第3話 三人の旅路(3)
「とりあえず自己紹介からだな。俺はヒナギ、まぁ、旅人ってところだな。」
とヒナギと名乗る男が丁寧なのか偉そうなのかよく分からない態度で名乗った。
「ワシはオニヒメと申すのじゃ。こちらのヒナギ様にお仕えしておる鬼族じゃ」
と今度はオニヒメと名乗る女の子が無い胸を張ってそう言った。その瞬間、
「鬼族!?という事は貴方方は魔族という事ですか!?」
とフォーリアがレイピアをヒナギとオニヒメに向けた。
「まぁ落ち着けって、執事さんよ」
フォーリアのレイピアにヒナギは全く動揺せず、「やれやれ」と言いながら両手を上げ肩をすくめる。
「さっきコイツが言ったように俺達はお前らに敵対する意思は微塵もない。なんならこの武器をお前らに預けるぞ」
と言ってヒナギは腰元の杖と剣をそれぞれ俺とリーシャの方に放り投げた。
「うわっ!」
突然投げられた剣に、リーシャは慌てつつも何とかキャッチする。俺もヒナギの投げた杖をパシッと手に取った。
「お〜二人ともナイスキャッチ!」
とヒナギは笑いながら囃し立てる。咄嗟の投擲に攻撃と思ったのか「貴様……」とフォーリアがヒナギを睨む。それに対しても
「武器を預けただけだって、そうカリカリすんなよ」
とフォーリアの構えるレイピアには目もくれず、フォーリアに近づいて肩をポンッと触った。
「ヒナギ様よ。流石に今のは挑発と捉えられてもしょうがない思うぞ」
はぁ……と溜息をつきながらオニヒメがヒナギを嗜める。オニヒメの言葉に「ん?そうか?」とヒナギは軽く返事をし、
「とりあえず飯を食べよう!話は飯を食いながらでもいいだろ?執事さん?」
と笑いながらフォーリアのレイピアを掴み、そっと下ろさせた。
そのままスタスタとヒナギは俺達の焚き火の方へ歩いていき、さも当然のように座り込む。俺達3人はどうしたものかとお互いの顔を見合わせる。そこに、
「スマンの……、ヒナギ様の無礼な振る舞いは変わってワシが謝罪するのじゃ」
とオニヒメが頭を下げてきた。この様子からみて俺達への敵意が無いことは本当なんだろうと伝わってくる。
「ま、まぁいいんじゃないかな?武器も渡してくれたし、オニヒメさんも謝ってくれたんだし」
とリーシャがオニヒメに頭を上げるよう言って俺達の方を見る。
「私も大丈夫かな。あのヒナギって人は感じ悪いけどオニヒメさんはまともそうだし」
俺も特に反対ってワケではないのでリーシャに同意し、フォーリアの方を見る。俺とリーシャに見つめられたフォーリアは「はぁ……」と溜息をつき、
「お二人がそう言うのでしたら私も構いませんよ。魔族と言っても魔王軍関係とは限りませんし、鬼族の貴方様には色々と聞きたいことがありますしね」
とオニヒメの方を見てフォーリアが答えた。その言葉に「誠に感謝致しますぞ」とホッとしたような表情をオニヒメは浮かべ、
「きちんとワシのことは説明するぞ。……とりあえずワシらもヒナギ様の所へ向かいましょうぞ」
とオニヒメが俺達にそう言った。
「ちょっと待ってオニヒメさん、先に聞きたいことがあるんだけど」
俺はずっと気になっていた事をオニヒメに尋ねる為呼び止める。
「なんじゃ?聞きたいことなら夕餉の時にまとめて話してやるぞ?」
「いや、どうしても先に聞いておきたい事があるの!」
「むぅ、……なんじゃ?簡単に答えられる内容なら今答えが……」
とオニヒメは俺の顔を見上げながら尋ねる。
俺が今からしようとしている質問は失礼な物になるかもしれない。しかし、聞かなかった事によって、この後話をする中で失礼な発言や態度をしてしまう可能性もある。……なので思い切って聞くことにした。
「オニヒメさんって何歳?」
「…………は?」
オニヒメは俺が何でこんな質問をしてるんだ的な事を考えてるのだろう、素で聞き返してきた。俺はそれに、
「いや、失礼かもしれませんがオニヒメさんの見た目ってかなり幼く見えるのに、口調や雰囲気も落ち着いていて凄い年よ……大人びているように感じているので」
「今お主年寄りって言いかけなかったか?」
ギロッとした目つきで俺の方を睨んで来たので、俺は冷や汗を浮かべて視線を逸らす。「まぁ、気にしてないから別に構わんが」とオニヒメが言ったので怒ってはいないようだ。
そう、オニヒメは見た目10歳程度なのに物腰はご年配の方のそれである。前世で観た異世界物のアニメとかだとよく、姿は幼いけど歳は余裕で100超えてる所謂ロリババアが結構キャラとしていた。それにオニヒメは自分で鬼族、つまり鬼だと言っていた。鬼なら人間と歳の取り方が違う可能性も全然ある。そうなれば俺はかなり年上の人に失礼な言い方をしてしまうかもしれない。
「なるほどのぅ、確かにワシはよく齢を間違われるからお主が気になるのも仕方ないのかものぅ」
とオニヒメは俺の質問の意図を察したのか、うんうんと頷く。
|(やっぱり相当年上の人だったか……、口調とか礼儀は気を付けないと)
と俺が思っていると、オニヒメはドンッと手を胸にやり
「ワシは9歳じゃ!」
「ただのロリじゃねぇか!」
ドヤ顔で胸を張るオニヒメに俺はつかさずツッコんだ。
▽▽▽
ルナさんとオニヒメさんがワイワイ話してるのを横で聞きながら、私はヒナギさんの事を見つめていた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「あ〜うん。ちょっとね……」
隣にいたフォーリアが話しかけてきたので、私も返事をするが目線はヒナギさんに向けたままだ。
「あの方が気になるのですか?」
フォーリアが私の目線の先を見て尋ねてきた。
「あのヒナギさんって人、どうしてか初めて会ったって気がしないのよね、なんと言うか……懐かしい気がするのよ」
と私は言った。そう、何故かヒナギさんを見た時から私はどこか昔に会ってる様な気がしてならないのだ。でも私は物心ついた時からあの集落で暮らしている。少なくともその時に会ったという事は無いはずだ。ということは……
|(集落に来る前って事?そうだとしたら生まれ故郷という事になるよね?でもお父さんの話じゃ、私は産まれてすぐ両親を魔王に殺されて、直ぐに今のお父さんに引き取られたんだよね?じゃあいつ会ったんだろう?)
考えても考えても一向に思い出せる気はしない。そしてもう一つ気になる事がある。
「この剣……」
そう、ヒナギさんから渡された彼の剣なのだが、不思議と勝手に手が馴染んでいるのだ。私はこの様な立派な剣を持ったことがない。精々森に行く時に持つ小刀くらいだ。なのにこの剣は何故かしっくりくる。見た目の割に重さも差程感じないし、むしろ不思議な事に身体が軽くなってる気さえするのだ。
|(うーん、この剣が特別な物なのかしら?ヒナギさんって只者では無い気配もするし、そんな人の持つ剣だから不思議な力でもあるのかな?)
「うん、やっぱり考えても分からない事は分からないよね……」
私はボソッとそう呟いた。そう、集落にずっといた私は所謂箱入り娘だ。外の世界は分からない事の方が多いし、これ以上気にしてもしょうがないだろう。
「とりあえず私達も行きましょ!」
吹っ切れた私はフォーリアの手を引き、ルナさんとオニヒメさんに続いて焚き火の方へ向かった。