告げる。これを体内に入れるのはまずいと。


 口に入れたままツバキを見てみれば、ツバキはドキドキした顔でフォーリアの事をジーと見つめてる。


 (くっ、覚悟を決めろ!)


 そしてフォーリアは飲み込んだ。その刹那、フォーリアの味覚は酸味、苦味、甘味、辛味とあらゆるものに支配された。


 「はぁ…はあ…、ツバキ殿。今まで料理の経験は?」


 それでも気合いで何とか凌いだフォーリアはツバキにそう尋ねる。


 「……昔お城で一回お兄ちゃんに作ったことがあるよ。その時はお兄ちゃんは美味しいって言ってくれたの。……でもその後はお城のみんなからお姫様なんだから料理はしなくていいのよって言われて作らせてもらえなかった」


 「……なるほどなるほど」


 少し悲しげに言うツバキには申し訳ないが、そのエピソードを聞いてフォーリアは大体を察した。きっとアスカの国の人々はツバキを傷付けないよう気を遣ったのだろう。しかしそのお陰でツバキはザクロに美味しいって言われた経験だけである程度自身の料理に自信をつけてしまったようだ。


 (……さてどうしましょうか)


 フォーリアもツバキの事は傷つけたくない、かといってこんな料理を明日ルナ達に振る舞う訳にはいかない。


 となれば必然的にフォーリアがとる手段は一つであった。


 「ツバキ殿、折角ですしもっと料理が美味しくなるよう教えますので、一緒に作りましょうか(・・・・・・・・・・)


 フォーリアが全てを監督し、完璧な料理をツバキに作らせる。これがフォーリアにとっても、ツバキにとっても、そして料理を食べるルナ達にとっても誰も傷付かない最善の方法だ。


 「……!ありがとう!執事のお姉ちゃん!!」


 ツバキもそんなフォーリアの思惑など気付いていないようで嬉しそうな反応を見せる。


 「はい、それでは早速始めましょうか」


 「……うん!」


 ~30分後~


 「違います!まるごと焼くのではなく、まず皮を剥いて一口サイズに切ってください!」


 「…………?この方が食べ応えがあるんじゃないの?」


 「ちょっと待ってください!今鍋の中に何を入れました!?」


 「…………これを入れたら美味しくなると思うの」


 「駄目です!そんなに一気に火を強くしないで下さい!!」


 「…………?この方が早く焼けるんじゃないの?」


 甘かった、自分の考えなど甘かったのだとフォーリアは痛感する。それほどツバキの料理に対する知識とセンスは壊滅的であったのだ。


 「……料理って大変」


 「…………そうですね」


 様々な食材が飛び散り、自身も調味料を何故か身体中に浴びているツバキは目をぱちくりとしながらそう呟き、フォーリアもそれに心からの本音を溢す。


 「……やっぱり私は料理をしちゃ駄目なのかな」


 上手くいかない事にツバキは落ち込んでしまう。その目には涙も潤んでいる。


 「そんなことないです!」


 そんなツバキを見てフォーリアは力強くそう答えた。


 「ツバキ殿、料理で一番大切なのは何か分かりますか?」


 「…………味?」


 フォーリアの質問に少し考えた後、ツバキはそう答える。それにフォーリアは首を横に降って、


 「確かに料理にとって美味しさは大事な要素です。でもそれ以上に大切なのは気持ちですよ」


 と答えた。


 「……気持ち」


 「はい、ツバキ殿はかな……少し料理に慣れてないかもしれませんが、それでもルナ様達に感謝の気持ちを料理で伝えたいという気持ちはとても伝わってきます」


 とフォーリアもこれもまた本音をツバキに伝える。そしてそんなフォーリアの想いをきちんと受け止めたのだろう、ツバキはしっかりとフォーリアの瞳を見つめて、


 「……分かった。もう一度教えて!」


 「ええ、もちろんです」


 ツバキとフォーリアは互いに笑顔でそう言い合った。


 その日はルナ達が帰ってくるまで二人の秘密の特訓は続き、そして歓迎会の日を迎えた。


 

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