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第5話 吸血鬼覚醒(4)

 むかしむかし、誰も住んでいない海に囲まれた小さな島に、一人の女性が住んでいました。


 彼女は常に独りでしたが寂しいと思った事はありません。二百年近い月日が彼女に孤独を慣れさせるのに充分な時間だったからです。


 そんな彼女の正体は吸血鬼でした。どのようにして生まれたのか彼女自身全く記憶にありません。親がいるのかさえ分かりません。しかし仮にいたとしても、既に死んでしまっているでしょう。


 見た人を魅了する綺麗な銀髪に吸い込まれる様な妖艶さを持つ紅い瞳、その容姿から当時の人々からは畏怖と恐怖の対象として彼女は扱われていました。故に、この島に吸血鬼が住んでいる事を知っている者は誰一人として近づきません。たまに何も知らずにやって来た者や力試しで吸血鬼を討伐しようとやってくる者がいましたが、そんな者共を彼女はいつも簡単にあしらって島から追い出していました。


 彼女は人間に対して微塵も関心を持っていませんでした。人間と吸血鬼の自分とでは生物としての次元があまりにもかけ離れていますし、吸血鬼と人間との間に友好な関係は築けないと思っていたからです。


 彼女は病むことも無ければ老いることもありません。怪我をしたとしても瞬時に回復します。いわゆる不老不死の存在なのです。また彼女は生まれながら膨大な量の魔力を持っていました。その気になれば近くにある国の一つや二つあっという間に滅ぼしてしまう程の力です。


 そしてある日の事、一人の男が吸血鬼のいる島へとやって来ました。彼は冒険者として世界中を一人で回っており、この島には吸血鬼の噂を聞いて興味が湧き来たそうです。


 男は特に苦労すること無く吸血鬼の所まで辿り着く事が出来ました。そして吸血鬼を目の前にして男は呆然と立ち尽くします。


 その様子を見て吸血鬼は、「またか……」と思いました。そしていつもの様にその男を島から追い出そうと魔力を体内から放出し、男の事を威嚇しました。そうすればいつもの様に相手は恐怖し、さっさとこの島から出て行くと思ったからです。


 しかしその男は違いました。いくら吸血鬼が威嚇をしても怯むことなく、ただただ彼女の事をじっと見ていたのです。


 流石の吸血鬼もそんな男の様子を不思議に思いました。やがて男は口を開きました。


 「一目惚れした!俺の女になってくれ!!」


 「……………………は?」


 男が何言っているのか吸血鬼は理解出来ませんでした。少し混乱をしてしまった彼女は魔力での威嚇を解いてしまいます。


 それを好意の証と勘違いしたのか、男は吸血鬼の元へと駆け寄って彼女の手を握り、


 「おぉ……、間近で見ると尚美しく綺麗な容姿だ!こんなにも麗しい女性は世界中を旅していて初めて会ったぞ!!」


 「なっ……………………!」


 吸血鬼はようやく自分がべた褒めされている事に気付きます。それと同時に顔がみるみる内に紅くなっていきました。彼女は男性から一人の女性として見られた経験が無かったのです。


 「ハハッ、吸血鬼でも照れるんだな!可愛い一面もあるじゃないか!」


 赤面する吸血鬼をからかう様に男は笑い、そして可愛いと言われた吸血鬼は更に顔を紅くするのでした。


▽▽▽

 それからというと、すっかり男に対して警戒心を解いた吸血鬼は色々とお話をする事にしました。


 「そう、あなたの名前はサクラというのね」


 「おう!……ところで君は何て名前なんだ?流石に吸血鬼と呼ぶのも他人行儀がすぎる気がするし、名前で呼びたいんだが」


 「………………無いわ」


 サクラの質問に吸血鬼は静かにそう答えました。


 「昔はあったかもしれないけど、今の私には名前なんて無いの。吸血鬼っていう名称さえあれば充分だったから」


 吸血鬼はそう言うと空を見上げました。いつの間にか日は完全に沈んでおり、真上には綺麗な星々と満月が夜の暗さを彩っています。


 「なら俺が名前つけてやろう!」


 「えっ?」


 サクラの言葉に吸血鬼は夜空からサクラへと視線を戻します。


 「名前が無いなんて寂しいだろ!……となると、君の美しさに合う名前を考えなくては……」


 そう言ってサクラは目を閉じ考え始めます。


 「…………カーミュラ」


 ボソッとサクラはそう口にする。そして自分で納得したのかうんうんと頷き、


 「カーミュラという名はどうだ?君に合う良い名前だと思うのだが……」


 「カーミュラ…………」


 吸血鬼はその名を口にします。不思議とその名前はしっくりときて、今まで感じた事のない暖かさが彼女を内側から包み込んでいきました。


 そんな満足そうな彼女の様子を見て、


 「決まりだな」


 とサクラは満面の笑みを彼女に向けます。


 「それじゃあ、改めて宜しくな!カーミュラ!」


 そう言ってサクラはカーミュラに手を差し伸べ、


 「…………ええ。宜しくね、サクラ」


 カーミュラもそんなサクラの手を握り返しました。


 そしてここからカーミュラとサクラの物語は始まるのです。


 〜吸血鬼カーミュラの伝承 上巻〜 より

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