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第5話 吸血鬼覚醒(6)

 ツバキとスミレが消え、月光花の洞窟に残されたルナ達は呆然としていた。


 「あれが吸血鬼本来の力……、というわけじゃな」


 その空気の中、最初に言葉を発したのはオニヒメであった。


 「ワシも吸血()と同じ鬼族じゃから分かるが、あの者の力は計り知れぬ。……それにまだ完全に力を取り戻していないじゃろうな」


 「あれで!?」


 オニヒメの発言にルナは驚く。ルナはこの世界に来てダーウィンやミラージェ、それにルキアートなどの強者と戦ってきたが、先程のツバキとの一戦は彼らと引けを取らない程の強さを感じていたのだ。


 「それほど伝説の吸血鬼カーミュラは凄いということじゃ。…………それにしても困ったのぉ」


 オニヒメはグルっと辺りを見渡す。しかし当然ツバキ達の姿はもうどこにも見当たらない。


 「すっかり逃がしてしまったわ。完全に力を取り戻す前に対処せねばならないというのに」


 「でもヒントならありますよ♪」


 ミサはそう言うとリンドウ達の所へと歩いて行く。


 「吸血鬼ちゃんはこの国を滅ぼすって言ってました。……となるとやはりお城があるあの町一帯が狙いなんですかね?」


 リンドウはまだ状況の整理が追いついていないようだが、


 「…………いや」


 少し考えたあと、リンドウは一つの可能性を思い浮かべた。


 「あのスミレの口ぶりからするに、アイツはこの国に伝わる吸血鬼カーミュラの伝承を心酔している節がある。伝承ではここ月光花の洞窟は吸血鬼カーミュラとその眷属サクラが眠る地とされている。だからこそ、スミレはこの地でツバキを覚醒させようとしたのかもしれない。……となると、もしかしたらスミレは次は伝承における吸血鬼カーミュラと眷属サクラが出会った地、即ち伝承の始まりの地である月触(げっしょく)の泉に向かったかもしれない」


▽▽▽

 「それで?カーミュラはなんでここにずっと住んでいるんだ?」 


 カーミュラとサクラが出会い一週間が経ちました。その間二人は、最初に出会ったこの泉の側でお互いの話をしながら過ごしていました。そしてカーミュラの話を聞いていると、どうやら彼女はこの泉で50年近く生活をしているようなのです。


 「……この場所が好きだからよ」


 サクラの質問にカーミュラは泉の水面に手を触れながらそう答えます。


 「……この泉、すごく透き通っていて綺麗でしょ?それにほら……」


 カーミュラは少し離れた水面を指さします。


 「……この泉はね、月を綺麗に映し出すの。そして月が真上に来た時、私がさっき手を触れていた辺りに月が映し出されるのよ。……その時、私は月に触る事が出来るの 。だから私は月触の泉とこの場所を呼んでるわ」


 とカーミュラはサクラに説明します。


 「本当にカーミュラは月が好きなんだね」


 「……えぇ、月の光って幻想的でしょ?私の中の暗い心も、月は照らしてくれる気がするのよ」


 とカーミュラはサクラにそう答えて微笑みました。


 「……それよりサクラ、あなたこそもう一週間も私の話相手に付き合ってくれてるけど、冒険に行かなくて良いの?」


 今度はカーミュラがサクラに質問をしました。しかしこの質問をした直後にカーミュラは後悔をします。もしかしたらサクラは自分の元から離れてしまうかもしれないと思ったからです。


 「う〜ん、まぁ他に行ってみたい場所もあるし、いつまでもここに居るって事はないかなぁ」


 ズキン


 そのサクラの言葉を聞いてカーミュラの胸は痛みました。カーミュラはそれほどサクラの事を好きになっていました。それは彼女にとっては生まれて二百年以上過ぎてから経験する初恋だったのです。


 「…………でだ」


 サクラは少し泣きそうになっているカーミュラの手を握ります。


 「カーミュラ、俺と一緒に世界を回らないか?」


 「…………え?」


 突然のサクラからの提案にカーミュラは驚きました。


 「この島から出て、二人で色々な国を回って、胸躍るような冒険を俺としないか?」


 「…………え、……でも……」


 カーミュラにとってサクラの提案は嬉しい反面、少しの恐怖もありました。


 「……私は吸血鬼なのよ?普通の人間じゃないわ」


 「それが?」


 「……私は人間から恐れられる存在よ?その気になれば国の一つや二つ滅ぼしちゃうわ」


 「でも優しいカーミュラはそんな事しないだろ?」


 「……私を危険視して討伐に来る人達もいるかもしれないわ。最近は勇者?ていう人達が悪い魔族を退治して回ってるんでしょ?」


 「そしたら俺が返り討ちにしてやるよ!こう見えて俺はかなり強いんだぜ!」


 その後もカーミュラは自分がこの島から出ること、サクラと共に冒険に出ることで起こりうる悪い事を羅列しました。しかしサクラはその全てを問題ないと笑顔で答えるのです。


 「…………でも、…………でも」


 そしてとうとうカーミュラは言葉に詰まってしまいました。彼女の考える良くない事態は全て言い切ってしまったのです。


 そしてその様子を見てサクラは、


 「カーミュラ」


 優しい口調と優しい笑み、そして優しくカーミュラの手を握り、


 「どんな事が起ころうとも、俺はこれからもカーミュラと一緒に居たいと思う。それほどカーミュラ、君の事が好きなんだ」


 とサクラはカーミュラへの愛を伝えました。そしてカーミュラはその言葉を聞き、


 「…………私今後もずっと一人で永遠の時を過ごすと思っていた。でも、もしこんな化物の私でも願い持っていいのなら……」


 そう言ってカーミュラはサクラと口付けをしました。そして口付けを終えると、


 「……私はサクラと一緒の時を過ごしたいわ」


 目に涙を浮かべながら笑顔を浮かべてそうサクラに伝えました。


 そしてそんなカーミュラの言葉を受け、


 「あぁ、カーミュラ、君が一人で過ごした長い時間を全て帳消しにする様な思い出を二人で作っていこう」


 そう言って今度はサクラからカーミュラへ口付けをしました。


 そしてこの月触の泉の地より、伝説の吸血鬼カーミュラとその眷属サクラは吸血鬼と人間の垣根を越えた絆が生まれ、そして愛が結ばれたのです。


 〜吸血鬼カーミュラの伝承 中巻〜 より


 

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