第6話 月下激闘(5)
「オラオラオラオラ!」
バームスは自身の魔導武器からエネルギー砲を連射する。
フォーリアは持ち前の身体能力とスピードを活かしてそれらを避け、またはレイピアで撃ち落としていくが、魔導解放による効果なのかエネルギー砲が切れる事は無く、ただひたすらにフォーリアが防戦を強いられる状況が続いていた。
「いつまでも耐えられると思うな!」
バームスは更に撃つエネルギー砲の数を増やす。額の汗が止まらないのを見るに、バームスも肉体的にかなりの不可をかけているのであろう。それでも攻撃の手を緩めないのは聖王国の武人としての信念の為である。
(くっ……、このままではジリ貧ですね)
フォーリアはこの状況を逆転させる機を伺うが、やはりこの砲撃の嵐を止めさせるか、一気に距離を詰めるしか無いようだ。
となればフォーリアがとる手段は一つである。
「はあああああああ!」
「なに!?」
フォーリアは一、二発は喰らうのを覚悟して可能な限り砲撃をレイピアで撃ち落としながらバームスの懐目掛けて一気に駆け出した。
「これで形勢逆転です!」
一発肩に砲撃を喰らってしまったが、魔人化による身体の強化によってダメージはそこまで受けなかった。そしてバームスの懐に潜り込んだフォーリアは、魔導武器を持つバームスの右腕に鋭いレイピアの突きを繰り出す。
「ガッ…………」
そのダメージによりバームスの攻撃の手は止まり、
その隙をついてフォーリアは素早くバームスの左腿もレイピアで突き刺した。
「これで右腕と左足はまともに動かせないでしょう。大人しく投降してください」
フォーリアはレイピアにつく血を振り払いながらバームスにそう告げる。レイピアでの攻撃によってバームスの右腕と左腿の筋を切断しているので、これでバームスは戦う事は出来ないとフォーリアは判断したのだ。
「…………舐めるなよ」
しかしバームスの目に宿る闘志は消えていなかった。
「私はニルファー様より双長の役目を任されている!たかが右腕と左足を封じられたくらいで魔族相手に引くと思うな!!」
バームスはそう叫ぶと魔導武器を左手に持ち直し、再びフォーリアへ攻撃を仕掛けた。しかしバームスの身体と同じくらいの大きさを持つ魔導武器を片手だけで扱うのは難しいようで、先程の様な正確な砲撃とはいかず、フォーリアは距離をとりながら冷静にそれを避けていく。
「もう貴方の攻撃は効きませんよ」
フォーリアは静かにバームスにそう告げる。しかしバームスは狙い通りといった表情を浮かべ、
「私はそもそも狙撃手だ。本来こんな堂々と真正面から戦うスタイルでは無い」
そう言うとバームスの持つ魔導武器が怪しく光りだした。
「魔導解放の真の強さをその目と身体に焼き付けるがいい!!」
フォーリアは嫌な予感がし、バームスに何もさせないよう直ぐにレイピアを構えて走り出す。
しかし遅かった。フォーリアがバームスの元へ駆け寄った時には既に彼の姿は消えていた。
「…………っ!?」
フォーリアは周囲を見渡す。しかしバームスの姿はおろか気配すら感じられない。
そんな中どこからともなくバームスの声が響き渡る。
「先程の攻撃で私の急所を突かずに仕留めなかった己の甘さと油断を後悔するが良い!」
バームスの声はしっかりと聞こえるが、その声がどこから聞こえてくるのかフォーリアは感じることが出来ない。
そして次の瞬間、
「!?」
背後から悪寒を感じ急いでフォーリアは身体逸らす。しかし攻撃は避けきれなかったようで、銃弾らしきものがフォーリアの脇腹を貫いた。
「グッ…………!」
フォーリアは急いで力を振り絞りその場から離れる。急所はギリギリの所で外れたので致命傷は受けずに済んだのは幸いであった。
(当たる直前まで攻撃の気配に気付けなかった……。それに発砲音も聞こえなかった……)
フォーリアは再度周囲を見渡すがやはりバームスの気配は見つけられない。
(しかしあの足では向こうも動き回る事は出来ないはず……。ひとまずは距離をとろ)
ズサッ
「…………グッ!」
フォーリアが何かを察知した時には銃弾がフォーリアの左足を貫いていた。
(攻撃のスピードが早くなっている!)
フォーリアは痛みを堪えながら海の方へと走り、海を背面に立ってレイピアを構える。
(これで背後から襲われる可能性は低くなるでしょう)
そして周囲に細心の注意を払ってバームスの出方を伺う。
(…………!来る!!)
フォーリアは素早くレイピアは自身の胸の前に構えて振りかざす。するとレイピアは見えない銃弾らしき物を弾いた。
(なっ!?)
その様子を離れた場所で見ていたバームスは静かに驚いた。気配も発砲音も銃弾も認識させない、魔導解放によってバームスが得た新たな戦法である不可視の狙撃があっさりと防がれたのだ。
(ふぅ……落ち着けば何とか防げそうですね。これもバルティック殿との特訓のおかげですね)
フォーリアはひと息付き、三週間前の魔王軍幹部の一人、龍人王バルティックとの特訓の日々を思い出す。