第6話 月下激闘(12)
「ツバキちゃん…………、君を助けに来たよ」
笑顔でそう口にするルナにスミレは難色を示す。
「助けに…………というのはおかしな話ですね。ツバキ様は望んでこちらにいるんですよ?」
スミレは妖刀アキギリを構えながらツバキの前に立つ。
「あは♪貴女は黙ってくれますか♪」
そんなスミレにミサはいつもの調子でそう告げるが、そんな態度と表情とは裏腹に凄まじい魔力と殺気を放っている。
「…………穏やかでないわね」
そんなミサの様子を見て覚醒したツバキはそう言いつつも、どこか他人事のような態度で薄ら笑みを浮かべてルナ達をスミレの後ろから眺めている。
「さすがワシら鬼族の頂点の吸血鬼。3対2でも余裕みたいじゃな」
「…………あら?その角…………、貴女も鬼なのね。それなら貴女も私の眷属になる?」
「光栄なお誘いじゃが、ワシは既に主君を持っているのじゃ。丁重にお断りさせてもらおうかのぉ」
「…………ツバキ様。眷属は私一人では不満なのですか?」
「…………冗談よ。そんな妬かないでちょうだい」
ツバキとオニヒメの軽いやり取りにムスッとしたスミレをツバキは上品に笑いながらたしなめる。これからこの国で起きた吸血鬼騒動の最終決戦が行われる場にしては和んだ空気が流れていた。
「…………それで?」
そしてそんな空気の中、
「…………助けに来たってどういう事かしら?さっきスミレも言ってたけど私は私の意思でここにいるのだけれど?」
ツバキはルナに問いかける。そしてその言葉と共にこの場の空気を一変させてしまう程のオーラを醸し出し、その魔力の気をルナにぶつけた。
しかしそれでもルナは笑みを崩さない。
「恩返しかな……。ツバキちゃん、私がこの国に来てすぐの時、海で魔獣に襲われていた私を助けてくれたよね?だから今度は私がツバキちゃんを助けたい」
「…………だから助けなんて求めて……」
「私も少し前に、悲しみと憎しみに支配された事があるから解るよ」
ツバキの言葉をルナは遮る。ツバキの表情から笑みは消え、少し苛立っている様子を浮かべるがルナは構わず言葉を続ける。
「今のツバキちゃんはその時の私と同じ。悲しみと憎しみでどうしようもなくなって、自分を見失っている。だから私はそんなツバキちゃんを助けるよ」
ルナの言葉を聞きツバキは黙る。
「ツバキ様、彼女らの言葉など気にしないでください」
「…………分かってるわ」
スミレの一言にツバキは頷き、
「…………もう力づくで黙らすしかないわね」
ツバキはそう言うと自分の影の中に潜る。そしてあっという間にルナの影から現れて背後を取り、
「…………私の邪魔をしないで!!」
そう叫びながら手に持っている刀でルナの背後から斬りかかった。
「ワシを忘れてもらったら困るぞ!」
そんなツバキの行動を読んでいたのか、オニヒメは瞬時にルナとツバキの僅かな間に入り込み、ツバキの攻撃を小刀で受け止める。
「…………貴女も邪魔!!」
そんなオニヒメを薙ぎ払おうとツバキは魔力を高めるが、
「…………!?」
「なんじゃ?随分と驚いているのぉ」
ツバキの攻撃をオニヒメは互角に受け止めきる。この一撃で終わらせる気でいたツバキはそのオニヒメの強さに驚き、一旦距離をとった。
「ワシは鬼神じゃ。吸血鬼程ではないが鬼族の中ではトップクラスの種族じゃよ」
オニヒメはルナの隣に並び小刀を構えつつツバキに余裕の表情を見せた。それが癇に障ったのか、
「………………もう油断しないわ」
ツバキは更に一層魔力を高めていく。その魔力はルナが今まで見てきた魔族の魔力と比較しても桁違いに思える程の質を感じ取れる。
「ルナよ、ここからが本番みたいじゃよ」
「ええ、私とオニヒメでツバキちゃんをあの呪縛から解き放とう」
ツバキの魔力に合わせルナとオニヒメも魔力を練り上げ、高めていく。
「私の事を忘れてないですか?」
そんな最中、妖刀アキギリを持ったスミレが突如横から現れルナに攻撃を仕掛けてきたが、
「あは♪あなたの事は一瞬たりとも目を離していませんよ♪」
更にそんなスミレの背後からいきなり現れたミサがスミレに飛び蹴りをし、その衝撃でスミレは近くの木に衝突した。
「じゃあ二人とも、手筈通りに吸血鬼ちゃんの事はお願いしますね♪私はあのクソ女を懲らしめてきます♪」
ミサはルナとオニヒメにそう言い残すと、先程のダメージでまだ足がふらついているスミレを空間移動で自分の側へと連れ込み、そのままスミレを抱えて大きくジャンプしこの場から離脱した。
「…………私の大事なスミレになにしてくれてるのかしら?」
ツバキの表情からは最初の頃の余裕は消えており、今は怒りを隠さずにルナ達にぶつけている。
「…………まぁいいわ。さっさとお姉ちゃん達を殺してスミレを迎えに行くとしましょう」
そしてツバキはルナとオニヒメ目掛けて突っ込んでいく。