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第5話 吸血鬼覚醒(2)

 十年前、一人の少女は一本の刀に魅了された。


 当時八歳であった少女はこの国に伝わる吸血鬼伝説のおとぎ話に夢中になっていた。ただし彼女の心を鷲掴みにしたのは吸血鬼ではない。もちろんおとぎ話の主役である女吸血鬼カーミュラはカッコいいと思っていた。しかしその少女の関心はカーミュラのパートナーであり、眷属であり、恋人でもあった一人の人間の男性にあった。カーミュラから唯一愛された人間であり、違う生物ながら愛するカーミュラの為に全人類を敵に回し、最期までカーミュラの隣に立ち続けたその姿に、少女は強く憧れの感情を抱いていた。


 そんな彼女が妖刀アキギリと出会ったのは月光花の洞窟であった。月光花の洞窟はおとぎ話において、カーミュラが最期を迎えた場所だと言われている。勇者によって力を封印されたカーミュラの身体を命懸けで勇者から奪い返し、人知れぬこの洞窟の奥でカーミュラの最期を看取り、そして死ぬ間際にカーミュラに託された二人の間に出来た子供を連れてこの国を創った。アスカではその様に伝承されており、言わば月光花の洞窟はこの国の始まりともいえる場所である。


 そんな少女にとって月光花の洞窟がこの国で一番好きな場所であるのは言うまでもない。その日も彼女はいつものように一人で月光花の洞窟に訪れていた。強いて違うと言えば、その日は満月の夜に訪れたという事だ。


 両親が寝た頃合いを見計らって家から抜け出し、誰にも見つからないように月光花の洞窟へ向かう。月の光が輝く夜という事もあり、月光花の洞窟入口には月の光を浴びて花々が美しく光る。言い伝えではこの花々は、カーミュラの眷属がカーミュラが安らかに眠れるようにと彼女が好きな満月の夜に合わせて作ったとされている。


 なんてロマンティックなのだろうと少女はその光景を見ながら思った。そして彼女はその光景を胸に焼き付けて洞窟の中へと入っていく。月の光にあてられてか、洞窟の中は真夜中にも関わらず比較的明るかったので、少女はどんどん奥へと進んで行く。 


 洞窟自体はそこまで広くない。子供の足でも三十分歩けば洞窟の奥に辿り着く事が出来た。


 少女は洞窟の奥に辿り着くと、ここに来た目的でもある二つの石碑の前に立った。それらは吸血鬼カーミュラと眷属の墓であると言い伝えられている。それぞれカーミュラの墓は眷属の男が、眷属の男の墓はカーミュラ達の子供が建てたらしい。


 少女はその二つ墓の前に月光花の洞窟の入口で事前に摘み取った花を供える。昔は多くの人々がここに訪れたようだが、今ではこの国の民において頻繁に通うのはこの少女くらいだ。


 少女は花を供えた後にお祈りをする。カーミュラとその眷属が安らかに眠れるようにと。これがこの少女が月光花の洞窟に来た際の習慣になっていた。


 お祈りを済ませた後、時間も時間なので少女は洞窟から出ようとする。


 その時であった。


 少女はカーミュの眷属の墓の背後で何か光っているのに気が付いた。先程まではそんな光はなかったので、不思議に思いつつも少女は墓の背後に回る。


 するとそこには一本の光り輝く刀が置いてあった。少女はその光に導かれるかのようにその刀を手にする。少女はその刀を初めて見たが、直ぐにそれがカーミュラの眷属が持っていたとされる妖刀アキギリであると直感で理解した。


 不思議な事に妖刀アキギリは少女の身体に合わせて丁度良い大きさへと変化する。当然生まれてから一度も刀なんてものを持ったことはない少女であったが、重さを感じることも無くまるで自分の手足のように振るう事が出来た。


 少女は喜んだ。まるでカーミュの眷属が自分を選んでくれたと思えたからだ。そして考えた。もしかすると近い未来、吸血鬼の生まれ変わりが現れるのではないかと。その時、隣に立って眷属として守り抜くのが自分の役目なのではないかと。


 そうと思えば少女は直ぐに帰宅し、朝になると両親に兵士として国に仕えたいと話した。幸い、父親が国の兵士長として勤めているので、反対されること無く、そして父親の口添えでまずば訓練兵として幼いながら武の道に進む事になった。


 それから四年の時が過ぎた。少女は父親譲りの剣術の腕と妖刀アキギリのお陰でみるみると実力をつけ、同性で国の兵士の中でも最も年齢が近いという理由で、皇女であるツバキの側仕えを任されるようになっていた。


 少女は懸命に側仕えの務めに励んだ。いつか自分の元に現れる吸血鬼の眷属となる予行演習を兼ねて。


 そんなある日の事だ。少女はその日は非番であり、いつもの日課であった自己鍛錬をしていると、慌てた兵士が少女の元にやって来た。曰く、ツバキが暴漢に襲われ心臓を刀で貫かれたと。


 少女は急いでツバキの元へ向かった。そして到着し、少女の目の前にいたのは、心臓を刺され死んだツバキではなく。


   吸血鬼の力を開花させたツバキであった。


 周囲の人々が心配し、慌て、混乱しいる中、少女は一人喜びで心が満ち溢れていた。自分の仕えるべき主はこんなにも近くにいたのだと。


 それから少女は更に努力を重ね16歳になる頃にはツバキを護る特殊防衛隊の隊長兼ツバキのお世話係として働くようになり、周囲からもその働きぶりを評価されていた。


 しかしやがて少女は疑問に思う。自分の主であるツバキがこんな囚われの身状態で良いのかと。まだ力を全く開花させていないのではないかと。


 やがて少女は今ある肩書きとは別に、特別研究所の副所長という隠れた身分を手にし、ツバキの心を上手くコントロールしつつ、ツバキの吸血鬼の力をより引き出す方法を探った。


 そして研究所にあった一冊の本。魔族について書かれた書を読み、少女はとある仮説を思い浮かべた。特別且つ強大な魔力を持つ者の一部が強い絶望に支配された時、その者の魔力は暴走する。それなら、ツバキの魔力を暴走状態にさせれば吸血鬼として完全覚醒するのではないか?


 そして少女…………スミレは思いつく。互いを何よりも大事に想い合う兄妹を目の前でぐちゃぐちゃにし、ツバキを絶望の底に叩きつける計画を。


 


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