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第6話 月下激闘(10)

 「ワシの配下にならんか?」


 自身よりも一回りも二回りも小さい少女にそう言われ、当時のオニキシは困惑した。


 その少女は魔王と名乗る一人の男と共に自分を訪ねてきた。大鬼族(オーガ)の住むとある小さな集落、そこにオニキシは住んでいた。聖王国による魔族の襲撃の影響は当然この集落にもきている。なので集落といっても長居はせず、季節の変わり目に拠点を移す居住区であった。


 その集落においてオニキシは異質の存在として扱われていた。理由は簡単、オニキシが他の大鬼族(オーガ)と比べて桁違いの力を有していたからであった。オニキシの両親は共に大鬼族であるが、子のオニキシは強大鬼族(ハイオーガ)として産まれ、その恐ろしい力から集落の他の大鬼族だけでなく、やがて両親でさえオニキシの事を避けるようになる。そんな環境で育ってきたオニキシは物心がついた頃には一人でいる事に慣れていた。


 なので自分よりも遥かに年下で小さい鬼の少女にいきなり配下になれと言われても、苛立ちより戸惑いの方が強かったのだ。この少女は自分が怖くないのか?この強大鬼族である自分を恐れないのか?同じ鬼族ならこの少女にも自分の内の魔力が伝わる筈だ。それは逆も然り、オニキシは少女の魔力を見るが、それはこの集落の大鬼族よりも弱く感じる。


 「うむ…………。魔王様よ、こやつ返事をしてくれないぞ?」


 「そりゃあいきなり配下になれって言われたら、誰でもこうなるわ」


 「そういうもんなのかのぉ…………」


 魔王に窘めらた少女は難しい顔をして考え込む。


 「…………で、あなた達は何者なんだ?」


 オニキシはとりあえず話の通じそうな魔王に声をかけてみた。


 「そうだな、とりあえず簡単に自己紹介をするか。俺は魔王のヒナギという。今は聖王国に対抗する為に仲間を集めているところなんだ」


 ヒナギはオニキシに笑顔を浮かべてそう話し、続けて少女を指して、


 「この子はオニヒメ。俺の配下で魔王軍の幹部の一人だ」


 ヒナギの紹介にオニヒメはエッヘンと無い胸を張る。


 そしてオニキシはヒナギの紹介を聞き、改めて二人を見て、


 「…………魔王軍って幹部がこんなちびっ子に務まるほど弱い連中の集まりなのか?」


 オニキシは率直に思ったことを口にした。それを聞いたオニヒメは「なんじゃとー!!」と騒ぎ立てるが、それをヒナギは笑いながら宥め、


 「俺達魔王軍はまだまだメンバーを集めている最中だが、幹部連中は普通に強いし頼りになる奴らばかりだ。当然ここにいるオニヒメもそうだぜ」


 そう言ってヒナギはオニヒメの頭をくしゃくしゃと撫で、オニヒメは「くすぐったいのじゃ!」と言いつつも嬉しそうな顔をしている。


 「こんな子がねぇ…………」


 オニキシは未だにヒナギの言葉を信じきれず、ジト目でオニヒメを見る。その様子を見てヒナギは、


 「そんなに信じられないならオニヒメと戦ってみるか?」


 とオニキシに提案する。


 「おっ!戦って良いのか!魔王様!!」


 それにオニヒメもワクワクした表情で答えた。


 「……………分かった。でもどうなっても知らねぇぞ」


 オニキシも渋々戦うのを了承した。小さい子と戦うのは抵抗あったがここまで舐められて戦わないほど、オニキシも大人ではなかったのだ。


▽▽▽

 結果はオニキシの惨敗だった。


 最初は手を抜いて軽く相手をするつもりのオニキシであったが、すぐにそれは間違いだと認識する。戦闘が始まった途端、オニヒメは隠していたのか一気に莫大な魔力を身に纏い、力・スピード・そして戦闘センスも全てにおいてオニヒメが遥かに上回っており、オニキシは集落の大鬼族(オーガ)達にすら見せた事のない切り札(・・・)を使っても、オニヒメに一撃を与える事も叶わなかった。


 「どうじゃ!!コレでワシの強さが分かったか!」


 仰向けに倒れるオニキシをオニヒメは腕を組み上から見下ろしながら笑いかける。


 「…………………………」


 オニキシは何も言えなかった。でもそれは悔しさからでは無い。もちろん自分よりも遥かに幼い少女に負けた事に何も思わないと言えば嘘になるが、


 「初めてだ……」


 「「ん?」」


 「俺の力を不気味がらず、真正面から受け止めてくれたのは今までで貴女だけだ」


 オニキシの中では喜びの気持ちの方が強かったのだ。周囲から嫌われ、恐れられた力をこの二人は必要としてくれた。それは産まれて初めて自分の存在を認めてくれた様に感じたのだ。


 「分かった。俺は貴方達について行くよ」


 オニキシがそう言うとヒナギとオニヒメは嬉しそうに頷く。


 「そうじゃ!最期に使ったあの技じゃが、まだコントロールしきれてないみたいじゃから、あまり実践で使わない方が良いの」


 「だな。あれは自分の魔力を上手く扱えるようになってから使うべきだ。じゃないと敵味方だけでなく、自分の身さえ滅ぼしかねない。…………まぁ、そこら辺の事はこのオニヒメに鍛えて貰えばいいし、俺の仲間の配下にダーウィンっていう凄腕がいるからソイツに稽古つけてもらうのもいいだろ」


 余程オニキシが使った切り札を危険視したのかオニヒメとヒナギはそのようにオニキシに伝える。


 「まぁ、それよりもじゃ!これからよろしく頼むぞ!!オニキシ!!」


 そう言ってオニヒメは笑顔でオニキシに手を差し伸べ、


 「…………こちらこそよろしくお願いします。オニヒメ様!」


 その手をオニキシは握り返した。この時のオニキシの顔は久方振りの笑顔であり、やがてオニキシは魔王軍幹部・鬼神オニヒメの副官として務めていくのであった。

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