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第4話 月下動乱(10)

 「………………なっ」


 背後から胸を貫かれたザクロ皇子(・・・・・)は顔をゆっくりと後ろに向ける。


 「ど……どうしてお前が……」


 ザクロ皇子はそこで意識を失った。そのタイミングで背後から襲った人物はゆっくりと刀をザクロ皇子から引き抜き、それに合わせてザクロ皇子の胸から大量の血が溢れ出す。急所は外れていた為即死には至らなかったが、それでも早く治療しなければならない容態なのは一目瞭然だった。


 「ザクロ!おい、しっかりしろ!」


 回復薬は先程の一個しか持っていなかったので、リンドウは直ぐさま自身の着ている服の袖を破って簡易的な包帯を作り、止血する為にザクロ皇子の身体に巻いていく。その間どういう訳か、ザクロ皇子を背後から刺した人物は邪魔すること無くその様子を静かに眺めていた。


 「てめぇ……、どういうことだ」


 リンドウはその人物を睨みつける。


 「なぜザクロを殺そうとする!スミレ(・・・)!!」


 スミレは刀に付着しているザクロ皇子の血を振り払い、その飛び散った血がリンドウの顔へと直撃する。


 「ツバキ様の為ですよ」


 スミレは刀に付いてる残りの血を手ぬぐいで拭いながらそう答えた。


 「…………何を言ってやがる?」


 「ツバキ様はこのままこの国にいても魔王国に亡命しても幸せにはなれない」


 スミレは夜空に浮かぶ月を眺める。そして懐から一本の瓶を出し、その中に入っている液体をザクロ皇子に振りかけた。


 「…………回復薬?」


 それは先程リンドウが使った物と同じ回復薬である。それをどういう訳かスミレはザクロ皇子に使用した。


 「まだ死なれては困るからな」


 不思議そうにその様子を見ているリンドウにスミレはそう告げる。回復薬のお陰で再びザクロ皇子の傷口は塞がっていく。しかし、


 「ぐっ…………、がっ…………」


 「…………?おいザクロ!どうした!!」


 傷口は完全に塞がったが、ザクロ皇子は苦しむように呻き声を上げ始め、すぐにまた気を失ってしまった。この国では子供から老人まで幾多の人々がこの回復薬を使った事があるが、回復薬を用いてこの症状が出たのはこれまでの中で一人しかいない。


 「…………陛下と同じだ(・・・・・・)


 この国の元首にして今は深い眠りから覚めないザクロ皇子の父ヒナゲシ。ザクロ皇子の容態はヒナゲシ陛下と酷似していた。


 「何をした!?スミレ!!」


 ザクロ皇子の体を抱えながらリンドウはスミレを睨みつける。


 スミレは特に隠すつもりは無いようで、


 「呪いですよ。リンドウも噂くらい聞いた事あるでしょ?この国に古くから伝わるという妖刀を」


 スミレは手に持つ刀をリンドウによく見えるよう掲げる。その刀は月の光を浴び、不気味に淡く光っている。


 「…………妖刀アキギリか!」


 「流石リンドウ、ご名答です」


 「…………実在していたのか」


 「えぇ、凄い便利な刀ですよ」


 リンドウはスミレの持つ刀の名前を聞いて動揺する。


 妖刀アキギリ、それは始祖の吸血鬼のパートナーであり恋人だった男の愛刀だと言われており、彼らの子供がこの国の先祖として吸血鬼の血を受け継いだように、妖刀アキギリもアスカに遺されていると言い伝えられていた。


 「どこでそれを!?」


 「さぁどこでしょう?」


 スミレはニヤリと笑い、そして懐から仮面(・・)を取り出すと、


 「安心して下さい。ザクロ皇子を殺しはしません。彼にはツバキ様の吸血鬼としての覚醒(・・・・・・・・・)の為にまだ必要ですから」


 手にした仮面を被り、スッと妖刀アキギリの剣先をリンドウに向け、


 「悪いけどリンドウ……、貴方は私の計画に邪魔なの。だからここで…………」


 勢いよくリンドウ目掛けて斬り掛かる。


 「死んで!!」


 リンドウは咄嗟にザクロ皇子の刀を持ち妖刀アキギリの一撃を受け止める。


 「悪いが俺はお前に殺される訳にはいかないんだよ!」 


 「さっきまで死ぬ気だったくせして!」


 「俺の命はこの国とツバキ様と親友(ザクロ)の未来の為に捨てると決めた!決してお前の為ではない!!」


 リンドウは刀に力を込め、妖刀アキギリごとスミレを押し返す。その反動でスミレの体制が崩れた隙にリンドウは一気に距離を詰め、今度はリンドウがスミレの腕を斬りつける。


 「ガッ……!」


 リンドウの刀は直前でスミレが体勢を立て直した為急所は逸れたが、それでもスミレの肩を負傷させることに成功する。


 「文官のくせに……、大した剣術じゃない……」


 「ザクロの隣に立つ男だぞ、あまり見くびるな」


 リンドウとスミレは互いに剣先を向け、相手の出方を伺う。両者の間には殺し合い特有の雰囲気が流れる。そしてその空気を壊したのは……、


 「リンドウさん!ザクロ皇子!無事か!!」


 遠くの方からこちらに駆け寄ってくる声だった。


 「チッ、邪魔が入った」


 スミレは声のした方を向いて舌打ちをし、妖刀アキギリを下ろす。


 「…………私にはやらなくてはならない事がある。ひとまず今は失礼させてもらう」


 「逃がすかよ!!」


 リンドウはスミレの胴体目掛けて刀を薙ぎ払う。しかし刀は何もない空間を空振りし、気付いた時にはスミレの姿は消えていた。


 「今晩で全てが終わる。…………いや、今宵から始まるんだ。新たな伝説が!!」


 後に残されたのはそんなスミレの言葉だけであった。


 「…………させねぇ、何を考えているのか知らねぇが、お前の好きにはさせねぇぞ!スミレ!!」


 リンドウはひとまずザクロ皇子の身の安全を確保しつつ、急いでツバキの元……、月光花の洞窟に向かう準備をする。そしてそのタイミンクで、


 「リンドウさん!!…………って、ザクロ皇子!?」


 聖王国の兵士の相手を任せていたロゼとフォーリアがリンドウの所に合流した。


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