表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/184

第5話 吸血鬼覚醒(8)

 「……スミレ、どこに向かっているのかしら?」


 「ツバキ様、もう少しで着きますので……」


 「……まぁいいわ。付き合ってあげる」


 スミレとツバキは暗い森の中を歩いている。月光花の洞窟でツバキの影の中に入った後、ツバキはこの国を壊す為にまず城の方へと向かおうとしたのだが、スミレから一緒に来て欲しい所があるとお願いされ、ツバキも特に断る理由が無かった為、スミレ先導の元どこかも分からない目的地に向かっていた。


 「そういえばツバキ様、お身体の具合は大丈夫ですか?」


 スミレは思い出したかのようにツバキに尋ねる。覚醒による急激な魔力の増大によってツバキは身体も急成長している。魔力と身体の急激な変化でどこか不調を起こしていないか心配をしたのだ。


 そんなスミレの心配に対して、ツバキは「……ふふ」と可笑しそうに笑い、


 「……あら、あなた私の身体を今まで弄ってきたじゃない?それなのに心配してくれるのね」


 「うう……、それを言われると何も言い返せません」


 「……冗談よ。私ね、結構今の力を気に入ってるの」


 ツバキはそう言うと自身の影に魔力を流し込む。するとツバキの影は実体化し、ツバキ達の進行方向にある木々を鋭利な姿となったツバキの影が次々と切り倒していった。


 「……力って素晴らしいわね。溜まってた鬱憤を晴らしてくれるし、もう我慢なんてしなくて良いのだから」


 ツバキはスミレに笑みを浮かべる。その笑みはとても満足している様にスミレは感じた。


 「…………と、ツバキ様、着きましたよ」


 そんな話をしている内に目的の場所に着いた。最後にツバキが道を切り開いてくれたので思っていたより早い到着だった。


 「……ここは」


 ツバキは目の前の光景に目を奪われる。夜でも視認出来るほど透き通った綺麗な水、その水面に美しく映る満月、ツバキはこの場所に来たことはないが、話には聞いた事がある。


 「……月触の泉?」


 「そうです」


 ツバキの言葉にスミレはツバキの横に並び、同じく月の映る水面を見つめて答える。


 「吸血鬼カーミュラと眷属サクラの始まりの場所ですよ」


 スミレは妖刀アキギリを前に掲げる。妖刀アキギリは何かに反応してるかのように、月触の泉を前にして青白く光り出した。


 「……初めて来たけど素敵な場所ね」


 「ええ、あのカーミュラ様のお気に入りの場所ですから」


 「……心なしか私の中の魔力が騒いでいでいる気がするわ」


 ツバキはその場に座り月触の泉を眺める。覚醒したからなのか、この場所に来たからなのか、はたまたその両方なのか分からないが、ツバキは今とても心地よい気分に浸っている。こんな気分になるのは久しぶりであった。


 「……ありがとねスミレ。こんないい場所に連れて来てくれて」


 「いえ、私もツバキ様とこの場所に来たかったのですから、むしろお礼を言うのは私の方ですよ」


 ツバキもスミレも先程の月光花の洞窟での争いなど忘れたかのようにリラックスしている。そしてスミレはそんな中ツバキの前で膝まづき、


 「では改めてツバキ様……。私をツバキ様の眷属として、お傍にいさせて頂けますか?」


 とツバキにお願いする。伝承におけるサクラの様に、一生添い遂げる眷属で在りたい、スミレが幼少期からずっと望んでいた願いであった。


 「……今の私はもう人間じゃないのよ?」


 「構いません」


 「……私はもう普通でいられないのよ?」


 「それでもツバキ様の眷属になりたいです」


 「……そう」


 ツバキは泉の水面に映る満月に手を差し伸べる。手が水面に触れると月は揺らいでしまうが、すぐに綺麗な満月を映し出す。


 「……私が変わってもこの綺麗な月は変わらない。それと同じ様にスミレも私の味方でいてくれるのかしら?」


 「一生……、この身が朽ち果てるまで」


 「……ありがとう」


 ツバキは水面から手を離し、そのままスミレの手を握る。吸血鬼と人間、種族は大きく違えど固い絆がそこにはあった。それはまるで伝承のカーミュラとサクラのように。


 「……それじゃスミレ」


 ツバキはスミレの手を握ったまま立ち上がる。そして泉とは正反対の方を向き、


 「……まずはあのお姉ちゃん達を倒しましょ」


 スミレはツバキの言葉に合わせて後ろを振り返る。そこには先程月光花の洞窟で別れたばかりのルナ、ミサ、オニヒメの三人が立っていた。


 「ツバキちゃん……」


 ルナはステッキをツバキとスミレの方に向けており、戦う気満々のようだ。しかしルナは笑みを浮かべている。それはとてもこれから殺し合いを始めるとは思えないとツバキは思った。


 そしてルナは口を開く。


 「君を助けに来たよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ