第6話 月下激闘(7)
「ふぅ…………」
フォーリアは呼吸を整え、引き続きバームスの攻撃に備える。バルティックとの特訓の日々によって会得した部位強化により、フォーリアは集中力と感覚を極限まで高めていた。
(………………来る。右45°から頭部目掛けて二発!)
攻撃を察知したフォーリアはその瞬間に部位強化をレイピアを持つ右手へと切り替え、目に見えない銃弾を二発とも斬り落とす。
バームスの不可視の狙撃による攻撃をフォーリアは当然見えていない。しかしバームスが消せるのはあくまで自身の気配と魔導武器による攻撃のみである。その為不可視の狙撃によって撃たれた銃弾により発生する空気の振動までは消す事は出来ない。フォーリアは感覚を研ぎ澄ます事で自身の周囲にある空気の振動を把握し、それによってバームスの不可視の狙撃を防ぐ事を可能にしたのだ。
そして当然フォーリアがそのようにして不可視の狙撃を防いだ事を知らないバームスは、
(グッ……何故当たらない!どうして銃弾を防ぐ事が出来る!?)
動揺と焦りが生まれる。そしてそれが故に、
(これならどうだ!!)
バームスは一気に仕留めるべく不可視の狙撃を十発まとめて撃ち放つ。並の相手なら避けれるはずもなく確実に葬る事が出来る攻撃であるが、部位強化によって感覚を研ぎ澄ませている今のフォーリア相手には悪手であった。
銃弾の数が増えようがフォーリアはそれらを全て見切る事が出来る。そして十発もの銃弾を撃った事で、
「そこですね!」
弾の飛んできた方向から、フォーリアは姿を隠しているバームスのおおよその位置を把握する。そして部位強化を右腕、そしてレイピアへと流し、
「閃空刃!」
フォーリアは目にも止まらない早さでレイピアを振り、それによって生じた衝撃波がフォーリアの魔力を含むことでかまいたちとなり、バームス目掛けて飛んでいく。
「なっ!?」
突然自分目掛けて攻撃が飛んで来たので思わずバームスは声を上げてしまう。片足を負傷している為満足に動く事の出来ないバームスは閃空刃を不可視の狙撃で相殺すべく再び連射をするが、それによってフォーリアはバームスの正確な位置を突き止め、バームス目掛けて駆け出した。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「…………グッッッ!」
フォーリアの振り落としたレイピアをバームスは魔導武器で受け止める。それによってバームスにかかっていた気配消しは解かれ、フォーリアはようやくバームスの姿を肉眼で確認することが出来た。
「やっと見つけましたよ!」
フォーリアはレイピアに込める力を強める。しかしバームスもフォーリアに負けずと最期の力を込めてそれを受け止める。重症をおっても尚魔人化し且部位強化をしているフォーリアの力に押し負けないのは、バームスの軍人としてのプライドとこれまで培ってきた実践経験と訓練による純粋な力であった。
その鬼気迫るバームスの姿に、フォーリアは敵ながら凄いと思った。しかしだからこそ、
「私は貴方を倒して強くなる……。ルナ様の隣に立つのに相応しい眷属となる為に!!」
フォーリアはそう叫ぶと部位強化を解いた。急に押し合いの均衡が崩れたことでバームスもバランスを崩してしまい、
「これで終わりです!!」
フォーリアはその隙をついて右脚を部位強化し、バームスの顔面に全力の回し蹴りを打ち込む。今まで見せなかったフォーリアの足技にバームスは対処する事ができず、直撃の勢いで数メートル後方に吹き飛び、
「ガッ…………、に、ニルファー様…………、申し訳……ございま…………せん」
そう言い残してバームスは気絶した。
「バルティック殿…………、やりましたよ…………」
フォーリアは夜空を見上げながらそう静かに呟く。
その心中は強くなれた事を実感し、そして己の為すべきことを再確認出来た気がした。