第2話 エルフの集落(7)
「えっ?リーシャをですか?」
俺は目を丸くし族長に聞き返す。族長は頭を上げて目を閉じ、暫く思案した後
「これはリーシャにも話していない事なのですが……、実はリーシャは私の娘ではございません」
と話し始めた。
「リーシャは今は無きエルフの国のお姫様にてございます。エルフの国の王、つまりリーシャの実の父親とワシは古きからの友人でな、当時リーシャが産まれてすぐの頃、エルフの国は魔王国と親交を持っておった。それが原因で度々聖王国に侵攻をされており、ワシもよく魔王と縁を切り、中立国として立て直せと忠告したものじゃ、如何せん魔王の評判は良くなかったからの。しかし奴は「魔王サンジュリアは良い奴だよ」と言ってワシの忠告を聞かなかった。」
「……それで、そのエルフの国は聖王国に滅ぼされたのか?」
「いいや……」
と族長は首を横に振り、
「エルフの国は魔王に滅ぼされた」
「魔王に!?」
俺は驚いた。少なくとも族長の話を聞く限りではリーシャの父は魔王と親交があったと言っていた。つまり魔王軍と敵対関係では無かったと言うことだ。
「なんでですか?魔王とは親交関係にあったんでしょ?」
俺は族長に尋ねる。
「エルフの王族には代々不思議な加護の力が伝えられていてな。その力が原因だとワシは考えておる。」
「不思議な加護?」
「うむ。そもそもエルフは稀に結界を作る能力に長けている者が産まれる事があってな、ワシもその1人で、この集落や森はワシが結界を張っておる。そしてエルフの王族はこの結界術に恵まれた加護を代々受け継いでおるのじゃ。魔王はその能力を欲したのか邪魔かに思ったのじゃろ。」
ここまで話して族長は遠い過去を思い出すかのように目を閉じ、
「あの日、ワシもエルフの国におってな。当時の事は今でも鮮明に覚えておる……。燃え盛る城、蹂躙されるエルフの国の民。ワシは急いで友の元へと向かった。しかし時は遅く、ワシが着いた頃に妃は血まみれで倒れ込み、友は魔王の持つ剣に心臓を貫かれておった。怒りで我を失ったワシは無謀にも魔王に挑んだ、しかし簡単に返り討ちにあい、魔王は「目的は果たしたので、もうここには用はない。貴様は見逃してやる」と言って消えて行った。しかし幸いな事に産まれて間もないリーシャは友により結界で隠されておってな、殺されずに済んだのじゃ。リーシャが生きてると魔王に知られれば殺されると思ったワシはリーシャをワシの娘として集落に連れ帰った。」
「つまりリーシャは本当にお姫様で、その王族に伝わる加護を持っていると」
「そのとおりじゃ」
と族長は頷く。
「リーシャはまだその力を開花させておらん。そして近々の魔族による近隣の襲撃は魔王がリーシャの存在に気付いたからではないかと思っておる。」
「でもそれなら尚更、リーシャを外に出すべきではないんじゃないの?この集落は結界で守られてるし、聖王国に保護されてるんでしょ?」
「それがそうもいかんのじゃ。というのもワシも歳のせいか結界を張る力が衰えてきてな、それもあって聖王国に保護を求めている面もあるのじゃ。その内結界を張れなくなり、魔族の侵攻を許すことになるだろう。それも遠くない内に。そんな時じゃ、ルナ殿、貴方様が現れた。貴方様程の実力ならリーシャを守る事が出来るじゃろうし、ここにいるより貴方様の側に居た方が安全だと思うのじゃ。さっきも話したがそなたほどの実力なら聖王国で重宝されるじゃろう。リーシャには貴方様と共に聖王国の懐で保護されて欲しいのじゃ」
と族長は語った。そして族長は「それに……」と
「ルナ殿、貴方様はリーシャにとって初めて出来た心から気を許せる友人じゃ。それにリーシャはこの集落の外の世界を全く知らん、……それをワシは申し訳なく思っておった。そんな中リーシャにとってルナ殿と共に外の世界を見るのは良い機会じゃとワシは思っておる。……まぁ、リーシャがそれを望むのならであるがな」
と続けた。俺は少し考えた後、
「私はこの世界の事はよく知りません。でもこの力は正義の為に使いたい、悪と戦う為に使うものと思ってます。その為にお食事の時この世界の話を聞いた時まずは聖王国に行き、魔王と戦う準備をしたいと思ってました。でも私にはここの人達以外に知り合いはいません。ですので友であるリーシャが一緒に来てくれたらとても心強いですし、とても嬉しいです。」
と俺は族長に伝えた。族長は俺の言葉を聞いて安心したのか「ホッ」と安堵をし、
「ありがとうございます。リーシャには今晩にでも今ルナ殿にお伝えした事をそのまま話そうと考えております。」
と族長は話した。
▽▽▽
ルナ殿はワシとの話を終えると自室へと戻られてた。
「これで良かったのじゃろう、ルーシアよ……」
ワシは亡き友の名を口に出し、窓から見える夜空の星々を見上げた。ルナ殿には話さなかったが、次魔族からの襲撃に会えばいくら聖王国の庇護下にいるとはいえ、無事では済まないだろう。それこそエルフの国の様に滅びる可能性もある。
|(ルーシアよ、お主はどうして魔王サンジュリアをあれほど信用しておったのじゃ。そして頑なに聖王国を目の敵のようにしておった。)
ワシはルーシアの事を思い出し、一人感慨に深ける。ルーシアはよくワシに「人間をそこまで信用するな」と口癖の様に言っていた。しかしその結果が国の滅亡だ。魔族は所詮魔族、全てをその手で支配しようとする輩なのだ。
「ルーシアよ、ワシはお主と違い、人間と共に生きていく。お主はこの事を知ったら怒るであろうがな。しかしワシはお主が魔王に殺された光景が今でも鮮明に覚えておる。友を殺した魔王をワシは信じることは出来んのじゃ」
とルーシアに聞こえるわけもないのだが、ワシはルーシアに向かってそう呟き、リーシャに話をする為、リーシャの部屋へと向かった。