第3話 三人の旅路(1)
「動き出したか……」
淡く光る剣を握りながらそう呟く。あれから十数年、ようやくこの時が来たのだ。
「預言されし者達。……さぁ、一体どんな奴等なんだろうな」
ふふっと笑いながら玉座から立ち上がり、転移魔法を使う為の魔法陣を作り始める。
「おや?何処かにお出掛けですかな?」
タイミング良く近くにいたのだろうか、魔力に反応して声をかけてきた。
「少し聖王国領に行ってくる。……ちょうどいい、お前も付いて来い」
「ハハッ、お供致しますぞ。……魔王様よ」
▽▽▽
「なんでこんな事になってるんだー!」
イノシシみたいな見た目の魔獣に囲まれながら俺は叫んだ。
「ルナ様、叫んだって何も解決しませんよ?」
「そうよルナさん!とりあえず今はこの場を何とかしましょ!」
俺の背後にレイピアを構えたフォーリアが立ち、リーシャは馬車の中から荷物を守る為の結界を張りながらそう言ってきた。
「何でお気楽なの?集落を出てたった数時間でもう30体近くの魔獣に襲われてるのに!?」
そう気付いたら30近くの魔獣に俺達は囲まれていたのだ。集落を出て間もなく、魔獣が一匹いたので晩飯用にアイツを狩ろうと思い、サクッと魔力弾で倒したところ、ぞろぞろとお仲間が集まり始め、一気に襲いかかってきたのだ。
「まぁなんと言うか……」
「まぁ、そうね……」
とフォーリアとリーシャは苦笑いをし、
「「ルナさん(様)が何とかするでしょ、元の原因はルナさん(様)なんだし」」
とそれはまぁキレイにハモった。……まぁ、確かにこの惨状を引き起こしたのは俺だけどさぁ……。
「しょうがない……、魔法変身」
俺は魔法少女へととりあえず変身した。魔獣といってもそれほど脅威的なものでは実際ない。本来魔獣は動物が何かしらの原因で魔力に触れ、凶暴化したものなのだそうだ。なので体の大きさと筋力が高まった獣くらいの認識だ。先程も魔力弾1発で倒せたので、本来そこまで苦労する敵ではない。問題はここが森の中とであるのと相手の数である。無闇に森を壊す訳にはいかないので、広範囲の魔力弾を使うわけにはいかないのだ。
「仕方ない……。フォーリア!後ろの魔獣は任せても平気?」
俺はフォーリアの背中に寄りかかり、約半分の魔獣を相手に出来るか尋ねる。
「この程度であれば問題ありませんよ」
とフォーリアが答えたので、
「OK!じゃあ私も近接スタイルで行こうかな!魔装変換・剣士!」
と唱えステッキに魔力を込める。するとステッキは剣へと姿を変え、衣装もピンクのフリフリドレスから白ベースのワンピースにピンクのマントを羽織った少しは動きやすい格好になる。それに合わせて髪もピンクのツインテールから黒のポニーテールへと変わった。
「これはまた……」
「凄い……、いつもの魔法少女の姿よりカッコイイ!ルナさんって色々変身出来るのね!?」
俺の魔装変換にフォーリアとリーシャはそれぞれ驚きの表情を浮かべる。
「それじゃ……行きますか!」
俺は足下に魔力を集めて一気に飛び出し、あっという間に魔獣達との距離を詰める。そして手に持っているお手製の剣で次々と魔獣を切り伏せた。
「さすが魔法少女の武器って感じだね。切れ味も全く問題ないし扱いやすい」
俺は剣を見て満足気に笑った。この剣自体が魔法少女の魔力そのものであるため、砕ける心配は全くなく、重さなども微塵も感じさせない。それでいて斬れ味も文句なしと来た。
そのまま剣を奮って次々に俺は魔獣を斬り捨て、ものの五分で俺が受け持った魔獣の群れの約半数を倒した。少しカッコつけて剣に付いた魔獣の血を振り落とし後ろを振り返ると、フォーリアの方も受け持ってくれた残りの魔獣を全て倒し終えていた。
「お疲れ様です、ルナ様」
「うん、フォーリアもお疲れ」
レイピアに付いた血を白い布で拭き取りながらフォーリアは俺に笑顔で近づいてきたので、俺も手を振りながら返す。リーシャの方も結界を解いたのか、馬車から降りてスタスタとこちらに駆け寄ってくる。
「二人ともお疲れ様!フォーリアは相変わらずの腕だね!本当に付いて来てくれて頼もしいわ!」
「有り難きお言葉、感謝致します」
リーシャのお褒めにフォーリアは慣れた仕草で跪き、そのままリーシャの手の甲に口付けをしてそう答えた。
|(これだけ見てるとホント映画に出てくる姫と騎士の忠誠の誓みたいだなぁ。……まぁ、エルフのお姫様と執事兼護衛騎士みたいなものだからあながち間違えではないか)
そんな事を考えているとリーシャが俺の方へと駆け寄ってきて、
「ルナさんも本当に凄いわ!魔法だけじゃなくて剣術まで嗜んでいるなんて!」
と俺の手を握りブンブンと興奮気味に手を振りながらそう言ってきた。フォーリアも俺の姿や剣をまじまじと見て、
「ルナ様には驚かされてばかりです。その剣はどこから出したのですか?チラッと闘っている所を見させて頂きましたが、かなりの斬れ味を誇っておいででしたよね?」
と質問をしてきた。
「あぁ、この剣は私の魔力そのものなんだ。私のこの魔法少女の力って、魔力を全身に纏って闘うイメージって言えば分かるかな?だから魔法少女として変身してる間は体も武器も服も全て魔力で包まれてる状態なんだよね。だから武器とか服装とかある程度私の意思で自由に変えられるの」
と簡単に説明する。俺の説明に「なるほど……」とフォーリアは関心したように呟き、「?よく分からないけどルナさんは凄いって事ね!」とリーシャは?を頭に浮かべそう答えた。
「あの1つ気になる事があるので聞いてもよろしいですか?」
俺の説明のどこかで気になる事があったのかフォーリアが尋ねてくる。
「うん。いいよ」
俺がそう言うとフォーリアは俺の服装を再度まじまじと見て、
「どうしてわざわざ服装も変えるのですか?最初から動きやすい物にしとけば良いのではないでしょうか?」
「…………」
俺はフォーリアのもっともな正論の質問に少し沈黙し、やがて……
「フォーリア、魔法少女ってのはね……。可愛さも大事なんだよ!」
とフォーリアの肩を掴み、満面の笑みで俺はそう言った。