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第4話 月下動乱(11)

 「ごめんなさい!!」


 「あ、頭を上げてください!誤解が解けたのであれば大丈夫ですから!!」


 謝罪の為頭を下げたルナにスイセンは慌てふためく。


 スイセンは研究と称してツバキの不死と超回復の特異性を利用し、非人道的な人体実験を行っていたと事前にスミレ(・・・)から聞いていたルナ達であったが、


 「…………スイセンはいつも私に気を遣ってくれるし、スイセンの研究は(・・・・・・・・)私の身体を大事に扱ってくれるよ」


 ツバキの説明は嘘をついてる風にもスイセンを庇っているようにも思えず、直ぐに誤解だったと理解した。


 「それでスイセンさんはどうしてここに?」


 ルナは既に魔法少女の変身を解き、残りの仲間達もスイセンに対する警戒を解いている。


 「あれ?副所長から何か聞いてないですか?」


 「副所長?………て誰ですか?」


 「??」


 スイセンとルナ達との間でどうも話が噛み合わない。


 「副所長……ていうのは貴方が属する研究所の方ですかね?でしたら私達はそのような方とは一度もお会いしてませんよ♪」


 ミサはルナやオニヒメ達にも一応確認をとるように視線を向け、それに対してルナ達は頷きで首肯する。


 「??どういう事ですか?」


 先程のルナ達の異様な敵意といい今の会話の噛み合わなさといい、スイセンは現状を全く把握出来ずにいる。


 しかし両者にハッキリ分かったこともあった。


 (副所長は嘘をついていた?)


 (スミレさんが私達を騙していた?)


 スイセンとルナは同時にその考えに辿り着く。


 「………ねぇ吸血鬼ちゃん、一つ確認してもいい?」


 「…………なに?悪魔のお姉ちゃん」


 ミサは聞き辛い事をツバキに尋ねようとしているのか、ミサらしくもなく躊躇う素振りをみせるが、やがて決意したのかしゃがんでツバキと視線を合わせ、


 「研究所の研究で酷い事されなかった?このスイセンって人以外に」


 「………………ええと」


 ツバキは初めてルナ達の前で困った様な素振りをみせる。そしてその様子からツバキが酷い扱いをされてきた事をルナも理解した。


 「安心して、私達はツバキちゃんの味方だから」


 「…………お姉ちゃん」


 ルナはツバキに優しく声を掛ける。そしてツバキはそんなルナの言葉を聞き、目を見て、今まで心の奥で抱えてきた苦しみが溢れ出てきた。


 「…………私、我慢した!頑張った!」


 一度溢れ出した思いをツバキは最早止める事など出来ない。


 「……お兄ちゃんの為って言われて!私が我慢すればお兄ちゃんも喜ぶって言われて!」


 次第にツバキの目から涙が溢れ出す。こんなに感情的になったのは久しぶりであった。


 「……身体をたくさん傷つけられて!お腹も切られて!」


 ツバキの声は次第に大きくなる。その悲痛な叫びを聞き、ルナ、ミサ、オニヒメ、オニキシ、そしてスイセンでさえ怒りで拳が震える。


 「……私の身体は直ぐに治るけど!それでも痛いの!辛いの!!」


 「もういいよ!!」


 ルナは泣き叫ぶツバキの身体を抱きしめる。ツバキは溜めていた想いを吐き出し終えたのか、ルナの胸の中でただただ泣いている。


 「誰が……、私の知らない所で誰がそんな酷い事を!!」


 スイセンもかなり腹が立ち、下を俯きながらも拳を尚震わせ怒鳴る。


 「もう分かってるのではないですか?」


 ミサはルナの胸で未だに泣いているツバキの頭を優しく撫でる。


 「ああ、奴で決まりじゃな」


 オニヒメは静かに、だけどかなりの怒りをこもった声で呟く。


 「流石に反吐がでる」


 オニキシは棍棒を手に持ちふつふつと魔力と殺意をあらわにさせる。

 

 「敵はアイツか……」


 ルナはツバキを抱きしめる力を強め、そして前方を睨みつける。それに合わせてミサやオニヒメ達もそちらに目線を向ける。 


 そこには一人の女性が立っていた。右手には怪しく光る刀を携え、左手には何かの仮面を持っている。そしてその女性は笑みを浮かべながらまずツバキに視線をやり、その後ツバキを抱きしめているルナを見た。


 「よくここに来れたね…………スミレ!!」


 ルナはスミレを睨みつけて彼女の名を叫んだ。


▽▽▽

 ルナとスミレが月光花の洞窟で再会する少し前、イーサンは目の前の光景を見て、無気力に項垂れていた。


 状況を端的に言えば、イーサン率いる聖王国の派遣隊は壊滅状態であった。今この場で立てているのはイーサン含め、バームスとルーミスの三人だけである。残りの兵士約100人は先程現れたフォーリアとロゼの魔人二人と一匹の魔獣(ネリィ)によって倒されていた。


 「ハハハ……なんだこれ」


 唯一の打開策も砕かれ、イーサンは最早笑うしかなかった。


 「イーサン殿……」


 よろよろになりながらも辛うじて立っているルーミスはイーサンの元へ近づく。


 「あの魔人共、恐らく手を抜いていた……。それほどまでに我々と力の差があった!!」


 悔しさと不甲斐なさからバームスの声は震えていた。


 「…………もうどうにでもなれや」


 「…………イーサン殿?」


 イーサンは歩き出し、先程リンドウの手によってザクロ皇子を撃った拳銃……魔道武器を持つ。


 「……バームス、ルーミス、お前らは国へ帰れ。吸血鬼のこと魔王軍の事を報告しろ」


 「イーサン殿はどうするのですか?」


 「……俺か?」


 バームスの問いにイーサンは、


 「俺は命を捨ててでも(・・・・・・・)あの魔族共と邪魔をしたリンドウって奴をぶっ殺す」


 そう言うとイーサンは銃口を自身の頭にくっつける。それを見てバームスとルーミスはイーサンが何をしようとしているのか理解した。


 バームスとルーミスはしばしの間無言になるが、


 「イーサン殿、私もお供します」


 「あぁ、こんなザマではニルファー様に顔向けができまい」


 とルーミスとバームスは口にする。そんな二人の目には強い覚悟の念が込められていた。


 「…………そうかよ、好きにしな」


 イーサンはバームスとルーミスにそう返すと、銃口を自分に突き立てたまま頭上を見上げ、


 「聖王国聖科学会魔道武器開発チームが作り出した魔道武器の禁じ手だ!あのクソ魔族共に聖の鉄槌を!」


 そう力強く叫ぶとイーサンは引き金を引き、それに続くように、


 「「聖の鉄槌を!!」」


 バームスは自身の魔道武器で心臓を撃ち抜き、ルーミスは双剣を喉元に突き刺した。

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