第6話 月下激闘(24)
再び意識が戻ったルナは周りを見て唖然とする。
場所はついさっきまで戦っていた森と変わらない、しかし周囲の景色が変わっていた。辺りの木々は軒並み破壊され、そしてルナの近くにはボロボロになっている仲間たちがいた。
「あは♪ようやく目が覚めたみたいですね♪」
ルナの戻りにいち早く気が付いたミサがボロボロになりながらも笑顔で話しかけてくる。
「ミサ!一体何があったの!?」
「ちょっと吸血鬼ちゃんが暴れちゃったのでみんなで抑えてたんですよ♪」
どうやらルナ達がツバキの魂の世界に潜っている間、現実世界ではツバキが再び暴走し暴れまわってたらしい。しかしルナとザクロ皇子を信じ、ツバキの事を傷つけないよう、必死に時間を稼いでくれたようだ。
「それで?ルナちゃん達が戻ってきて吸血鬼ちゃんの暴走が治まったって事は?」
「うん………………」
ルナはツバキを見つめる。ツバキはまるでフリーズしてるかの如く静かに立っていた。
「ツバキちゃんの心をこじ開けられた筈だよ」
そうルナが告げた瞬間、
「………………お兄ちゃん?…………お姉ちゃん?」
「…………!ツバキ!!」
意識を取り戻したのかツバキは弱々しい声をあげる。そしてルナと同じく意識を戻していたザクロ皇子がツバキの元へ駆け寄った。
「……!!……私、…………みんなに酷い事…………」
暴走している時の記憶があるのか、はたまた周りの惨状を見て察したのか、ツバキは顔を青ざめてふらつき倒れかける。
「気にするな!お前は何も悪くない!!」
倒れかかるツバキをザクロ皇子が受け止め、優しくそして力強くツバキを抱きしめた。
「元はと言えば俺がお前を傷付けたのが悪いんだ!俺の方こそ情けない兄で済まない!!」
「…………!そんな事…………ない!」
ザクロ皇子の言葉を受けツバキは泣き出す。
「…………私、暗い闇の中にいた。…………でもね途中で暖かい光りが差し込んだの」
「…………それはきっとカーミュラ様の想いだ」
「…………そうだったんだ」
ツバキは自身の胸に手を当てる。まるでそこにいないはずのカーミュラの事を想うように。
「…………ありがとう…………ありがとう…………」
そしてザクロ皇子に抱きつかれたまま、ツバキはひたすらに感謝の言葉を述べ、泣き続けた。
▽▽▽
「あは♪尊いですね♪」
「だねぇ」
ツバキとザクロ皇子を遠目で眺めながらルナ達はようやく一息つく事が出来た。現状まだ問題を全て解決した訳では無いが、カーミュラの想いの力も合わさり、ツバキの暴走は落ち着いている。
「それで?この後はどうするんだ?」
魔人化しているロゼがルナの近くにやってきてそう尋ねてくる。ロゼもさっき再会した時よりボロボロになっているあたり、ルナ達がツバキの魂に潜っている間必死に対応してくれみたいだ。
「とりあえず暴走を完全に消すには私の魔法、魔力付与が必要みたいなんだ。でもまぁ、ひとまずは兄妹の時間をゆっくりさせるのも良いかもね」
ルナは傷ついた仲間達に回復魔法をかけながらロゼに説明する。「あぁ、俺やフォーリアに使ったあの魔法か」とロゼは懐かしむようにそう呟く。実際あのエルフの集落での戦いから一ヶ月と過ぎて居ないはずだが、この世界に転生して色々な出来事を経験し、ルナもすごい昔の様に感じていた。
「とりあえずこれで無事に問題解決ですね」
とフォーリアも安心した様に呟いたその時だった。
「………………!!ツバキ!!!」
突然ザクロ皇子の大声が響き渡り、ルナ達は一斉にツバキとザクロ皇子の方を振り向く。
「…………うぅ、…………お兄ちゃん…………離れて!」
ツバキの様子がどこかおかしい。ツバキの身体が小刻みに震えだし、そして…………
「いかん!また暴走が始まったのか!?」
オニヒメは目を見開き驚く。
「なんで!?暴走は治まったんじゃないの!?」
ルナも急ぎ魔力を練り、直ぐにでも特異魔法、魔力付与を放てる準備に取り掛かるが、
「…………最悪です」
そう言い放ったミサの前にルナは手を止めてしまった。
「どういう事なの!?ミサ!!」
「吸血鬼ちゃんの暴走した魔力が本来の魔力ではなく、吸血鬼ちゃんの生命エネルギー自体を蝕み始めました!」
ミサは舌打ち混じりにそう告げる。ミサの様子から事態はかなり重いようだ。
「えっ、じゃあ…………」
「はい…………。ルナちゃんの魔力付与で与えられるのはあくまで魔力だけです。生命エネルギーとなれば話が変わってきます」
「ならどうすれば!?」
「…………誰かの生命エネルギーを吸血鬼ちゃんに与えるしかありません」
「なら私の…………」
「駄目です!!」
ルナが言葉を言い終える前にミサは大声で遮った。
「それはルナちゃんの死を意味するのですよ」
「なっ!?」
ミサの言葉にルナは愕然としてしまう。
「ルナちゃんの死はリーシャちゃんの死にも繋がります。魔王様の副官としてそれは許容できません」
「そんな…………」
いくらルナでもリーシャの命までは犠牲に出来ない。リーシャなら気にしないでと言いそうだが、やはりルナにはその覚悟が持てないのだ。
「なら俺の生命エネルギーを使ってくれ!!」
そう叫んだのは今も必死にツバキの事を抱きしめているザクロ皇子であった。
「元の発端はこの俺だ!妹の為に使えるなら惜しくな…………」
「ふざけるな!!」
そして今度はそんなザクロ皇子の言葉をリンドウが遮った。
「お前はこの国の皇子なんだぞ!それにお前が死んだら誰よりも悲しむのはツバキ様だ!!そんな事、親友の私がさせない!!」
リンドウの言葉にザクロ皇子は「ぐっ……」と言葉を詰まらせる。
「ミサ殿!私の生命エネルギーは使えないか!?」
「…………貴方の生命エネルギー全て無くなります。それは死を意味しますよ」
「構いません!!」
「……………………だ、…………ダメ」
そんなか弱い声が辺りに響き渡る。
「…………私の為に…………死ぬ……なんて……そんなのダメ」
苦しいはずなのにそんなことを言うツバキは笑っていた。
「…………最後に…………みんなに助けられて、私……幸せだったよ……」
そう口にしツバキは意識を失った。
「ツバキ!ツバキ!!」
ザクロ皇子は泣き叫びながらツバキの身体を揺らすがツバキは一向に反応しない。
「…………っ!構いません、ミサ殿!私の生命エネルギーを使ってくださ…………」
「その必要はありません」
突如背後から聞こえた声に一同が驚く。
「妖刀アキギリよ。主の為、眷属たる私の生命エネルギーを吸いとれ」
そこにいたのは今まさに自らの胸に妖刀アキギリを突き刺したスミレであった。