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第6話 月下激闘(3)

 〜約三週間前〜


 「まてまてまてまて!ギブギブギブギブギブギブ!!」


 魔王国グランデリシャから少し離れた荒地において、ロゼは悲鳴に近い叫びを上げていた。


 「ハハハ!オラオラどうした!?逃げてないで立ち向かって来い!!」


 ロゼをこの状態にまで追い込んでいる張本人、魔王軍幹部の一人である獣人王(ビーストキング)レーベクスは笑いながら拳を振り回してロゼを追いかけている。


 「うおりゃァァァ!」


 レーベクスはロゼ目掛けて正拳突きを繰り出す。その拳をロゼはギリギリで回避するが、


 「………………………………」


 代わりにレーベクスの拳はロゼのすぐ側にあった大きな岩へと当たり、レーベクスの正拳突きを喰らった岩はガラガラと粉々になりながら崩れていった。


 その光景を目の当たりにし、もしこの拳が自分に当たっていたらと考え、ロゼは血の気が引く思いをする。


 「避けてばかりいないで立ち向かって来い!」


 「あんな拳喰らったら即死だわ!!」


 レーベクスの物言いにロゼは怒鳴り返す。ロゼは今、アスカへ向かうこの準備期間に魔王ヒナギの提案の元、レーベクスに個人稽古をつけてもらっている。強くなりたいと考えていたロゼにとって、魔王軍幹部直々の稽古はとてもありがたい申し出だと思い、二つ返事でお願いをしたのだが、


 「兄貴の拳は必殺級なんだよ!もう少し手加減してくれないか!?」


 稽古を初めて三日、その間ずっと思っていた文句をレーベクスにぶつけた。


 「何を言っているんだ?手を抜いたら稽古にならないだろ?」


 「ならもっとこう……、具体的なアドバイスとか下さいよ!いきなりこんな追い詰められても、何もできませんって!!」


 「ふむ……、アドバイスか……」


 ロゼの言葉にレーベクスは拳を止め考え出す。


 「……ったく、アドバイスもろくに出来ないのか?」


 アドバイスに悩むレーベクスを見て、彼の副官である二ーリスが呆れ顔をする。


 「なんだ二ーリス、お前なら良いアドバイスが出来るのか?」


 「当たり前だろ」


 二ーリスはやれやれと溜息をつきながらロゼの前まで歩き、そしてニヤリと笑って拳を構え、


 「そんなの根性の一言で十分だろ!!」


 「揃いも揃って脳筋共がぁぁぁ!」


 荒地一面にロゼの叫び声が響き渡った。


▽▽▽

 「ハァ……ハァ……もう動けねぇ……」


 ロゼはそう呟くとその場に仰向けに倒れる。あれから今度は二ーリスが相手となり、稽古という名の一方的な組手をさせられていた。


 「情けないなぁ……。ほら、水を飲みな」


 「……ありがとうございます。姉御」


 ロゼは二ーリスから受け取った水を一気に飲み干す。


 「ハッハッハ!しかし俺たち二人とここまで組手をしてまだ意識があるだけ上出来だ!……まぁ基本逃げてばかりではあったがな!」


 仰向けに寝ているロゼの頭をくしゃくしゃ撫でながらレーベクスは豪快に笑っている。


 「でもなぁ……、いくら俺が魔人化して普通の人間より丈夫な身体になったとはいえ、兄貴の拳をまともに受ければ一瞬で意識が飛ぶんだよ。それは初日に兄貴と姉御も見てただろ?」


 ロゼはレーベクスの手を払い除けてそうぼやく。


 稽古初日、とりあえず実力がみたいというレーベクスの言葉により組手をする事になったロゼは、意気揚々とレーベクスに攻撃を仕掛けたところ、レーベクスのワンパンで意識が吹き飛んでしまった。それ以来、少しトラウマになっているのである。


 「こう言っちゃあれだけど、ロゼはあまり肉弾戦は向いてないのかもねぇ」


 「うぅ……」


 二ーリスの言葉にロゼは少し傷ついたが、この三日間の稽古を振り返り何も言い返せなかった。


 「なーに!強くなるには地道な特訓と努力あるのみだ!気にするなよロゼ!」


 落ち込んだロゼをレーベクスは笑いながら励ます。


 「…………それじゃ駄目なんだ」


 「「ん?」」


 ロゼの言葉にレーベクスと二ーリスは揃って首を傾げた。


 「俺はもうルナ達の足でまといにはなりたくない。弱いままじゃ駄目なんだ」


 ロゼは拳を震わせながら自分の胸の内を打ち明ける。


 「「ぶるるぅ」」


 そんなロゼに魔獣のルリィとネリィが近寄って頬ずりをしてきた。休憩の際、ご飯を与えようと先程ロゼが召喚していたのだ。


 「……心配してくれてんだな」


 ロゼはそんなルリィとネリィの頭を撫でる。そしてその様子を見ていた二ーリスは、


 「……話には聞いていたけれど、本当に魔獣から懐かれているのね」


 とロゼを感心する。


 「あぁ、初めて会った時からネリィとルリィとはこんな感じなんだ。今では俺にとって仲間であり友でもあるよ」


 ロゼの言葉が伝わったのかネリィとルリィは嬉しそうにロゼの両頬をそれぞれ舐めている。


 「…………うむ。もしや魔王はこっちの才能を見越して俺達にロゼの面倒を頼んだのかもしれんな」


 「ん?何の事ですか?兄貴」


 一人で納得したようにうんうん頷くレーベクスにロゼは疑問を問いかける。


 「私たちは肉弾戦も得意だけど、もう一つ、専売特許って言ってもいいくらいの特技があるの」


 レーベクスと同様に魔王ヒナギの考えを理解したらしい二ーリスがそう口にし、


 「俺は獣人王(ビーストキング)()の王でもある」


 そう言うとレーベクスはニカッと笑い、


 「ロゼ!お前に人獣融合(ビーストフュージョン)を教える!!」


 とロゼを指差してそう宣言した。

 

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