第6話 月下激闘(4)
(いやぁ、ほんっっっと兄貴と姉御の稽古は厳しかったな)
約二週間に及ぶ修行の日々を軽く思い返し、ロゼはルーミスとの戦闘中にも関わらず思い出し笑いをしてしまう。
「まだ笑っている余裕があるみたいですね!」
そんなロゼの様子にルーミスはイラッとしたのか、更に攻めの勢いを強くしていく。
ロゼは少し回想をしていたが、実際今の戦況においてロゼにそんな余裕はない。むしろルーミスに押されつつあるのが現状だ。
魔導解放によってルーミスの身体能力が全体的に上がっているというのもあるが、厄介なのは……
「双斬撃波!」
「…………っち!」
魔導解放によって得たルーミスの魔導武器の新たな技。鋭い斬撃波を双剣どちらかも出すことで広範囲の遠距離攻撃が可能となり、
「コネクト!!」
双斬撃波を放ったルーミスは双剣の柄と柄を合わせそう唱える。すると柄同士が合体し、一本の大きな双刃剣へと変形する。そしてその双刃剣ですかさずロゼへと斬り掛かる。
「グッ…………!」
斬撃波を躱しきったロゼはルーミスの攻撃を槍で受け止めるが、双刃剣に変形した事でルーミスの魔導武器は数段強さが増しており、耐えきれなくなったロゼは吹き飛ばされてしまった。
「はぁ……はぁ……、グッ……」
ひとしきり攻撃をした後、ルーミスはその場で膝を着いてしまう。
「だいぶ辛そうだな、ルーミス」
ダメージを受けながらも魔人化とレーベクスとの特訓のおかけで以前に増して身体が丈夫になっているロゼは、立ち上がってルーミスの元へ歩み寄る。
「……こんなに長時間魔導解放を使うのは初めてなのでね。でも私は既に命を捨てる覚悟は出来てます。この命に替えても、魔族であるあなたは倒します!」
ルーミスは双刃剣を支えにして立ち上がり、そして再びロゼへと魔導武器を構える。
(命に替えても…………か)
ロゼはルーミスの言葉を受け、彼女の事を考える。
「…………悪いけど、俺はお前に死んで欲しくない。戦っていて悪い奴だとは思えないからな」
「…………!?何を……」
「でも負ける訳にもいかねぇ!」
ロゼはそう言うと槍の構えを解き、そして左手をかざし、
「だから一気に決着をつけさせてもらう!ネリィ!!」
ロゼの呼び掛けによって指輪から黒獣馬のネリィが召喚される。
「そんな魔獣一匹如きで今の私を倒せるわけ……」
「これは強くなりたいと願った俺が得た新しい力だ……」
ルーミスの言葉を遮り、ネリィの頭を撫でながらロゼは話し出す。
「俺一人の力はまだまだ頼りなくて弱い……。でも!仲間達の力を借りればそんな俺でも強くなれるって改めて教わったんだ!」
ロゼは思い出す。エルフの集落での戦い後、仲間の為にもっと強くなろうと決意させてくれたナロ、そして強くなる術を教えてくれたレーベクスと二ーリス、そしてロゼの想いに応えてくれたネリィとルリィ。これはロゼの周囲の仲間達と共に得たロゼの新しい力である。
「力を貸してくれネリィ!人獣融合!」
ロゼがそう叫ぶとネリィの身体が光だし、ネリィは魔力の塊へと変貌した。そして魔力となったネリィはロゼの体内へと吸収されていく。そうしてロゼはネリィの持つ黒獣馬の魔力を纏う。
互いに親愛し合うことで可能となる魔獣の魔力エネルギーと自身の融合。それがロゼがレーベクスらに教わった新たな力、人獣融合である。
「な……、なんなんだ……」
ロゼの姿を見たルーミスは思わず後ずさる。
「なんですか!その禍々しい力は!?」
ネリィと人獣融合をした為であろうか、ロゼの額からネリィと同様の黒い一本角が生えている。
しかしルーミスが慄いたのはそんな更に人からかけ離れたロゼの姿では無い。人獣融合によってロゼが得たその魔力の方だ。
ルーミスは魔導解放によって擬似的な魔力を今は体内に宿している為、相手の魔力の質や量を何となく推し量る事が出来る。そんなルーミスから見て今のロゼの魔力は量だけでみても先程までの数倍はあるように感じる。そして何よりその魔力の質が明らかに違っていた。上手く言葉にできないが、 暗闇に呑み込まれていくような錯覚にルーミスは襲われてしまった。
「悪いが一撃で終わらせるぜ……」
ロゼは拳をルーミスに向ける。
「お……うぉぉぉぉ!」
ルーミスは声を出すことで慄いた自分の身体を奮い立たせる。そして双刃剣に今ある全ての力を込めるが、
「…………え?」
気付いた時には目の前にロゼの姿は無かった。そしてそれに気付いた瞬間、ルーミスの魔導武器は真っ二つに折れ、ルーミスの腹部を強烈な衝撃が襲った。
「な………………っ」
ルーミスは飛びそうな意識を堪えながら目を凝らす。すると自分の目の前から黒い霧と共にロゼの姿が現れ、ロゼの拳が自分の腹部へとめり込んでいた。
「……私の……負け…………か」
そう呟いてルーミスは意識を失う。
そして倒れ込むルーミスの身体をロゼは優しく支えてその場にゆっくりと寝かし、
「ありがとなルーミス。お前との戦いのおかけで自分に自信が持てたよ」
ロゼは静かにそう口にした。