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第6話 月下激闘(6)

 「では稽古を始めるとしよう」


 「はい!よろしくお願いします!」


 アスカへと出発する二週間前、フォーリアは魔王軍幹部の一人である龍人王(ドラゴロード)バルティックの屋敷にある道場に来ていた。バルティックは武術に強いこだわりを持っているようで、屋敷にある道場で日々鍛錬をしているとの事だ。


 「執事っ子はスピード特化の戦闘スタイルと聞いているがそれで間違いはないか?」


 「は…………はい」


 執事っ子……という言葉が少し気になったが、どうやらバルティックは仲間になった後輩を子供っぽく呼ぶ癖があるようだ。ルナの事も結局魔女っ子の呼び続けているし、ロゼの事はロゼ坊と呼んでいた。因みにバルティックもフォーリアの事を最初は男だと思っていたらしく執事坊と呼んでいた。


 「ではまず執事っ子の力を見てみるとしよう。魔人化をしてくれ」


 バルティックの言葉に従いフォーリアは魔人化する。


 「うむ。魔人にしてはかなりの魔力を持っているな。それだけで執事っ子と魔女っ子の信頼の強さが伝わるぞ」


 バルティックはフォーリアの姿を見て感心したように頷く。ミサに眷属契約をする際に教えてもらったが、眷属契約による魔人化は主人との信頼の強さに比例して眷属の強さも変わるらしい。ルナとフォーリア、そしてルナの中にあるリーシャの魔力、三人の絆の強さがフォーリアの魔人としての強さになっている。その為魔力を褒められたのがフォーリアは嬉しく思えた。


 「では試してみるとするか。…………そうだな、何でもいいから十分で一度でも拙者に攻撃を当てれたら執事っ子の勝ちにしよう」


 バルティックはそう言うとあからさまに無防備な格好でフォーリアと向き合った。


 「十分と言わずとも一瞬で終わらせて見せます!」


 自身の力に自信を持ったフォーリアは自信たっぷりの表情でレイピアを構え、持てる最高のスピードでバルティック目掛けて踏み込んだ。


▽▽▽

 十分後、道場には腕組みをして笑いながら下を向いているバルティックと床に大の字になって倒れているフォーリアの姿があった。


 「うむ。スピードは聞いていた通り中々のものであるな」


 「…………この状況で言われると少し複雑です」


 フォーリアは拗ねたように頬を膨らます。


 フォーリアは手など一切抜かず最大スピードでバルティックを攻め続けたが、バルティックはその全ての攻撃を涼し気な表情で躱し、フォーリアに隙が出来れば脚を払って転ばせ、そうして結局フォーリアは一度もバルティックに攻撃を当てる事が出来なかった。


 「不服ならもう一度やるかね?」


 「…………はい。お願いします」


 フォーリアはそう言って立ち上がり、再びバルティックに一撃を当てるべくレイピアを構えた。


 〜十分後〜


 「はぁ……はぁ……、どうして…………」


 フォーリアは先程と同様、道場の床に仰向けに倒れていた。当然結果は変わらず、今回もバルティックに攻撃どころか触れる事させ出来なかった。


 「執事っ子よ、確かにお主のスピードはかなりのものである」


 倒れているフォーリアの横にバルティックは座り語り出す。


 「しかし速いだけだ(・・・・・)。それならいくらでも対処できるし動きを読む事も難しくない」


 「速いだけ…………」


 フォーリアはバルティックの言葉を繰り返す。思い返せばこの二回の組手、バルティックは最低限の動きしか見せなかった。


 「どれ、一つ手本を見せてしんぜよう」


 バルティックはそう言うとフォーリアに手を差し伸ばす。フォーリアはそのバルティックの手を取って立ち上がり、バルティックと真正面から向き合う。


 「執事っ子、出せる最高スピードを使って拙者の攻撃を避けてみよ」


 そう言ってバルティックは拳を構える。それと同時にバルティックから凄まじい闘気が発生され、フォーリアは思わず後ずさってしまったが、それでもバルティックの動きを読むべく集中力を高まる。


 「「…………………………」」


 フォーリアとバルティックの間に沈黙が流れ、


 「ハァッッ!」


 バルティックは掛け声と共に踏み出しフォーリア目掛けて拳を突き出した。


 (クッ!鋭く速い!…………でも!)


 フォーリアにはバルティックの拳を目で追うことが出来た。その為攻撃を躱すべく、自身の持ち武器であるスピードを出して避けようとするが、


 「…………!なっ……」


 フォーリアはバルティックの動きを読み拳を避けた…………と思ったが、その瞬間バルティックの拳をフォーリアの腹部で寸止めされていた。


 「……とまぁ、こんな感じである」


 そう言ってバルティックは拳を下ろす。寸止めされなければ今頃バルティックの拳はフォーリアの腹部にめり込み、大ダメージを受けて吹っ飛んでいただろう。そのあまりの実力差にフォーリアは冷汗が止まらなかった。


 「ど…………、どうして……」


 「どうして避けれたはずの攻撃が避けれなかったのか……だろ?」


 フォーリアの思った疑問をバルティックは口にする。


 「簡単なことだ。執事っ子が読んだ拙者の動きに対し、拙者は更に速さを加えたのだ」


 バルティックはフォーリアにも理解するよう先程の動きをスローで再現した。


 「魔力を身体全体に纏い身体能力を上げる……これは執事っ子も使っている技であろう。しかしその魔力を身体の一部に集中させれば……」


 バルティックはそう言うと拳を一気にフォーリアの腹部へと再度寸止めする。


 「このように爆発的な瞬発力と攻撃力を得る事が出来る。これを拙者は部位強化(パーツバフ)と呼んでいる」


 「部位強化(パーツバフ)…………」


 「そして部位強化(パーツバフ)は感覚にも使う事が出来る。そうすれば相手の動きを読む事はもちろん、僅かな気配でも正確に感じる事が出来る」


 そこまで話すとバルティックはフォーリアの頭に手を置き、


 「これからの二週間、拙者が執事っ子に部位強化(パーツバフ)を徹底的に教えてしんぜよう。そうすれば執事っ子はもっと強くなれるはずである」


 「もっと強く……」


 バルティックの言葉、そして先程のバルティックの動きをフォーリアは頭に思い浮かべる。そして強くなれる自分にフォーリアは少しワクワクした。


 「…………はい。よろしくお願いします、バルティック殿!!」


 「うむ!!良い返事である。…………ではここからは厳しく行くぞ!!」


 そうしてバルティックによる厳しい二週間の特訓の日々が始まったのだった。


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