第6話 月下激闘(2)
月光花の洞窟にて、魔人化しているロゼは自身の武器である槍を構えながら、聖王国の武人であるルーミスと向き合っていた。
「話は聞いてます。あなたとあちらの執事の方は元人間で、魔法少女ルナによって無理やり魔人にさせられたと」
「それは違うぜ。……俺達は自ら望んで魔人へとなったんだ」
「理解出来ませんね……。自らこの世の害である魔族へと墜ちるなんて」
「魔族も別に悪い奴ばかりじゃないって事だ」
「……分かっていましたが、やはり我々は互いに分かり合えないですね。……となれば」
ルーミスは双剣の刃先をロゼへと向ける。
「あぁ、そうだな」
それに合わせ、ロゼも槍を矛先をルーミスに向ける。
「「己の信念の為に戦うしかない!!」」
二人は同時にそう叫ぶと一気に互いの距離を詰める。ロゼの槍の方がルーミスの双剣よりリーチが長いため先に攻撃を仕掛けるが、その攻撃をルーミスは一本の剣で受け流し、もう片方の剣で鋭くロゼに斬り掛かる。そしてそんなルーミスの攻撃も、ロゼは槍の持ち手の部分で上手く受け止め、鍔迫り合いの様な状況になった。
「おいおい、さっきより力が増してないか?」
ロゼはルーミスの攻撃を受け止めながら、率直に思った事を口にする。ザクロ皇子の身柄を奪い返す際、ロゼはルーミスと軽く戦闘を行っていたが、その時と比べて数倍は強くなっている。
「これが魔導解放……ってやつの力なのか?」
「そうです……よっ!!」
ロゼの質問にルーミスは簡単に答え、そして先程ロゼの槍を受け流した剣を攻撃に加える。それによって鍔迫り合いは徐々にロゼが押され気味となり、
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルーミスは一気に双剣へと力を込め、耐えきれなくなったロゼは後ろへと後退した。
「便利なもんだな魔導解放っていうのは…………」
ロゼは汗を腕で拭いながら、やや強がった表情を浮かべる。
「…………そうでも無いですよ」
「…………ん?」
ロゼは嫌味のつもりで言ったのだが、ルーミスは困った表情でそうロゼに告げる。心無しか、魔導解放によってロゼに押し勝ったルーミスの方がしんどそうな表情を浮かべている。
「……魔導解放は魔導武器に込められているエネルギーを自身の体内へと流し込み、そうする事で魔導武器と身体をエネルギーを通してリンクさせ、双方をパワーアップさせる魔導武器の切り札です。しかし、魔導武器のエネルギーを体内に取り込むのはそれなりのリスクがあります」
そこまで一気に話すとルーミスは深呼吸をして一息つく。
「魔導解放はいわば擬似的な魔力を体内に宿すようなものです。そしてその行為は自身の生命エネルギーを大きく消耗させてしまう。簡単に言えば生命を削ってるんですよ!」
そしてルーミスは再びロゼに攻撃を仕掛ける。双剣による鋭くしかし隙の無い攻撃を連続で繰り出し、ロゼは何とかそれらを槍で捌いていく。
「やたら親切に……教えてくれるんだな!」
ルーミスの攻撃を受けながら、丁寧に魔導解放について教えてくれたルーミスをロゼは不思議に思った。
「魔導解放の事はどうせ魔王軍に詳細が知られています。遅かれあなたも知ることになっていたでしょう。…………なら!」
ルーミスの攻撃は更に勢いと鋭さが増していく。
「私は少しでもフェアな戦いをしたい。これは聖王国のルーミスとしてではなく、一人の武人ルーミスとしての矜持です!!」
ルーミスの攻撃を捌ききれなくなり、とうとうルーミスの双剣がロゼの左肩にヒットする。
「…………っ!」
ロゼは目一杯の力を振り絞り再度ルーミスとの距離をとった。魔人化しているおかげで思っていたよりダメージは無く、少しずつではあるが傷も回復し始めている。
「フェアな戦いを……か。嫌いじゃないぜ、そういうの」
ロゼはルーミスに笑いかける。ロゼは内心少し喜んでいた。この切羽詰まった状況且つ聖王国を相手にこう思うのはいけないと分かっているが、今の自分の力を試すのにルーミスは最高の相手だとロゼは思った。
「俺もお前とは正々堂々闘ってみたい。……だから改めて名乗らせてもうぜ」
「…………そうですね。では私も……」
ロゼの言葉にルーミスも双剣を構えつつ笑い返す。
「魔王国幹部の一人、魔法少女ルナの副官が一人!魔人ローゼット。大事な友と自分の信念の為、お前を倒す!」
「聖王国が誇る聖騎士、土帝ニルファー様率いるニルファー隊双長が一人、双剣士ルーミス!我が師ニルファー様の名と己の矜恃にかけて、魔族は討ち滅ぼす!!」
ロゼとルーミスは互いに名乗り、そして笑顔を向け、次の瞬間には二人の武器が激しくぶつかり合った。