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第6話 月下激闘(1)

 「そういえばスイセンさん、スミレが持っていた妖刀アキギリ?ってどういう刀なの?」


 ルナは走りながら、未だにミサにお姫様抱っこされているスイセンに尋ねる。スイセンの案内で、ルナ達は最短距離である森の中を突き抜けて月触の泉へと向かっていた。


 「…………い、一回止まってくださいぃぃ」


 急いでツバキの元へ向かう為、ルナ達は魔力の出力を上げてかなりのスピードを出していた。当然そのスピードにスイセンはついてこれる訳が無いのでミサがスイセンをお姫様抱っこして走っていたのだが、それでも普通の人間であるスイセンにはしんどいようだ。


 スイセンのその一言でルナ達は近くの小川で小休止を取る事にした。この先どんな戦いが待っているか分からない以上、情報面も体力面も万全で整えたい。


 「…………ふぅぅ」


 スイセンは小川の水を飲んで落ち着いたようだ。そして一息つくとルナ達に頭を下げた。


 「すいません……、私の都合で足止めをさせてしまって……」


 「気にしないで良いよ。私達も休憩は必要だと思っていたから」


 ルナはそう言うとスイセンに倣って小川の水を手で掬って飲む。冷んやりしていて渇いた喉をすぐに潤してくれた。


 「妖刀アキギリ……、正直に言うと私もよくは知らないんです」


 スイセンは申し訳なさそうな表情で話し始めた。


 「先程リンドウ様からこの国に伝わる吸血鬼カーミュラのお話を聞かれたと思いますが、そこで登場する眷属サクラの愛刀、それが妖刀アキギリと言われています」


 「ていうことは実在はするって事?」


 「ええ、この国には古くから妖刀アキギリが眠っていると噂はされていたのですが、今日までその姿は誰も見た事が無いんですよ……。なので既に失われた刀と思われていたのですが……」


 「それをあの娘はどっからか見つけ出したという訳じゃな。……それで、その刀はどういった類いの妖刀なのじゃ?」


 小川で顔を洗っていたオニヒメも会話に加わり、妖刀アキギリについてスイセンに質問する。


 「えぇーと、伝承ではそもそも妖刀アキギリはカーミュラの物だったそうですが、サクラが眷属になった際に絆の証としてカーミュラから受け取ったそうです。曰く、持つ者の潜在能力を引き出し、持ち主に合わせた特殊な妖術を発動させると。伝承ではその妖刀でサクラは、カーミュラを討伐しに来た勇者率いる軍隊を上手く分断してカーミュラを連れて逃げる事に成功したと言われてます」


 スイセンが妖刀アキギリについて知っているのはここまでのようで、再び「お役に立てず申し訳ありません」とルナ達に謝る。


 「スイセンさん、話してくれてありがとうございます」


 ルナはスイセンにお礼を言い、月光花の洞窟でのスミレの振る舞いを思い出す。


 「…………オニヒメ、さっきスミレと戦った時に一瞬背後を取られてたけど、あの時スミレの動きってどうだった?」


 ルナの質問にオニヒメは少し考える。


 「少し頭に血が上っていたとはいえ、ワシが人間の動きを見失うなんて事はありえん。言葉通り姿が消えたように見えたのじゃ」


 オニヒメは悔しそうに唇を噛みながらそう答えた。


 「……て事はそれも妖刀アキギリの何かしらの効果と考えた方が良さそうだね」


 「恐らく幻術でしょう♪」


 ルナの疑問に答えたのはミサであった。


 「憶測になりますが、斬った者の意識を操る催眠術と範囲は分かりませんが間合いに入った者の知覚を混乱させる……妖刀アキギリの為せる幻術はこんなところですかね♪」


 ミサの言葉にルナとオニヒメも納得する。意識を冷まさないというザクロ皇子の父と無意識に妹であるツバキを刺してしまったザクロ、意識を操られているというなら合点はいく。


 「となるとスミレ相手に近接戦は不利だね……」


 月光花の洞窟では直接交わったオニヒメ以外、妖刀アキギリの幻術は恐らく発動していない。つまりある程度の距離を詰めないと使えないのであろう。


 「すまないがワシは相性が悪そうじゃ」


 オニヒメはルナ達にそう告げる。ルナはオニヒメの戦いを先程の一瞬しか見た事ないが、オニヒメの口ぶりから近接戦闘が主なスタイルなのだろう。


 …………だとすれば、


 「スミレの相手はわた……」


 「あの女は私がやりますね♪」


 ルナの言葉を遮りミサが名乗り出た。


 「何となくですがルナちゃんは吸血鬼ちゃんと対峙した方がいい気がします。オニヒメちゃんも同じ鬼族として一緒にいた方がいいでしょう。その間、私はあの女が邪魔しないように痛めつけておきますので♪」


 ミサは自信満々な表情を浮かべながら胸を叩いた。しかしルナは少し不安になる。一回だけとはいえスミレは魔王軍幹部オニヒメが遅れをとった相手だ。あまり戦闘をするのイメージのないミサには厳しいのではないかと思う。 


 「お……お言葉ですが!」


 そんな中声を上げたのはスイセンであった。


 「スミレ殿は純粋な武の力でもこの国で右に出る者はいないほどの実力者です!それに妖刀アキギリをもう遠慮なく使えるとなれば、どれほどの恐ろしい力を隠しているか分かりませんよ!!」


 スミレの武が凄まじいのはこの国では当然の常識なのだろう。スイセンは純粋に一人で相手をしようとしているミサを心配した。


 そしてそんな心配をしているルナとスイセンに、


 「大丈夫です♪私は魔王軍のNo.3(・・・・・・・・)ですよ♪」


 「「……………………は?」」


 したり顔でそう口にするミサにルナとスイセンは唖然とする。ルナは口を開いたままオニヒメの方を向くと、


 「本当じゃよ。これでも魔王国の中では三番の実力者じゃ。ワシより多分強いぞ」


 「…………マジ?」


 普段のアホな子ミサを見てきた分、その事実はルナには受け入れ難いものがあった。スイセンはスイセンで、ミサが魔王国のそんな大物だとは知らずに身体を震わせている。


 「ルナちゃんとオニヒメちゃんにはかなり負担の強い役割をお願いする事になります。……が、二人なら吸血鬼ちゃんを助け出せると信じてますよ♪」


 ミサはルナとオニヒメを自分の元へ抱き寄せて肩を組む。


 「…………うん任せて!」


 「あぁ!任せるのじゃ!!」


 それにルナとオニヒメは力強い返事で返す。


 「で、ではみなさん。月触の泉はこの小川を辿った先にあります」


 出発する雰囲気を察してスイセンがルナ達にそう告げる。この先は戦いに巻き込まれる可能性もあるので、ルナの魔法防壁(マジックシールド)に守られながらここで待っていてもらうことにした。


 「それじゃあ行こう!」


 ルナはそう言い、ツバキ達の元へと再び歩き始める。

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