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第6話 月下激闘(20)

 全ての鮮血の時雨がルナ達に降り注ぎ、辺り一面は砂塵と血飛沫によって視界が悪くなっていた。


 ツバキは影の傘をしまい、飛び散った鮮血の時雨を体内に吸収する。この技の利点は他者の血液を操るだけでなく相手の血液を自身に取り込むことで魔力を回復できる事だ。暴走と魔力進化(ダークエヴォル)、それらによって急激に魔力の消耗が激しくなっているツバキにとって、この技は自身の命を延命させるのに必要不可欠であった。


 「………………あら?」


 ルナとオニヒメ、二人の魔力を取り込み終えツバキは首を傾げる。


 「…………あの娘の魔力、不思議な感じね」


 オニヒメの魔力は自分より種族的には格下とはいえ、吸血鬼の次に鬼族の中でも位の高い鬼神のものだ。ツバキの魔力とも相性が良く、少ない量であったがそれでもかなりの魔力を取り戻す事が出来た。


 引っかかったのはルナの方の魔力である。


 「…………何故かしら、あの娘の魔力とは別に小さいけど別の魔力反応があるわね。…………それに」


 ツバキは自身の胸に手を当てる。


 「…………なんか温かいわ」


 普通他者の魔力、特に別種族の(魔力)を吸収するのは多少の嫌悪感を感じるものなのだが、不思議とルナの魔力からはそういったものを感じない。寧ろ心地良さすら感じていた。


 「…………なんなのかしら?」


 ツバキの身体が、魔力が何かに呼びかけられている。そしてツバキは次第にもっとルナの魔力を欲したくなっていた。


 「…………折角だし死体から残りの血も頂こうかしら。…………あら?」


 ちょうど砂塵も無くなり、視界が晴れてきたのでツバキはルナ達の元へ歩み寄ろうとするが、


 「…………消えた?」


 そこにあるはずの二人の死体が見当たらない。 辺りを見渡してみるがやはり二人の姿は無かった。


 「…………あの攻撃をあの状態で避けたの?」


 ツバキは目を閉じて周囲の魔力を調べる。すると少し離れた位置にルナ達と思える魔力反応を感知した。


 「…………どうやって逃げたのかしら?…………まぁ、いいわ。行けば分かるしね」


 ツバキは不敵に笑うとルナ達の大体の位置を把握し、影の中へと潜り込んだ。


▽▽▽

 「はぁ……はぁ……、助かったぞ、ミサ様」


 近くの木に寄りかかりながら絶体絶命のピンチを助けてくれたミサにオニヒメはお礼を言う。


 「いえいえ♪それにしても凄い魔力でしたね吸血鬼ちゃん♪」


 ツバキの大技、鮮血の時雨(ブラッディスコール)厄災(カラミティ)がルナ達に直撃する寸前、スミレを制圧して戻ってきたミサの空間移動によって、ルナ達はあの場を凌ぐ事が出来た。


 「あの魔力の感じ…………、もしかして吸血鬼ちゃん魔力進化でもしましたか?」


 「その通りじゃ」


 「あは♪それは面倒な事になりましたね♪」


 状況を何となく察したミサはオニヒメと状況の確認を始める。ミサとオニヒメが話し合ってる中、先程のツバキの魔力進化と呼ばれている状態が何なのか分からないルナは二人に尋ねてみることにした。


 「ねぇ、さっきオニヒメも言ってたけど魔力進化って何なの?」


 「そうですね。ルナちゃんには一から説明しますね♪」


 「大丈夫か?今は時間も惜しいと思うのじゃが」


 「ツバキちゃんの魔力は動いてませんし、暴走と魔力進化で消耗した魔力も恐らくさっきの血の雨みたいな魔法で回復したのでしょう。魔力が増えているのを感じますよ♪」


 魔力の扱いや知識、感知に長けるミサが言うのであれば大丈夫なのだろうとオニヒメは納得したようだ。オニヒメがミサに頷くのを確認するとミサはルナに説明を始める。


 「魔力進化(ダークエヴォル)…………、簡単に言えば魔力の暴走を自ら意図的に起こし、それを己で制御して魔力を覚醒させる魔族の切り札的状態です」


 「暴走を自発的に?」


 ルナはミサのこの説明を受け、魔力進化とは何なのかを大まかに理解する。しかし言葉で理解してもルナはリーシャと自分自身の暴走、そして先程のツバキの魔力暴走を経験している。そんな暴走状態を自分でコントロール出来るのか疑問に思った。


 「有り得ないって顔してますね♪実際に魔力進化が出来る魔族なんてこの世界に数えられる程しかいません。前に話しましたがそもそも魔力を暴走させられる魔族はほんの一部、そこから魔力進化が出来る者なんてずば抜けた才能か何かしらの能力持ちだけです。現に今の魔王軍でも魔力進化出来るのは魔王様にナロちゃん含む幹部の半数、それ以外だと私やアンジュ君、

あとオニキシ君位ですね♪」


 「えっ!?オニキシさんも魔力進化出来るの?」


 ルナはミサの言葉に驚きオニヒメの方を見る。魔王であるヒナギとその副官であるミサとアンジュ(会ったこと無いが)が魔力進化出来るのは納得だが、幹部でも半数が出来ないと言われている魔力進化をオニキシが扱えるのは申し訳ないが意外に思えたのだ。


 「まぁオニキシはワシらが出会う物心ついた時から使えてたからなぁ、生まれ持った天性の才能じゃろう。とはいえまだまだ未完成で使えて数分、魔力進化後の力のコントロールも出来ないから使うのは禁止させておる。…………まぁ、魔力進化が出来ないワシが言うのもおかしな話なんじゃがな」


 とオニヒメは自嘲気味に笑いながらも説明する。


 「とまぁ、吸血鬼ちゃんは当初暴走状態であったとはいえある程度自我を保てるよう暴走する魔力を抑えていたんです。その枷を解き放って暴走する魔力を極限まで高め、且つそれをコントロールする術を吸血鬼ちゃんは手にする事を成功した。…………というのが現状です♪」


 「うん、ありがとう」


 ミサの説明を一通り聞いてルナは考える。つまり戦闘当初のツバキは言い方を変えれば手加減していた様な事だ。その状態でさえ、ルナとオニヒメは二人がかりで苦戦した。作戦があったとはいてそこに明確な魔力差があり、今はその時よりも格段に強く、且つその力をツバキ本人の人格とは違うとはいえコントロール出来ると…………。改めて考えてもかなり厳しい状態だ。


 「それでどうします、ルナちゃん?」


 ミサは神妙な表情でルナに尋ねる。


 「吸血鬼ちゃん程の魔力の持ち主が魔力進化したとなれば当初の作戦は現実味がありません。私個人としてはこのまま逃げに入り、吸血鬼ちゃんの魔力が無くなって勝手に自滅するのも一つの手だと思いますよ?」


 「………………………変わらないよ」


 ミサの言葉にルナは静かにそう返す。


 「それでも私はツバキちゃんを助けたい。どんなに無謀でも私はリーシャと約束したんだから」


 「まぁお主ならそう言うじゃろうな」


 「ですね♪愚問でした♪♪」


 「たがら二人とも、もう一度手を貸して」


 ルナの言葉にオニヒメとミサは笑顔で頷く。


 そして…………、


 「………………話は終わった?」


 ルナ達の目の前にいつの間にか立っているツバキはそう口にした。

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