第4話 月下動乱(8)
「お姫様の次は皇子様の奪還か………」
ザクロ皇子が囚われている海岸から少し離れた森の茂みにて、その様子を伺っていたロゼはそう零す。
集合場所である月光花の洞窟に来ないザクロ皇子達を探しに周囲を探索していたロゼ達は、ネリィの嗅覚を頼りにこの場所に辿り着くことが出来たのだ。
「どうする、早速突撃してザクロ皇子の身柄を聖王国の連中から取り戻すか?」
ロゼは隣にいるフォーリアに声を掛ける。
「いえ、迂闊に飛び込んでザクロ皇子の身を危険に晒す訳にはいかないでしょう」
とフォーリアは冷静にそう答える。
そしてもう一人、
「…………恐らく奴らの狙いは魔王軍とザクロの接触ですね」
とロゼとフォーリアの後ろから同じようにザクロ皇子の様子を伺っているリンドウが答えた。
ロゼとフォーリアがリンドウと合流したのはここに来る少し前である。森の中を一人彷徨い歩いているリンドウを見つけたロゼ達は、何故月光花の洞窟に来なかったのかを尋ねると、
「ザクロはやる事があると言って一人でどこかに行ってしまいまして……。それで私もザクロは探しているところです」
と簡単にこれまでの経緯を教えてくれた。それからはリンドウに一緒にザクロ皇子を探そうとロゼが提案し、そうして今に至るのである。
「でもどうする?流石にいつまでもこのままって訳にはいかないだろ?」
少し焦った口調でロゼはそう口にする。そしてロゼの言葉に続くように、
「そうですね……。それにどうやら向こうは私達の事に気付いているようですし」
そう言ってフォーリアが囚われているザクロ皇子の前に立つイーサンを見る。そのイーサンは何やら手に持っている機械を見てニヤニヤしながらこちらの方に顔を向けた。恐らくロゼ達の姿までは見えていないだろうが、近くにいることは分かっているのだろう。
「…………多分あの機械だな」
リンドウはイーサンの持つ機械を見つめる。
「恐らく魔力を感知するとかそういった類いのものだろう。私はその辺よく分からないが、二人は魔力を持っているのですか?」
リンドウの質問にロゼは「しまった……」と頭を掻きながら、
「普段は魔力を隠しているんだが、ザクロ皇子達を探すのに魔獣を召喚してるから、もしそんな魔力に反応するレーダーをアイツらが持っているなら、俺達の事はバレているに違いない」
今はロゼの背後で姿を消して身を潜めているネリィの頭を撫でる。
「手ぶらで帰国する訳にもいかないところで、魔王軍がツバキ様を連れ去ったのを疑問に思い、それで我らアスカと魔王国が繋がっていると判断し、それでアスカの現在のトップであるザクロを拉致した……ってところですね」
パッと見で大方の状況をリンドウは把握する。
「つまり俺達魔王国側がわざわざザクロ皇子を救出に来たら、それは魔王国とアスカが繋がっている事の証明になる訳か」
ロゼは舌打ちをし、もう一度ザクロ皇子の囚われている状況を確認する。改めて見ればツバキを奪還する際に先頭に立っていた二人を中心に、周囲の兵士は臨戦態勢を取っている。それはまるでこれから敵が襲いに来ると分かっている様であった。
「………ロザさん、フォーリアさん。あの中心の二人を含め、聖王国の兵士の相手を少しだけお願い出来ますか?」
「それは構わないが…………。大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ……」
ロゼの質問にリンドウは笑みを浮かべながらも、悲しそうな表情をし、
「この状況も想定内ですから……」
▽▽▽
「………………!来る!!」
真っ先に反応したのはルーミスであった。凄まじい勢いで近づいてくる魔人目掛けて、双剣を思いっきり振りかざす。
「……おっと!」
その双剣の一撃を魔人化したロゼは槍で受け止める。そしてその隙を狙い、
「隙だらけだぞ!」
バームスがロゼの頭目掛けて魔道武器である銃を撃ち放つ。けたたましい音を轟かせながらロゼ目掛けて一直線に銃弾は飛んでいくが、
「私の事もお忘れなく!!」
その銃弾を同じく魔人化しているフォーリアがレイピアで真っ二つに切り落とした。
「ハハッ!本当に来たぜぇ、魔族共が!!」
ロゼとフォーリアの姿を見てイーサンは高笑いをしながら喜ぶ。
「これで言い逃れできませんなぁ、皇子殿?……バームス、ルーミス、ソイツらの相手は任せたぞ!」
「はっ!お前達!この魔人二人を囲むように陣形を取れ!」
イーサンの命令に従いルーミスは直ぐさま兵士に指示を出す。そしてそれに合わせて先程までザクロ皇子を包囲していた陣形はあっという間にロゼとフォーリアを囲む形になっていく。
「いくらあの魔王軍新幹部、魔法少女ルナの側近二人でも、この魔道武器を所持した精鋭部隊を相手にできるものか!」
「おっと、ルナの奴。もう有名人じゃねぇか!」
「まぁ、あれだけ暴れればねぇ……」
ルーミスの言葉にロゼは驚いた様に笑い、フォーリアは仕方ないといった感じにため息をつく。
「者共!一気にかか……」
「「「うわぁぁぁ!」」」
ルーミスが号令をかける寸前、兵士の何人かが悲鳴をあげながら何かに衝突され宙に舞っていく。
「っ!何事だ!?」
バームスは吹き飛んだ兵士の方に銃口を向ける。するとそこから黒い煙が突如現れ、そこから一匹の魔獣、黒獣馬のネリィが現れる。
ネリィの大きく迫力ある姿に何人かの兵士は怯えた様に怖気付いてしまう。
「恐れるな!!我らは誇り高きニルファー様の軍であるぞ!!」
そんな兵士達を見てルーミスは直ぐに檄を飛ばす。そしてその檄を受け兵士達は気を張りなおし、ロゼ、フォーリア、ネリィに魔道武器を構え向ける。
「数の利はこちらにある!聖王国に仇なす敵を討ち取れ!!」
▽▽▽
ルーミスの掛け声で本格的に戦闘が始まった頃、その様子を眺めているイーサンと囚われているザクロ皇子の元に一人の男が歩いて来た。
「おっ……、誰かと思えばあの時の役人じゃねぇか」
リンドウに気付いたイーサンは嬉しそうな表情を浮かべ、
「これでアスカと魔王国が繋がっていることは立証された!!後はこの情報を本国に持ち帰れば…………」
「…………何を勘違いしてるんですか?」
「………………あ?」
イーサンの言葉をリンドウは冷たい口調で遮った。
「勘違いだあ?魔王国と繋がっているんだろ?」
「えぇ、魔王国とは協力関係を結んでます」
そう言ってイーサンはゆっくりイーサンとザクロ皇子の元へ歩き出す。
「…………じゃあ何が勘違いだって言うんだ?」
イーサンは近づいてくるリンドウに銃口を向ける。しかしリンドウは怯むことなくイーサンの目の前に立ってその銃に手をかざし、
「魔王国と繋がっているのは私個人ですよ」
バンッ!
そう言うとリンドウは銃口をザクロ皇子へと動かし、発砲された銃弾はザクロ皇子の身体を突き抜けた。